
「元気にしているとは言うけれど、本当のところは分からない」
「電話の声が、少し弱くなった気がする」
「何かあったとき、すぐに駆けつけられない距離が不安だ」
遠方に高齢の両親がいるビジネスマンにとって、こうした思いは決して珍しくありません。仕事や家庭を優先せざるを得ない中で、親の暮らしをどう支えるかは、多くの人が直面する現実的な課題です。
この記事では、
を整理しながら、無理なく続けられる見守りの形を考えていきます。
まず押さえておきたいのが、介護保険サービスの前提です。介護保険では、見守りのみを目的とした訪問サービスは原則として認められていません。
訪問介護は、
といった、具体的な支援が必要な場合に利用されます。
そのため、
「特に困ってはいないが、定期的に様子を見てほしい」
というニーズは、介護保険の枠外になります。
この点を理解した上で、介護保険以外の見守り手段を検討する必要があります。
高齢者の一人暮らしや老老世帯を支えるため、近年はさまざまな見守り方法が活用されています。ここでは、自治体による制度からICTを活用した方法まで、代表的な見守りの形を紹介します。
多くの自治体では、高齢者向けに緊急通報装置(緊急通報システム)を用意しています。自宅に設置した装置のボタンを押すことで、コールセンターなどにつながる仕組みです。
主な特徴
体調不良や転倒時に、自分で通報できる
24時間対応の窓口につながる
自治体の助成により、低額で利用できる場合が多い
利用時の注意点
年齢や世帯状況などの条件がある(主に65歳以上の高齢者世帯)
本人がボタンを操作できることが前提
自治体によっては、あらかじめ合鍵を預けておくことで、委託業者や登録済みの協力者が自宅に入り、安否確認まで行える体制を整えている場合もあります。
※詳細は「自治体名+緊急通報」で検索すると確認できます。
近年は、WEBカメラを利用した見守りも広く使われています。
室内にカメラを設置し、スマートフォンなどから様子を確認する方法です。
アレクサ(Echo Show)などの機器を使えば、映像の確認だけでなく、音声での声かけも可能です。
特徴
表情や生活の雰囲気が分かる
遠方からでも即時に確認できる
カメラによる見守りは、特に一人暮らしで認知症が進行している場合にも有効です。
実際の活用例については、以下の記事が参考になります。
▼子育て・介護のダブルケアと仕事の両立~実践者の体験談(後編):リモート介護~
最近特に広がっているのが、家電や電気の使用状況から生活リズムを把握する見守りです。
具体例
冷蔵庫や電気ポットの使用頻度
電気の使用状況
エアコンや照明の稼働有無
「普段どおりの生活ができているか」を自然に把握できるため、見守られる側の負担感が少ない方法として支持されています。
コンセントに挿すだけで使える見守りプラグも、導入しやすい選択肢です。
人感センサーや温度センサー付きの機器もあり、熱中症対策や室内環境の把握にも役立ちます。
メリット
初期費用が比較的安い
工事不要で設置が簡単
スマートフォンで遠隔確認できる
【関連ページ】保険外サービス紹介
地域には、民生委員や友愛訪問、傾聴ボランティアといった、人を介した支えの仕組みがあります。定期的な声かけや訪問、話し相手になることを通じて、高齢者の暮らしに寄り添う活動です。
民生委員は、厚生労働大臣から委嘱された非常勤の地方公務員で、地域住民の身近な相談役です。定期的な声かけや訪問を通じて、地域とのつながりを保つ手助けをしています。
傾聴ボランティアは、「話を否定せずに聴く」「気持ちを受け止める」ことを目的とした活動で、「用事はないけれど、誰かと話したい」という方の心の支えになることもあります。
こうした訪問活動は、社会福祉協議会のホームページなどで募集・紹介されている場合が多く、「地域名+社会福祉協議会」と検索すると見つけやすいでしょう。
ただし、これらは
という注意点があり、あくまで、見守りを補完する存在と考えるのが現実的です。
最近、特に注目されているのが「地域見守りネットワーク事業」です。
民間の宅配業者、郵便局、新聞配達、ヤクルト、生協など、日常的に訪問する事業者が異変に気づいた場合、自治体や関係機関と情報を共有する取り組みが進んでいます。
以下は実際にあった事例です。
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こうした生活の違和感に、地域の目が気づくことで、救急要請や安否確認、必要な支援につながった事例が実際に起きています。
特別な対応ではなく、日々の仕事や訪問の延長線上にある気づきを、地域全体での支え合いにつなげているのです。
見守りは、家族だけで抱え込むのではなく、ICTと地域交流を組み合わせることで、効果的で、続けられる仕組みになるはずです。
遠方に住む家族ができる高齢者見守りの最適解は、
ICTによる見守りと、地域での交流を組み合わせることです。
この二つは役割が異なり、どちらも欠かせない存在です。
「遠くの親戚より、近くの他人」という言葉があります。
遠くからはICTで状況を把握し、近くでは地域とのつながりが暮らしを支える。
この役割分担こそが、今の時代に合った高齢者見守りのかたちであると言えるでしょう。
岩瀬 良子(いわせ・りょうこ)
介護支援専門員(ケアマネジャー)/介護福祉士
京都大学卒業。病院・施設・在宅など多様な現場に従事し、英国ホスピス視察などを経て「地域ケア」と「納得のいく看取り」を探求・実践する。
現在はその知見を活かし、「仕事と介護の両立」に関する個別相談やQ&A対応、専門記事の編集を担当。現場のリアリティと専門知識に基づいた、正確で温かみのある情報発信を行っている。
【執筆協力】中央法規出版『生活援助従事者研修 公式テキスト』