
「親の介護は子どもがすべき」
「施設に入れるなんて見捨てた気がする」
「周りから“家族がやらないと”と言われて苦しい」
介護が始まりかけた時期、あるいは始まったあとに、多くの人がこのような「正解が見えない葛藤」を抱えます。この悩みは、ただでさえ体力と時間を削られ、消耗していく介護の問題を複雑にします。
以下は、実際に寄せられた「介護のリアルな声」です。
ケース1:「本当は子どもが付きっきりで介護すべき?」という迷い
親が「子どもに迷惑をかけたくない」と言ってくれても、どこかで「本当は子どもが付きっきりで介護したほうがいいのではないか」と思ってしまい、サービスを使うことにためらいがあります。自分の楽を選んでいるようで、自信が持てません。
出典:「子どもが介護した方が良い」という気持ちを整理するには? (サポナビQA)
ケース2:サービス利用=「見捨てる」という罪悪感
父親の物忘れが目立ち始め、介護が必要になりそうです。無理なく介護をしていきたいと思う反面、実際にヘルパーにお世話になったり、施設に入れることを考えると、育ててもらった親を見捨てるような罪悪感が湧きます。この気持ちにどう折り合いをつければよいのでしょうか。
出典:サービスを利用すると親を見捨てる気分に。罪悪感とどう向き合えばよい? (サポナビQA)
ケース3:周囲や兄弟との価値観のズレ
「介護は長男の嫁が担うもの」「外部サービスを使うなんてもってのほか」といった価値観の違いや、経済的な負担の分担など、兄弟間でトラブルが起きそうで不安です。
出典:兄弟間で介護観が違うとき、揉めずに話し合うための工夫は? (サポナビQA)
このように多くの人が、理想と現実の間で苦しんでいます。
ここからは、こうした思い込みに押しつぶされそうな人が、自分を責めずに親を大切にし、現実的な介護のかたちを選べるようになるための「考え方」と「具体策」をお伝えします。
まず、いちばん大事なことをお伝えします。介護において大切なのは、“全部やること”ではなく、“関わり続けられるかたちを選ぶこと”です。
介護は、ゴールがいつ来るかわからない、終わりの見えない「長期戦」です。統計によると、健康寿命と平均寿命の間には約10年の期間があると言われています。
10年走り続けるために必要なのは、全力疾走ではなく「ペース配分」です。「子どもだから」と頑張りすぎて燃え尽きてしまえば、結果として親にも自分にもダメージが残ります。
実際に、介護を頑張りすぎて疲弊し、親子関係が悪化してしまうケースは後を絶ちません。密室での介護で孤立が進むと、ストレスが限界を超え、最悪の場合は虐待につながってしまう悲しい現実さえあります。
だからこそ、外部サービスや施設を使うことは、「見捨てる」ことではなく、親子関係を維持し、共倒れを防ぐための「戦略」なのです。
介護サービスは、親を大切にしない人が使うものではありません。むしろ、親の安全や生活の質を守るために、必要な支援を入れる「愛情のある判断」です。
介護には専門性が必要です。知識や経験のないまま家族だけで抱えると、転倒・誤嚥・腰痛などの事故や怪我につながるリスクもあります。
罪悪感を抱いたときには、こう言い換えてみてください。
「私は親を見捨てたのではなく、親を守るために“チーム介護”に切り替えた」
あなたは介護を投げ出すのではなく、チーム介護の一員へと、より高度な役割に移行するのです。
理屈ではわかっていても心がついていかない時は、以下の3つの視点で気持ちを整理してみてください。
罪悪感があるのは、あなたが親を大切に思っているからです。どうでもいい相手なら、罪悪感など抱きません。まずは、「それだけ親を思っているんだ」と、その感情を否定せずに受け止めてあげてください。
介護を「身体介護(排泄・入浴・移乗など)」と捉えると、外部に任せる=放棄、と感じやすくなります。しかし本来、家族介護の役割はもっと広く、もっと柔軟です。
これらは施設やヘルパーでは代替しにくい価値です。ですので、「親が寂しい思いをするかも」「自分が楽をしている」という罪悪感が湧くときは、以下のような「家族だからこそのサポート」を意識してみてください。
介護の本質は、排泄介助ではなく、その人がその人らしく生活できるよう心を寄せることなのです。
参考:忙しくてもできる!家族だからこその「ちょこっとサポート」5選
「自分が頑張らなきゃ」と思い詰めてしまったときには、元気だった頃の親御さんなら何と言うか、思い返してみてください。
あなたが子供の頃、ご両親はあなたの幸せを一番に願っていたはずです。もし、今のあなたが介護で疲れ果て、笑顔を失っている姿を見たら、親御さんは喜ぶでしょうか?
「そこまでしなくていい」
「あなたがボロボロになる姿を見るのはつらい」
「あなたの人生を大事にしなさい」
きっと、そう願っているはずです。親を大切に思うからこそ、「親が一番悲しむこと(=あなたが不幸になること)」を避ける選択をするのです。自分を犠牲にしないことは、親の願いを叶えることでもあるのではないでしょうか。
介護をする中で、ご自身の内側から湧く迷いとは別に、もうひとつ罪悪感を引き起こすものがあります。それが「周囲の声」や「社会の空気」です。親戚・近所・職場などの周囲は、悪気なくこう口にします。
「施設に入れるなんてかわいそう」「子どもがみるのが当たり前」
しかし、その人たちがあなたの生活を守ったり、介護を代わってくれることはありません。
こうした声に対しては、「価値観の議論をしない」ことが最大の解決策です。おすすめなのは、価値観ではなく事実に話を戻すことです。

「足腰が悪くなっていて、専門的なリハビリが必要なんです」
「介護は24時間なので、家族だけでは限界があります」
「万が一の事故や怪我を防ぐために、安全な環境を優先しました」
それでも何か言われたら、こう返して線引きをしましょう。

「心配してくれてありがとう。でも、今の私たちにはこれが一番良い選択だと思っているんです」
「専門職ともよく相談して決めたことだから、このかたちでやっていこうと思います」
感情論には付き合わない。これがあなたと親御さんの生活を守るための大切な境界線です。
「親の介護は子どもがすべき」。そう思ってしまうあなたは、とても親思いの人です。でも、介護を全部背負うことが愛情の証明になるわけではありません。
罪悪感でご自分を縛るのではなく、外部サービスの手を借りて「余裕」を作ってください。そして、その余裕で生まれた時間を使って、親御さんと笑い合ったり、感謝を伝え合ったりしてください。
介護をただ「大変なもの」として終わらせるのではなく、介護を通して親子の絆や温かい思い出といった「豊かなもの」を受け取ること。それが本当の意味での親孝行になるのだと思います。
岩瀬 良子(いわせ・りょうこ)
介護支援専門員(ケアマネジャー)/介護福祉士
京都大学卒業。病院・施設・在宅など多様な現場に従事し、英国ホスピス視察などを経て「地域ケア」と「納得のいく看取り」を探求・実践する。
現在はその知見を活かし、「仕事と介護の両立」に関する個別相談やQ&A対応、専門記事の編集を担当。現場のリアリティと専門知識に基づいた、正確で温かみのある情報発信を行っている。
【執筆協力】中央法規出版『生活援助従事者研修 公式テキスト』