「介護はプロに任せる」。そんな言葉を聞くと、どこかで後ろめたさを感じる方もいるかもしれません。でも、すべてを自分で抱え込むことが“いい介護”ではありません。
本当に大切なのは、親御さんが「ひとりじゃない」と感じられること。専門的なケアはプロに委ねつつ、あなたは親御さんの“気持ち”の部分をそっと支える。そこに、家族にしかできない役割があります。
とはいえ、何をすれば「心の支え」になるのか、よくわからないという声も多いもの。
この記事では、親御さんの心に寄り添う、具体的なサポート例をお伝えしていきます。
年齢を重ねると、身体の衰えよりも先に、気持ちが沈みやすくなることがあります。
たとえば、
「家族に迷惑をかけていないか」
「何の役にも立てなくなった」
「もう誰からも必要とされていない」
──そんな思いを抱える高齢の方は少なくありません。
けれど、親御さん本人は、そうした気持ちをなかなか口に出せないものです。そうこうしているうちに、気力を失って閉じこもりがちになり、そのままさらに衰えてしまうといったことも珍しくありません。
とはいえ、 そんな親御さんの姿を前に、あなた自身も「どう声をかければいいのか」「どう接すればいいのか」迷ってしまうことはないでしょうか。
そんなときは、ふと見かけた寂しげな背中に、そっと寄り添ってみてください。
ここからご紹介するのは、忙しい日々の中でもすぐに始められる、親の心を支えるちょっとした心配りです。
毎日の生活の中では、どうしても「やらなきゃいけないこと」に追われて、親がしてくれることがつい当たり前になってしまうことがあります。
でも、たとえばお茶を入れてくれたときや、「体に気をつけてね」と声をかけてくれたとき、「いってらっしゃい」と見送ってくれたとき。そんな小さな場面でも、いつも「ありがとう」を添えてみてください。
「ありがとう」の一言は、自分の存在が家族の役に立っていると感じるきっかけになります。それは孤独を遠ざけ、「自分はここにいていいんだ」と思わせてくれる言葉なのです。
介護にまつわることは、つい家族だけで話を進めてしまいがちです。でも、何かを決めるときには「お母さんはどう思う?」とひとこと、親御さんに聞く場面をつくってみてください。
たとえすぐに答えが出なくても、「ちゃんと聞いてもらえた」「自分の考えを大切にしてくれた」という実感は、自分の居場所や人生が守られている安心感につながります。
身体が衰えてくると、できなくなってきたことに目が行きがちです。しかし、少し工夫すれば関われることに目を向けてみると、日々の中に喜びや自信が生まれます。
たとえば、昔よく料理をしていた親御さんには、「今夜のメニュー、何がいいと思う?」と、一緒に考える時間を持つだけで十分です。「これ、どう思う?」と気軽に尋ねるだけでも、気持ちは動きます。
何もかも任せる必要はありません。ほんの少し相談してみるだけ、ちょっと頼ってみるだけでも、親御さんにとっては嬉しい時間になるのです。
たとえ離れて暮らしていても、スマホで写真を送ったり、SNSで「元気にしてる?」の一言をぽんと送るだけでも、気持ちは届きます。
「元気そうで安心したよ」
「今日こんなことがあってね」
――特別ではない、何気ない会話だからこそ、「いつもつながっている」感覚が得られるものです。
週に一回のやりとりでも十分です。小さなやりとりの積み重ねが、親御さんの老いの寂しさを確実にほぐしてくれます。
たとえば、昔よく通っていたお気に入りのレストランに一緒に行ってみる。あるいは、お墓参りに出かけてみる。そんな、少しだけ特別なお出かけは、心にあたたかい余韻を残します。
もちろん、頻繁である必要はありません。年に一度のお墓参りや、季節ごとのちょっとした遠出でも、親御さんにとっては元気のもとになるような、大切な時間になります。
「昔はこの道を歩いたね」
「ここ、あんたと来たの何年前だったかしら」
そんな懐かしい会話が自然に生まれる瞬間は、親御さんにとっても、そしてあなた自身にとっても、かけがえのないひとときになるでしょう。
外出がむずかしいときは、アルバムを一緒にめくるだけでも十分です。思い出を分かち合うことが、これまでを見つめ直すとともに、「きっとこれからも大丈夫」と思える力になります。
「何かしてあげたいけど、何もできていない」と感じている方へ。
親孝行は「できることを全部やる」ことではありません。介護職にはできない、家族だからこそできるサポートは、たくさんあります。そして、それはあなた自身の気持ちを軽くすることにもつながります。
無理をしない。けれど、放っておくわけでもない。身体的な介護はプロに任せて、「心は一緒にいる」という気持ちを届けることを大切にしてみてください。そのスタンスが、親御さんとのあたたかな関係を重ねていく第一歩になるはずです。
介護支援専門員(ケアマネジャー)・介護福祉士
京都大学卒業後、介護福祉士として、介護老人保健施設・小規模多機能型居宅介護・訪問介護(ヘルパー)の現場に従事。その後、育休中に取得した介護支援専門員の資格を活かし、居宅ケアマネジャーのキャリアを積む。「地域ぐるみの介護」と「納得のいく看取り」を志している。
介護プロ編集部