介護施設をお探しの方であれば、「ユニットケア」という言葉はすでにご存じの方が多くなっていることと思います。近年の施設では、この「ユニットケア」が主流になりつつあり、人気の高い施設の居住スタイルです。
今回の記事では、従来型の介護から移行しつつある「ユニットケア」について、その特徴、メリット・デメリットや、従来型との比較、そして今後の介護の在りかたと共に、「ユニットケア」について紹介していきます。
ユニットケアとは、施設への入居後も自宅に近い環境で生活することを目指し、入居者の尊厳を重視した介護の形を指します。
厚生労働省は「居宅に近い居住環境の下で、居宅における生活に近い日常の生活の中でケアを行うこと、すなわち、生活単位と介護単位を一致させたケア」とユニットケアを定義し、普及を推奨しています。
10人程度の入居者を1ユニットとし、ユニットの共有スペースであるリビングや食堂を囲むような形でそれぞれが個室を持ち、ユニットごとに決まった介護スタッフがひとりひとりの生活リズムに合ったケアにあたります。
2001年、厚生労働省は、入居者の尊厳を尊重したケアの実現のため、特別養護老人ホームを全個室・ユニットケアへ整備していくことを発表しました。
参考:厚生労働省「ユニットケアについて」
介護が必要とされる場合でも、ごく普通の生活を送ることを目的としているのがユニットケアです。
厚生労働省によると、「入居者が、その有する能力に応じて、自らの生活様式及び生活習慣に沿って自律的な日常生活を営むことができるようにするため、入居者の日常生活を支援していく。各ユニットにおいて入居者がそれぞれの役割を持って生活を営むことができるよう配慮する。」ということを目的としサービスの提供が行われています。
個々のプライバシーを保ちながら、適度な距離感のなかで同じユニットの入居者同士が相互に関係を築き、それぞれの役割を持って人間らしく生活を営むことを支援します。
また、施設側もユニットという小さな単位を生かし、従来よりも細やかな個別ケアがしやすくなります。
ユニットごとに専任の介護職員が配置され、入居者とコミュニケーションを図りながら、ひとりひとりの個性や生活習慣、心身の状況などを具体的に把握し、その上でその人のリズムに沿った生活と、他の入居者との交流をサポートしていきます。
参考:厚生労働省「ユニットケアについて」
いちばんの大きな違いは、以下のような、部屋の構造です。
従来型の施設では、個室ではなく4人部屋といった多床室がほとんどです。そのためプライバシーを確保することは難しく、食事や入浴、レクリエーションなども、決められた時間に決められた形で行われ、介護側の事情に合わせた効率的な集団型ケアにならざるを得ない面がありました。
従来型に対しユニット型は、プライバシーが守られる個室が、共有スペースを取り囲むような形で配置されています。プライベートを確保しながら、共有スペースでは入居者同士で交流を楽しむこともできます。
食事や入浴もできる限り個々を尊重する姿勢が有り、それぞれの生活リズムが重視されて、従来型の集団的介護ケアとは異なる、個別対応型の介護ケアが可能となっていることがユニットケアの大きな特徴です。
多くのメリットがあるユニットケアですが、デメリットや課題も存在します。
ユニットケアのメリット、デメリットをそれぞれ見ていきましょう。
施設側(介護職員)にとっても、以下のようなメリットが挙げられます。
ユニットケアのメリットとして、プライベートな部分と他者と共有できる部分の良さを併せ持っていることが強みとなっています。施設側で決められたスケジュール通りに生活をしなくてはならない時間帯も少なく、従来型よりも自由な生活を送れることは大きな魅力です。
利用者にとっても、施設側(介護職員)にとっても、より満足度の高いサービスの提供を実感できることが、ユニットケアのメリットの特徴といえるでしょう。
施設側(介護職員)にとってのデメリット、以下のようなメリットが挙げられます。
ユニットケアのデメリットは、人間関係が近いことによるトラブルがある一方で孤独感を感じるというケースもあり、入居者の状態や性格により大きく異なります。また、従来型に比べて自己負担の費用が高いため、入居検討時に悩んでしまう方も少なくありません。
施設側(介護職員)にとっては、スタッフ1人における負担が大きくなってしまうということが主なデメリットです。質の高いサービスを提供するためにも、職員の職場環境・労働条件を整えていくことが今後の大きな課題であると言えます。
様々な特徴を持つユニットケアですが、主に、以下のような方が向いているとされています。
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また、介護度の重い方、認知症の方は、ユニットケアが持つメリットを多く享受出来ると言えそうです。専任スタッフの細やかなケアに加え、限られた人数の同じ顔ぶれで生活することは、認知症の方にとって気持ちの安定となります。
共用スペースが近くスタッフや入居者との距離を近く感じられると、介護度が重い、自分で動けない方にとっては、孤独感をやわらげ安心感につながる環境とも言えます。
逆に、人間関係の揉め事を避けたい方や、スタッフの方の世話が苦手だと感じる方は、従来型の施設の方が合っている場合もあります。
ユニットケアが合うかどうか検討される場合は、まずはショートステイを利用し実際に体験してみることが最適です。
厚生労働省が推奨するユニットケアは、施設への入居後も自宅に近い環境で生活することを目指し、入居者の尊厳を重視した介護の形です。
すべての施設がユニットケアになるのにはまだ時間がかかり、費用負担等の課題もありますが、ユニットケアは今後多く人々に求められる介護の形となっていくと言えます。
ユニットケアの特徴と、メリット・デメリットを理解し、見学や体験・ケアマネジャーへの相談を経て、利用者の方に適した選択をしていってください。
金山峰之(かなやま・たかゆき) 介護福祉士、社会福祉士、准看護師。福祉系大学卒業後、20年近く在宅高齢者介護に従事。現場専門職の傍、介護関連の講師業(地域住民、自治体、国家公務員、専門職向け等)や学会のシンポジスト、介護企業向けコンサルティング事業、メーカー(ICT、食品、日用品等)へシニア市場の講演などを行っている。
厚生労働省関連調査研究事業委員、東京都介護人材確保関連事業等委員など経験。
元東京都介護福祉士会副会長。政策学修士。