時間単位で介護休暇が取得可能に

時間単位で介護休暇が取得可能に

企業の責任が大きくなってきている

介護離職は、誰のためにもならないものです。介護離職する本人にとっては、金銭的・身体的・精神的な負担の全てが上がってしまうことがわかっています。介護を抱えての再就職も簡単ではありません。企業にとっては、この人材難の時代、従業員に離職されてしまうことの業績インパクトが大きく、とても無視できません。そして国にとっても、介護離職は、離職した人の所得税のみならず、業績が悪化する企業からの法人税までも減らしまう可能性が高く、税収を減らしてしまう大事件です。

介護離職は、社会で取り組むべき大きな問題なのです。そして、高齢化が進むにつれ、この問題はどんどん大きくなってきています。しかし、介護離職の問題に対して、具体的な対策が打てるのは企業しかありません。離職を思いとどまらせる最前線は、企業の現場にあるからです。そうした背景もあって、企業、特に企業の人事部への国からの要求がどんどん高まってきています。人事部からすれば、ただでさえ忙しいのに、さらに追加で大きな仕事が降ってきている印象でしょう。

そうした中で、介護休暇の時間単位取得が2021年1月1日から施行されました。就業規則の変更が求められるだけでなく、運用ルールの制定や従業員への制度の周知などが必要になります。人事部として、これに真剣に対応しようとすれば、かなりの業務量が必要になります。さらに、こうした制度は、活用されてはじめて意味があるものです。活用されない、形だけの制度になってしまえば、本来の目的である仕事と介護の両立支援は進みません。

人事部によって対応のレベルが違ってきている

人事部の中には、こうした流れを受けて、先手をうって、就業規則の変更はもちろん、実際に活用されることを目指して、活用ベースでのKPI設計を行なっているところもあります。企業の業績に与える介護問題のインパクトは、どんどん大きくなってきています。この事実が正しく見えている人事部は、自分たちの頭で考えて、仕事と介護の両立がしやすい職場を目指し始めています。そうした人事部は、国が新たな指針を示した程度で、右往左往することがありません。国の指針よりも進んでいることが多いからです。

しかし、そうした人事部は、全体の中でもほんのわずかです。昨今の経営では、人事部のようなスタッフ部門の予算はギリギリまで絞られています。そうした限られた予算の中で、これまでの業務に加えて、介護問題への対応まで求められているわけです。そもそも、人事部にとっては、仕事と介護の両立というテーマは新しいものです。人事部員でさえ「介護とは何か」について、その理想も実態も知らないケースがほとんどです。これは、仕方のないことでしょう。

現代の人事部にとって最大のミッションは、優秀な人材を採用し、つなぎとめるところです。どこの企業の人事部も、ここに巨額の資金を投入していて、その他の人事施策は業務効率化の対象となっていることが多いようです。そうした中、介護に関しては、研修のためのわずかな予算を流用する程度になりやすいのです。しかし、それでは、これからますます大きくなっていく介護問題に対応することはできません。結果として、優秀な人材が退職したり、退職に至らないまでもパフォーマンスが大幅に下がることになります。

介護離職は「4点セット」では止められない

現在、仕事と介護の両立に動き始めている人事部において「4点セット」と呼ばれるものがあります。それらは(1)介護研修の実施(2)介護相談窓口の設置(3)介護休業・休暇の整備(4)介護パンフレットの作成、です。ただ、これらの施策では、従業員の介護支援として不十分というのが、多くの人事部員たちの声です。例えば、リクシスの仕事と介護の両立支援クラウド「LCAT」の利用者2500人のデータを分析したところ、日常的に介護に関わっていると答えた人のうち、介護研修に出たことがないという人が91%、ハンドブックを読んだことがないという人が87%に達しています。

介護中のビジネスパーソンの両立実態についてはこちらをご覧ください。https://www.lyxis.com/news/2020/01/21/323/

今はまだ、介護離職が発生するとはいえ、人数的には大きくないというのが現実です。しかし、人事部員が恐れているのは、介護離職は今後、爆発的に増えるということです。2025年問題として知られていることですが、そうした未来は確実に近づいてきています。また、介護離職に至らないまでも、パフォーマンスやエンゲージメントが下がることは、すでに大きな問題として顕在化しつつあります。

1人の介護離職が生まれる背景には、10人の介護離職を考えている従業員がいて、100人の介護に苦しむ従業員がいるものです(ヒヤリハットの法則)。介護離職は、介護問題の氷山の一角にすぎないことは、認識しておく必要があります。「うちには介護離職者はいないから、問題ない」といった考えは、間違っているのです。

人事部員のキャリアとしても、介護問題に強くなることは有利に働くでしょう。この採用難の時代に、従業員の離職を回避させつつ、パフォーマンス向上の支援ができるようになることは、人事部員のキャリアとしても保守本流です。とはいえ、いざ介護についてちゃんと勉強しようとすれば明らかな通り、その中身は複雑で、かなりの勉強量が必要になります。

いよいよ人事部の介護に関する仕事が忙しくなってきた

ただ、いかにそれが難しいと言っても、時代は待ってくれません。2025年に向けて、企業には、仕事と介護の両立に真面目に取り組む以外の選択肢はないのです。少しずつでも、従業員の介護問題への対応を強化していく必要があります。そうした背景から、いよいよ、人事部の介護に関する仕事が忙しくなってきています。

人事部員で、仕事と介護の両立を担当することになった人は、その仕事量の多さに圧倒されていることでしょう。しかし、そうした人は、決して孤立していません。日本全国で、そしていずれは世界で、仕事と介護の両立は大きな問題になるのです。大変な仕事ですが、同じ問題に向かう仲間は、組織の内外において必ず増えて行きます。

それでも、介護問題に向かう自分は孤立していると感じるなら、社外の勉強会などに参加してみてください。まだまだ数は少ないですが、介護をテーマとした人事部の集まりも生まれてきています。少しずつではあっても、介護に関することを学び、仕事と介護の両立に苦しむ従業員の支援ができるようになっていくことを目指してもらいたいです。

介護休暇の単位時間取得については、厚生労働省からの通知をご参照ください。https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000582033.pdf

この記事の監修者

回答者アイコン木場 猛(こば・たける) 株式会社チェンジウェーブグループ リクシスCCO(チーフケアオフィサー) 介護福祉士 介護支援専門員 東京大学文学部卒業。高齢者支援や介護の現場に携わりながら、 国内ビジネスケアラーデータ取得数最多の仕事と介護の両立支援クラウド「LCAT」ラーニングコンテンツ監修や「仕事と介護の両立個別相談窓口」相談業務を担当。 3年間で400名以上のビジネスケアラーであるご家族の相談を受けた経験あり。セミナー受講者数、延べ約2万人超。 著書:『仕事は辞めない!働く×介護 両立の教科書(日経クロスウーマン)』
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