2023年6月23日、リクシスは、第6回『全国ビジネスケアラー会議』を開催いたしました。
今回のテーマは「リモート介護」です。
遠距離で暮らしている親御さんがご高齢になるにつれ、心配事が増えてくるビジネスパーソンも多いのではないでしょうか?
実は、そんな不安や心配事を払拭してくれるツールやサービスが近年、増えてきており、IT機器活用により、安心して親御さんの生活を見守ることが可能になってきています。
この度、IT機器活用によって認知症の親御さんの一人在宅を実現したビジネスケアラーの方をお招きし、ご経験から培われた「リモート介護術」について詳しくお伺いしました。
これまで現場の介護職として2,000世帯以上のご家族を担当し、在宅介護、仕事と介護の両立支援に携わってきた介護プロ、木場猛氏も登壇し、「ビジネスケアラーに本当に役立つツール・サービス20選<リモート介護編>」を徹底解説しております。
仕事と介護の両立を目指す方なら絶対知っておきたい、リアルな活用術をご紹介していきます。
本記事は、この講演の最後に寄せられた視聴者様からのご質問に対する回答をご紹介しています。
当セミナーの第1部はこちら⇒【第1部】経験者に聞く 認知症でも一人在宅を実現したIT機器活用のリモート介護術(前編)
■登壇者プロフィール
国武敦子(くにたけ・あつこ)NPO法人キープ・ママ・スマイリング
病気を持つお子さんがいるご家庭を支援するNPO法人キープ・ママ・スマイリングに勤務、家族が笑顔でいられる社会、地域で安心して子育て・生活ができる社会を目指し活動するかたわら、IT機器活用によって認知症の親御さんの一人在宅を実現したビジネスケアラー。
木場猛(こば・たける)株式会社リクシス チーフケアオフィサー
東京大学卒業。在学中から現在まで20年以上、介護職として在宅介護の現場に立つ。2018年に株式会社リクシスに参画後は、同社の活動を通じて、介護を行うご家族の悩みに寄り添い続けている。介護の仕事に携わる中で、「雨が降ったら傘をさすように、困った時には当たり前に支えがある社会が必要」との考えを育み、その実現のために現在も奔走している。
新書「仕事は辞めない!働く×介護 両立の教科書」(日経クロスウーマン)
今回のテーマであるリモート介護。
第一部では、国武敦子氏が一人暮らしのお義母様をご主人様、義妹さんとご一緒に介護されたご経験を、実際に使われたリモート介護ツールのご紹介を交えながらお話いただきました。
第二部では、現場の介護職としてこれまで2,000世帯以上のご家族を担当し、仕事と介護の両立支援に携わってきた木場猛氏より、リモート介護に役立つ様々なIT機器ツール、サービス、活用術について、ビジネスケアラーと介護プロの視点から解説していただきました。
セミナー最後のQ&Aでは、登壇者である国武敦子氏のご主人様にもご参加いただき、視聴者様からの質問にお答えしていきます。
小平氏(司会進行役・以下敬称略):「ここからは国武さんご夫妻にもぜひご参加いただいて、Q&Aご質問への対応をしていけたらと思っております。国武さんのお家を整備されるにあたって、ご主人様がいろいろな機器が選定されたと伺っておりますが、この設備を整えるのに総額でおいくらぐらいかかったか伺ってもよろしいですか?」
国武敦子氏ご主人様(以下敬称略):「はい、カメラが10台ほどと「Alexa(アレクサ)」が6〜7台あったと思いますが、全体で10万円ちょっとでした。「Alexa」は画面がついているものが1万円から2万円。画面がついていないものだと5千円ほどで売っています。カメラは3千円から4千円、それを足して10万円ちょっとぐらいになると思います」
小平:「「月々の費用はインターネット代ぐらいでしょうか?」
国武:「そうですね、IT機器を使用するために月々にかかったのはインターネットの契約料金で、だいたい月に4〜5千円です。自分の家から母のいる実家まで往復すると電車代だけでも千数百円以上しますので、そういう意味では元が取れたかな、というイメージですね」
小平:「企業の人事部の方からの質問です。実際に働きながら介護をされていた国武さんからご覧になって、企業からどのようなサポートがあれば良いか、感じられたことがありましたらお聞かせください」
国武:「IT機器を使ったリモート介護の場合、見守りしながら仕事ができますので、在宅勤務ができると便利だとは思います。僕も在宅勤務しながら母の様子を「Alexa(アレクサ)」で見ていましたし、母が倒れた時も休日でしたが在宅で仕事をしていて、画面から異変に気づくことができました。会社にいる時でも、仕事中少し抜け出せるような、そういう雰囲気や環境があるといいなと思います。私の会社は今フリーアドレスオフィス(固定の席を持たず好きな場所で働くスタイル)になっているので、リモートの会議をするために小さな部屋が用意されているんです。そういう場所で、母へ「Alexa(アレクサ)」を使って指示をしたりもできましたので、企業側からそういった環境面でのサポートがあるといいなと思います」
小平:「国武さんのお話を伺っていると、仕事と家庭生活、やはり融合していかざるを得ない状況にあるのだなと思いました。昔は何時から何時は会社、何時から何時が家、と区切ることで会社への意志が問われた部分もありましたが、これからは融合していてもパフォーマンスは落ちずに働けるという環境づくりが必要だと感じますね」
小平:「お母様の他に叔父様・叔母様も、今後ご自身が介護に関与することになる方からのご質問です。リモート介護をする上で、ITスキルに関して、このぐらいのことができると大丈夫といった基準があったら教えてください」
国武:「三つほどあると思います。まず一つ目は、ブロードバンド環境が必須なので、ルーターの設定が必要です。大抵の家で既に設置されているかと思いますが、やはり設定に関しての知識は必要です。
二つ目が、ルーターと「Alexa(アレクサ)」やカメラなどのデバイスを接続するスキルですね。これはデバイスのアプリの指示に従ってやれば設定できるので、それほど難しくないと思います。
三つ目がトラブルが起きた時、特に機器がフリーズした時の対応ですね。
対応が二つありまして、ひとつはタイマーをつけて定期的にリセットすると不意なフリーズはなくなるという方法。私の場合は毎晩深夜に入り切りするようにしていました。
もうひとつの対応法として、電源のコードにスイッチを付けて、そこにデバイスやカメラなどを接続し、調子が悪くなったら電源を抜き差しする方法があります。私の場合は母親に連絡を取り、『電源を入れて切ってちょうだい』と言えばできましたので、それでしのぐということが結構ありました」
小平:「私の実家もそうなのですが、老親同士で住んでいるとインターネット環境やwifi環境は『必要ない』と言って、持っていない場合もあります。今は契約した業者がサポートサービスの一貫としてそういった環境設定をやってくださることも多いので、インターネット環境を導入することに関しては、場合によってはお任せしてしまうのもひとつかもしれないですね」
国武:「そうですね。多分数千円でネット回線をつなぐ設定してくれます」
小平:「これまでの国武さんのお話から、アプリを使って様々な指示や設定ができることが分かりましたが、国武さんご自身も困った時はマニュアルを読んで解決されたという感じでしょうか?」
国武:「基本的に、今はもう機器が入っている箱にマニュアルは付いてなんですよね。アプリでは非常に簡単に設定できるようになっているので、使い方について詳しい専門知識はそこまで必要ないと思います」
小平:「木場さんもいろいろとリモート介護に使えるIT機器を試されているとのことですが、必要とされるスキルはどのくらいのレベルが必要だと思われますか?」
木場氏(以下敬称略):「今のお話のように、インターネット接続は、初期設定だけはしっかりする必要があるので、そこは少し頑張りが必要かと思います。分からない人は他人に手伝ってもらうことが一番だと思います。今回私が紹介した、人材マッチングサービスなどは、大抵インターネットのことをやりますと書いてあるので、そういうサービスを使って手伝ってもらうのもいいかもしれませんね」
小平:「介護施設の個室で使えるIT機器はありますか?という質問ですが、実際、介護施設にそういった機器を置くことはできるのでしょうか?」
木場:「見守り関係ですと、基本的には施設側の備品にセンサーなどがありますので、施設側でやってくれることが多いですが、ご家族と連絡を取るためにお部屋に「Alexa(アレクサ)」を置いていらっしゃる方を見たことはあります。携帯やスマホの持ち込みは問題なく大丈夫だと思いますが、個人的な使用として「Alexa(アレクサ)」や見守りカメラを設置するとなると、オムツ交換などもありますのでご本人のプライバシーの話になると思います。機器の持ち込みは不可能ではないと思いますが、基本的には施設判断になるので、一度聞いてみるといいと思います」
小平:「親御さんの施設への入居時に、コミュニケーションを自由に取るツールを用意したいという希望があれば、こういうものは使えますか?と聞くことも大事ということですね?」
木場:「基本的にダメな理由はそれほどないのですが、介護スタッフの方の中にIT機器の扱いに詳しい人がいないと、「よく分からないのでダメです」と言われてしまうことがあります。それはちょっと残念なところですね」
小平:「Amazonの「Echo Show(エコーショー)」を使って海外から日本のご実家の見守りができますか?というご質問です。これは技術的には特に問題なくできるのでしょうか?」
国武:「「Echo Show(エコーショー)」は全てを同一のAmazonアカウントに紐付ける必要があります。私自身は海外から使用したことがないため詳しくはありませんが、WiFiでつながるVPN子機を使うことで海外から「Echo Show(エコーショー)」を利用できるようになるようです」
小平:「私は以前中国に住んでいたのですが、インターネットの通信に制限がかかる国の場合はできない場合もあるかもしれませんね。もし今聞いておられる方で中国でAmazonを使っている方がいたら、ぜひ事務局まで追加で情報いただけるようお願いいたします」
今回のテーマである「リモート介護」は、多くの介護ツールやサービスを知っていただくことにより、可能性を探ればここまで介護に選択肢の幅が広がるということを皆様に感じていただきたいという思いから企画を致しました。
登壇者であられた国武氏のケースは、認知症を抱えた一人暮らしのお母様の介護状態が進行していくなか、模索し続けたことによりリモート介護を実現したモデルケースと言えます。
それぞれの介護状況の限られたなかでの選択肢であっても、『働きながら介護している人が当たり前に輝く社会』の実現を目指し、ご本人様とご家族様と共に、より良い介護の形を考えていきたいと思っています。
当セミナーの第1部はこちら⇒【第1部】経験者に聞く 認知症でも一人在宅を実現したIT機器活用のリモート介護術(前編)
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サポナビ編集部