親の健康を左右する「食事」と「フレイル予防」の始め方(後半)

はじめに

2026年2月、リクシスは第33回『全国ビジネスケアラー会議』を開催しました。
これから高齢社会がより一層加速し、仕事と介護の両立が当たり前の時代がやってきます。本オンラインセミナーは、高齢化の流れが加速する日本社会において、現役世代として働きつつ、同時にご家族の介護にも携わっている「ビジネスケアラー」の方々とその予備軍となる皆様に向けたセミナーです。

今回のテーマは、「親の健康を左右する 食事とフレイル予防の始め方」。

高齢化が進むなか、親の体力や食事の変化が気になったことはありませんか。
「最近、食が細くなった」「痩せてきた気がする」――そんな小さな変化は、フレイル(虚弱)のサインかもしれません。

フレイルは、年齢とともに体力や気力が低下し、このまま進むと日常生活に支えが必要になる可能性のある状態です。ただし、適切な食事や生活習慣を意識することで、進行をゆるやかにしたり、元気な状態を保ったりできる段階でもあります。

今回は、健康促進・介護予防の専門家である木村美佳先生をお招きし、フレイル予防において食事が重要とされる理由や、高齢期に意識したい栄養のポイント、日常生活で無理なく始められる工夫について解説していただきました。

この記事では、

・高齢期に重要なたんぱく質の役割
・やせすぎのリスクと年齢に応じたBMI・エネルギー管理
・たんぱく質摂取と筋力・身体機能・フレイルとの関連

などのテーマでまとめています。

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(前半)親の健康を左右する 食事とフレイル予防の始め方(前半)
(後半)親の健康を左右する 食事とフレイル予防の始め方(後半)⇐このページ
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登壇者プロフィール

木村 美佳(きむら・みか)
健康促進・介護予防の専門家
NPO法人国際生命科学研究機構
健康推進協力センター プロジェクトマネージャー 

お茶の水女子大学大学院家政学研究科食物学専攻(栄養学)修士課程修了。新技術事業団稲場生物フォトンプロジェクト研究員、東北大学助教、米国ペンシルバニア大学リサーチアソシエイト等を経て、現在ILSI Japan CHP プロジェクトマネージャー(ILSI Japan サイエンスプログラムマネージャー兼任)。食と運動を柱とした生活習慣病予防プログラムLiSM10!®(リズムテン)と介護予防プログラムTAKE10!®(テイクテン)のプログラム開発を担当。全国の自治体や社会福祉協議会、シルバー人材センター、NPO等から委託を受け、介護予防教室(東京都墨田区は継続21年目)や介護予防リーダー研修、講演等を行っている。

 

高齢期に重要なたんぱく質の役割

フレイル予防を考えるうえで、もう一つ重要なポイントが「十分なたんぱく質の摂取」です。特に高齢期では、意識してたんぱく質を摂ることが大切になります。

たんぱく質は、血液や筋肉、内臓、皮膚など、私たちの体をつくる主要な構成成分です。さらに、酵素やホルモン、神経伝達物質など、体の働きを支える重要な役割も担っています。

たんぱく質は「アミノ酸」がつながってできています。体内ではある程度アミノ酸を合成できますが、「必須アミノ酸」と呼ばれるものは体内でつくることができません。これらは食事から摂る必要があります。

たんぱく質には、動物性と植物性があります。肉や魚、卵、乳製品などの動物性たんぱく質は、必須アミノ酸がバランスよく含まれているのが特徴です。

一方、植物性たんぱく質は食品によってアミノ酸のバランスに偏りがあります。ただし、大豆は例外で、動物性に近い良質なたんぱく質を含んでいます。そのため、大豆製品は高く評価されています。

高齢期には、食事量が減る一方で、体を維持するためのたんぱく質はしっかり必要です。だからこそ、「質」と「量」の両方を意識することが重要になります。

 

高齢期は「たんぱく質は減らさない」が基本

ここで、国が定めている「食事摂取基準」を見てみます。

たんぱく質の推定平均必要量を年齢別に見ると、実は18~29歳と75歳以上で大きな差はありません。つまり、年齢が上がっても、たんぱく質の必要量はほとんど変わらないのです。

この点は意外に感じる方も多いかもしれません。しかし、これが国の示している基準です。男女では体格も異なるため違いはありますが、年齢についてはほとんど違いはありません。

一方で、エネルギー(カロリー)の必要量は年齢とともに減少していきます。活動量や基礎代謝が低下するため、必要なカロリーは少なくなります。

ここが高齢期の食事の大きなポイントです。

摂取すべきカロリーは減るのに、たんぱく質は減らない。むしろ、体内での合成効率は年齢とともに低下するため、同じ量を摂っても若い頃ほど効率よく利用できません。

高齢期は「食事量が減る中で、効率よくたんぱく質を摂ること」が重要になります。

特に寝たきりなど活動量が低い状態では、体の内部の働きも低下しやすく、より意識的なたんぱく質摂取が求められます。

なお、エネルギー必要量はあくまで参考値です。個人差が大きく、同じ食事でも太りやすい人、太りにくい人がいます。大切なのは、その人にとって適正な体格(BMI)を維持できるエネルギー量を見極めることです。

高齢期の食事では、「カロリーを抑える」ことよりも、「必要なたんぱく質を確保する」ことが重要になります。

 

高齢期は「やせすぎ」にも注意が必要

エネルギー摂取量の目安は、「その人にとって適正なBMIを維持できるかどうか」で考えることが大切です。

一般的に知られているBMIの基準は、18.5~24.9程度ですが、高齢期ではこの範囲がやや上に設定されています。

その理由は、やせすぎにもリスクがあることが分かっているからです。

確かに肥満はさまざまな疾患リスクと関連しますが、高齢者においては、やせている人のほうが死亡リスクが高くなるケースもあります。特に肺炎などによる死亡リスクは、やせている高齢者で高くなることが報告されています。

そのため、高齢期では「太らないようにする」こと以上に、「やせすぎないこと」が重要になります。

年齢が上がるほど、BMIの目標範囲がやや高めに設定されているのは、こうした背景があるためです。

高齢期の栄養管理では、体重を落とすことよりも、適正な体格を維持することが重要な視点になります。

 

たんぱく質摂取と身体機能・フレイルとの関連

良質なたんぱく質を多く含む5つの食品群(肉・魚・卵・乳製品・大豆製品)の摂取頻度を点数化し、その点数と身体機能との関係を分析した結果、明確な関連が確認されました。

摂取頻度が高い人ほど、実際のたんぱく質摂取量も多い傾向にあります。研究では、運動習慣や年齢などの影響を調整したうえで分析をしています。

具体的には、

・最大歩行速度
・握力
・Timed Up & Go Test(椅子から立ち上がり、目印を回って戻るテスト)

といった身体機能指標において、たんぱく質をしっかり摂っている人のほうが良好な結果を示しました。

また、筋肉量についても同様で、摂取頻度が高い人ほど筋肉量が多い傾向が見られました。BMIが体重全体を見る指標であるのに対し、SMI(骨格筋量指数)は筋肉量と身長のバランスを評価する指標ですが、高たんぱく食品の摂取頻度は、この指標とも関連しています。

さらに、フレイルとの関係を見ると、健常者よりもプレフレイルの人は点数が低く、フレイルの人はさらに低いという結果が示されています。

つまり、良質なたんぱく質を含む食品の摂取頻度が低いと、身体機能の低下やフレイルのリスクが高まる可能性があることが分かっています。

食事の多様性、とくにたんぱく質の確保は、筋力や自立した生活機能を支える重要な要素といえます。

 

フレイル予防は「バランス」と「たんぱく質」から始める

高齢期の食事のポイントは、大きく二つあります。

一つは「食事のバランス」。もう一つは「十分なたんぱく質の摂取」です。

これまでお話ししてきたように、さまざまな食品を組み合わせて食べること、そしてたんぱく質をしっかり確保することは、低栄養の予防につながります。低栄養はフレイルの大きな要因の一つです。

ただし、私は「食事だけでフレイル予防ができる」とは考えていません。

食欲が落ちる背景には、活動量の低下があります。動かなくなることで食欲が落ち、さらに食べなくなるという悪循環が起こります。だからこそ、食事とあわせて「体を動かすこと」も大切です。

まずは、三食きちんと食べること。
食べないよりは、食べること。

最初から理想的な完璧な食事を目指す必要はありません。人の食習慣は、一度にすべてを変えようとすると長続きしません。

今の食習慣の中で、変えられるところから少しずつ変えていく。
「今より少し良く」を積み重ねていく。

その積み重ねが、結果としてフレイル予防につながります。

チェック表を活用して自分の食事を見える化することも一つの方法です。データやグラフを見て納得することで、行動が変わる方も多くいらっしゃいます。

一方で、ご家族がいくら伝えても、なかなか言うことを聞いてくれない、ということもあると思います。実は、そうした場合には、ご家族よりも第三者から伝えてもらった方が、うまくいくことも少なくありません。

本日この後ご紹介するようなフレイル予防の取り組みも、その一つの方法です。専門家や外部のサポートを活用することも、始め方の選択肢として考えていただければと思います。

大切なのは、「ここから変えてみよう」と本人が思えるきっかけをつくることです。

以上で私からのお話は終わります。ご清聴ありがとうございました。

 

フレイル予防サービスのご案内(実証実験)

木村先生のお話にもあった通り、フレイル予防はご本人だけで取り組むのが難しい場合もあります。そこで現在、チェンジウェーブグループと連携し、フレイル予防サービスの実証実験を行っています。

本サービスでは、Fitbitで活動量を可視化し、LINEを通じて日々の体調や気分を確認。そのデータをもとに、専門家が一人ひとりに合わせたアドバイスを行います。栄養や生活習慣について、無理のない“小さな一歩”を提案することが特徴です。

実際に、食事量が少なく低栄養傾向だった方が、日々のやり取りを通じて少しずつ改善し、前向きな変化が見られた事例もあります。ご家族にとっても、「離れていても見守れる」安心感につながっています。

現在、65歳以上(要支援程度まで)の方を対象に、無料で実証実験への参加を募集しています。LINEが使えることが条件となりますが、初期設定はご家族にサポートいただき、その後は専門家が継続支援を行います。

ご関心のある方は、ぜひご案内ページよりお申し込みください。

 

参加者の皆さんへメッセージ

離れて暮らしていても、できることはあります。特に、帰省したときは大切なきっかけづくりのチャンスです。

例えば、一緒に買い物に行くこと。
年齢とともに、だんだん料理が億劫になり、食事が簡単なものに偏っていくことがあります。そんなときでも無理なく食べられそうなものを、一緒に選んでみてください。

レトルトや冷凍食品でも構いません。事前に「これなら食べられそう」「たんぱく質がしっかり取れそう」という商品を調べておき、帰省時に一緒に購入し、一緒に食べてみる。それだけでも十分な一歩です。

そして、「これはTAKE10で何点かな?」といった会話ができると、自然と食事への意識が高まります。

大切なのは、完璧を目指すことではありません。
一つ重ねること。少しずつ良くしていくこと。

その積み重ねが、「元気でいられる」という実感につながっていきます。

本日は、限られた時間の中でのお話となりましたが、お忙しい中お聞きいただき、誠にありがとうございました。

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