「なんでやってくれないの!!」そのモヤモヤ、ありませんか?
「お父さん、そろそろ病院行こうよ」「お母さん、デイサービス体験してみない?」「健康のために運動しようよ」
こんなふうにやさしく声をかけたつもりなのに、「大丈夫」「そんな必要ない」と返されてしまう。
こんなやきもきする気持ち、あなたも体験したことありませんか?
「親のため」と思っての行動や提案が、かえって反発を招いてしまう。
本当は「早めに対策をとっておきたい」だけなのに、それがうまく伝わらない。
実はその背景には、親と子の“立場の違い”や、“親の自尊心”が関係していることが多いのです。
では、どうすれば親が少しでも前向きに動いてくれるのでしょうか?
今回は、ちょっとした「子ども側の声かけ」のコツについてお伝えしていきたいと思います。
「親のため」と思って言ったことや行動が逆効果になってしまうのはなぜなのでしょうか。いくつか理由をみていきましょう。
人は誰もが、自分の考えとは違う「正論」を伝えられると“自分が否定された”と感じてしまうことが多い印象です。 特に親世代は、「親である自分が子どもに心配されるなんて情けない」と思いがちです。そもそも親世代には「自分の子どもには心配をかけたくない」という感情を抱いていることが多いので、 そこに命令口調や押しつけの姿勢が加わると、余計に気持ちが固くなってしまいます。
「 病院に行く」、「サービスを使う」という行動は間接的に親自身が自分の老いを認識するきっかけになってきます。子どもからすると、「親もだんだん老いてきた」と感じていても、実際の親自身はそう感じていないかもしれません。
実は、チェンジウェーブグループの調査*1で、60代・70代では5割近く、80代では6割以上の方が「自身の健康状態は実年齢より若い」と認識しているというデータがあり、60代の4割以上が、自分は「実年齢マイナス5歳」と回答しています。
このことからも、親自身と子ども世代において「親の老い」に対する見え方が違うということがわかります。だからこそ、正論や理屈よりも「親の感情への配慮」が何より大切になってくると言えるでしょう。
*1 出所)株式会社チェンジウェーブグループ「高齢者世代の自己年齢認識調査」
ではここで、声かけのコツを具体例を交えてお伝えしていきたいと思います。
ポイントは、「できない」のではなく「できる」という部分を強調することです。
【良いパターン】
「◯◯(孫)がおじいちゃん元気ないかもって心配してたから、メンテナンスのつもりで病院行って、まだまだ元気だよって◯◯(孫)にちゃんと証明してやろう」
→自分のためより孫のために行動を起こさせる。悪いことではなく、良い部分を見せるための行動だと認識を変える。
【悪いパターン】
「そろそろ年齢的にも病院行った方がいいよ!悪くなる前に行った方が良いよ」
→相手に老いを認識させる声かけになってしまっている。
【良いパターン】
「あそこのデイ、みんなで作業することもあるんだって。お母さんなら手先器用だし、頼りにされると思うよ」
→本人に「役割」を与え、できることを再認識してもらう
【悪いパターン】
「家に1人でいると心配だから、行って欲しい。ご飯も出るし楽できるよ」
→子ども都合での声かけ。「心配」という言葉が親には理解しにくい。
すべてを一度に変える必要はありません。まずは「親にどう動いてほしいか」よりも、「親がどう感じているか」に焦点を当ててみましょう。
一つでも会話の中で「ありがとう」「助かるよ」と伝えるだけで、親の気持ちは柔らかくなるものです。
そして、家族だけで抱え込まず、地域包括支援センターや医療職、ケアマネジャーなど、外部の“第三者の声”も借りてみてください。
「自分が言うより、他人からの言葉のほうが通じる」という場面は、意外と多いものです。
親を思うからこそ焦る。でも焦りは、時に逆効果になります。
「どう伝えるか」を少しだけ工夫することで、親子の関係も、未来も、少しずつ動き始めます。
まずは自分の思いを直接伝えることを一旦我慢して「親がどう感じているか」を聞くことから始めてみましょう。
そして、自分1人で悩まず周りの方に頼りましょう。
お互いの気持ちを知ることは生活をスムーズにすることに大いに役立ちます。ぜひ日常生活でもできることからやってみてください。
理学療法士、元デイサービス管理者
新卒で理学療法士免許を取得してから約10年以上、介護現場に身を置き、現在までに介護される人・介護する家族さん達延べ3000人以上の方々と関わる。また、地域住民向けに「介護に関すること」「健康な体作り」等のセミナーを50回以上開催。介護や認知症をもっと身近に感じてもらうためのワークショップを開催している。
【著書】『超簡単 管理者・リーダーのための介護業務を整理する5つの方法』『妻が妊娠したら、夫から始める14のこと』
介護プロ編集部