老人ホームや介護施設などの入居施設は、運営主体の違いや目的、入居条件が様々で、利用を検討する時にその違いを知っていることが大切になってきます。
介護が必要な方と自立している方の施設選びは大きく異なりますし、予算も重要なポイントです。
今回は、入居施設全11種の入居条件と目安費用の違いを一覧表にまとめ、それぞれの施設の特徴を解説していきます。
高齢者向けの入居施設は、まず、公的施設か民間施設で大きく分かれます。
基本的に介護保険制度が利用できる施設は国や自治体の認可を受けており、営利企業や社会福祉法人が運営しています。
それぞれの施設には、介護度や生活状況によって入居が可能かどうかの条件が決められています。
種類 | |
介護付有料老人ホーム | サービス付き高齢者向け住宅 |
住宅型有料老人ホーム | シニア向け分譲マンション |
グループホーム | 健康型有料老人ホーム |
特別養護老人ホーム | 軽費老人ホーム |
介護老人保健施設 | ケアハウス |
介護医療院(介護療養型施設) |
初期費用(入居一時金や保証金)の有無は施設によって大きく異なります。一般的に、特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、介護医療院などの介護保険施設と呼ばれる施設は初期費用が少ないですが、その他の民営施設などは初期費用に幅があります。
種類 | 初期費用の目安 | 月額費用の目安 |
介護付き有料老人ホーム | 0〜数百万円 | 15〜30万円 |
住宅型有料老人ホーム | 0〜数百万円 | 15〜30万円 |
グループホーム | 0〜数十万円 | 15〜20万円 |
特別養護老人ホーム | 0 | 5〜15万円 |
介護老人保健施設 | 0 | 8万〜14万円 |
介護医療院(介護療養型施設) | 0 | 9万〜17万円 |
サービス付き高齢者向け住宅 | 0〜数十万円 | 10〜30万円 |
健康型有料老人ホーム | 0〜数億円 | 10〜40万円 |
シニア向け分譲マンション | 数千万〜数億円 | 10〜30万円 |
軽費老人ホーム | 0〜数十万円 | 10〜30万円 |
ケアハウス | 数十万〜数百万円 | 10〜30万円 |
国や地方自治体、社会福祉法人など公的な団体が運営する公的施設は、介護度の重い方や低所得者の支援と保護に重点が置かれ、費用も安いことが特徴です。
一方、民間企業が運営している民間型施設では、身体の状態にあわせて幅広い選択肢があり、サービスの充実度や生活の質の高さが魅力ですが、費用は公的施設よりも高額であることを心得ておきましょう。
全11種の入居施設には、それぞれどのような特徴があるのでしょうか?
●運営形態:民間施設(介護保険利用施設とそうでないところがある)
●入居時の介護度条件:介護専用型と混合型によって異なる
大きく2タイプに分けられており、「介護専用型」は要介護1~5の認定を受けた要介護者のみが入居でき、「混合型」は自立・要支援と要介護の方が対象です。
ホーム常駐の介護スタッフによる24時間体制の手厚い介護サービスをはじめ、リハビリや機能訓練、生活支援サービス、レクリエーションやイベントが行われます。
看取り対応も可能な施設が多いので、介護度の高い終の棲家をお探しの方にとっては有力な選択肢とされています。
●運営形態:民間施設(介護保険サービスは外部サービスと契約など)
●入居時の介護度条件:施設による
自立の方から要支援・要介護の方まで入居が可能な老人ホームで、食事や清掃、買い物などの生活支援のほか、食事サービス、レクリエーションやイベントが行われます。
医療機関との提携により健康管理サービスの提供がある一方で、介護スタッフは常駐していないタイプもあるため、介護が必要な方は、通所型や訪問型の外部介護サービスを個別で契約する必要があります。
施設に外部の居宅介護支援事業所などが併設されているケースも多く、外部の介護サービスを利用しやすい工夫もされています。
中には、要介護度が高くなると退去しなくてならない施設もあるので、要介護認定を既に受けている方は事前確認をしておきましょう。
●運営形態:介護保険利用民間施設
●入居時の介護度条件:医師から認知症の診断を受けた要支援2以上の方
施設のある自治体に住民票がある方が利用できる地域密着型の施設で、認知症の診断をされた方のみが入居可能。1ユニット5〜9人の少人数制で、利用者が家事を役割分担しながらアットホームな雰囲気の中で共同生活を行います。
認知症ケアの専門知識をもつ介護スタッフが常駐し、24時間体制で生活サポートや適切なケアを受けられます。
認知症であっても身の回りのことがある程度自分でできる必要があり、医療ケアが必要になったり、他の利用者との共同生活が困難になると退去しなくてはならない場合があります。
●運営形態:公的介護保険施設
●入居時の介護度条件:原則要介護3以上
社会福祉法人や地方公共団体が運営する公共型施設で、要介護度3以上の高齢者が対象。通称で「特養」とも言われます。
入居費を介護保険でまかなえるので費用が安く、介護度の高い方が入居でき、終身利用が可能です。生活支援や介護サービスも充実しており、人気の高さから数年の入居待ちとなる場合も。
●運営形態:公的介護保険施設
●入居時の介護度条件:要介護の方
病院からの退院直後やケガなどにより自宅で日常生活を送るのが難しい高齢者のための、リハビリを目的とした公的介護保険施設。要介護1以上の方が対象。
理学療法士などの機能訓練専門職員が常駐し、リハビリや医療ケアを受けながら、自宅に復帰するための身体機能向上を目的としています。原則は3か月の短期入所となり、終身利用はできません。
●運営形態:公的介護保険施設
●入居時の介護度条件:要介護の方
医療ケアを必要としている、要介護1以上の方が対象の公的介護医療施設。
医師や看護師、理学療法士などの専門職員が常駐し、専門的な医療ケアやリハビリテーション、機能訓練を受けることができます。
長期療養も可能で、緊急対応や看取りなども行うことができます。
●運営形態:民間施設(介護保険サービスは外部サービスと契約など)
●入居時の介護度条件:なし
60歳以上の方を対象とするバリアフリーの高齢者向けマンション型住宅で、賃貸借契約を交わして入居。自宅のような環境で、自由度が高い生活を送ることができる施設です。
相談員が常駐し、安否確認や生活相談サービスを受けられるほか、談話室などの共同設備もあり、入居者同士の交流を図ることができます。
「一般型」と「介護型」があり、介護サービスの提供に違いがあります。「一般型」は通所型や訪問型の外部介護サービスを個別で契約。「介護型」の場合は、施設の介護職員による介護サービスを受けられます。
●運営形態:民間施設
●入居時の介護度条件:原則自立の方のみ
自立状態の元気な高齢者が対象で、室内はキッチンや浴室など設備が充実しており、自由度の高い生活を送ることができる施設です。
食事サービスがあるほか、温泉やスポーツジムなど共同で使える娯楽施設が充実していたり、定期的にレクリエーションが催されるなど、入居者間の交流を楽しめる工夫が凝らされています。
介護サービスの提供はなく、認知症の判定を受けたり要介護状態になった場合は、契約を解除し退去しなければなりません。
●運営形態:民間施設
●入居時の介護度条件:自立の方、介護度の低い方向け
高齢者を対象にしたバリアフリー構造の分譲マンション。
自立の方や介護度の低い方の利用が多く、生活援助サービスや見守りサービスなどが提供されています。介護サービスを利用する場合は、通所型や訪問型の外部介護サービスを個別で契約する必要があります。
物件購入となるため費用は高額で、温泉やプール、スポーツジムといったQOL(生活の質)の高い設備の充実度が他の施設と大きく違います。
●運営形態:公的施設
●入居時の介護度条件:自立の方
入居要件に「夫婦のどちらかが60歳以上」かつ「身の回りの世話ができて月収34万円以下」という条件が設けられ、他の老人ホームと比べて安い費用で入居が可能な公的施設。
自治体の助成によって安価で入居することができ、食事を提供するA型と、食事を提供しないB型があります。
●運営形態:公的施設
●入居時の介護度条件:自立の方(介護型サービスを利用する場合は要介護1以上)
前述の軽費老人ホームの種類の一つ(軽費老人ホームC型)ですが、「夫婦のどちらかが60歳以上」が条件となっており、所得条件は設けられていません。
食事・安否確認・生活相談などのサービスが受けられますが、介護型のサービスを受けるには「要介護1以上」であることが必要です。
施設選びのポイントとしては、まず第一に「入居条件を確認する」ことです。そのほか、看取りや介護・医療など将来予測できる変化に対応可能かを考慮することも大切です。
入居の目的を明確にした上で、資料請求をしたり施設見学をすることによって、費用や設備、対応してほしいサービスがあるかどうかをしっかりと確認しましょう。
地域包括センターや民間の紹介センター、担当のケアマネジャーへ相談し、ご自身とご家族の状態や環境に適した施設を検討していきましょう。
現在、老人ホームや介護施設は多岐に渡り、特徴や受け入れ対象の条件、費用においても大きな差があります。
利用するご高齢者の方の状態に合ったサービス、ご希望の過ごし方、施設の立地、支援者(介護家族・ビジネスケアラー)の負担など、施設入居は様々なことを考慮していかなくてはなりません。
自治体の窓口やケアマネジャーなど有識者の意見も聞きながら、後悔のない施設選びをしていきましょう。
金山峰之(かなやま・たかゆき) 介護福祉士、社会福祉士、准看護師。福祉系大学卒業後、20年近く在宅高齢者介護に従事。現場専門職の傍、介護関連の講師業(地域住民、自治体、国家公務員、専門職向け等)や学会のシンポジスト、介護企業向けコンサルティング事業、メーカー(ICT、食品、日用品等)へシニア市場の講演などを行っている。
厚生労働省関連調査研究事業委員、東京都介護人材確保関連事業等委員など経験。
元東京都介護福祉士会副会長。政策学修士。