1分でわかる「介護が始まったとき、一人で抱え込まないために大切なこと」

1分でわかる「介護が始まったとき、一人で抱え込まないために大切なこと」

※この記事は、2022年12月23日に開催された第2回「全国ビジネスケアラー会議」のパネルディスカッションで語られた内容をもとにしています。

今回お話しいただいたのは、『母さん、ごめん。 50代独身男の介護奮闘記』の著者で、ノンフィクション作家・ジャーナリストの松浦晋也さん。約8年半にわたるお母様の介護経験を振り返り、その経験から見えてきた大切なポイントは、とてもシンプルでした。

それは、「一人で全部抱え込まないこと」です。

「親の様子が、なんだかおかしい」。そう思っても、すぐに介護について調べたり、誰かに相談したりするのは難しいものです。

仕事はいつも通りありますし、「まだ大丈夫かもしれない」「本人も嫌がるだろう」と考えているうちに、気づけば自分が目の前のことを全部引き受けている。

松浦さんも、最初は「自分がカバーすればいい」と考えていました。しかし、振り返って「一番まずかった」と話すのは、事前の知識がないまま、一人で抱え込んでしまったことでした。

 

「ちょっと変かも」を見過ごしてしまうことはある

松浦さんが母親の認知症を意識したきっかけは、「預金通帳が見つからない」という出来事でした。

ただ、後から振り返ると、それ以前にも変化はありました。長く続けていた太極拳を突然やめたり、まめにつけていたメモを書かなくなったりしていたのです。

それでも、「認知症かもしれない」と思ってから実際に動き出すまでには時間がかかりました。母親の変化を認めたくない気持ちが、自分にも本人にもあったからです。

その後、誰とどこで会うのかわからなくなったり、やかんを焦がしたりすることが増え、医療機関を探し始めます。しかし、評判のよい病院は予約が取れず、ここでも時間がかかりました。松浦さんは後になって、「行ける病院に早く行けばよかった」と振り返っています。

 

「自分がやればいい」が少しずつ重くなる

認知症と診断されたあとも、松浦さんはしばらく公的な介護サービスの存在を知りませんでした。母親の変化に対応するだけで精いっぱいになり、視野が狭くなっていたといいます。

松浦さんは、当時の自分を「茹でガエル」状態だったと振り返っています。

最初から介護の負担が大きければ、「これは一人では無理だ」と気づけるかもしれません。でも実際の介護では、「これくらいなら自分でできる」という小さな負担が少しずつ積み重なっていきます。そのため、気づいたときには心身ともにかなり追い詰められていることがあるのです。

松浦さんの場合も、自分で何とかできる段階から、次第に、失禁への対応や洗濯、日々のトラブルの後始末が増え、言い争いも多くなりました。ついには母親に手を上げてしまい、「同居を続けるのは無理だ」と感じるところまで追い詰められました。

ここで大きな支えになったのが、妹とケアマネジャーでした。

妹に事情を話したところ、責めるのではなく、ケアマネジャーへの連絡を引き受けてくれました。一人の中に閉じ込めていた問題が、家族や専門職と共有されたのです。

 

地域包括支援センターにつながると、選択肢が増える

状況が大きく動いたのは、地域包括支援センターに相談したことがきっかけでした。ヘルパーやデイサービスなどの支援が入り始め、家族だけで担っていた介護に、外部の力が加わりました。

介護が始まると、「自分が何をしてあげられるか」を考えがちです。でも、家族一人が使える時間も体力も有限です。仕事をしながら続けるなら、「自分がやらなくてもいいこと」を探す視点が大切です。

 

施設に任せることは、家族と専門職の役割を分担すること

松浦さんは最終的に、母親の施設入居を決めました。

本人は最後まで施設に入りたくないと言っていたため、入居後も松浦さんには罪悪感が残りました。そのため頻繁に施設へ通いましたが、そこで「家に帰りたい」と訴えられ、つらくなることもありました。

介護を他人に任せれば、悩みがすべて消えるわけではありません。それでも、施設に入ったことで、日常的な介護作業で疲れ切る状態は大きく改善しました。

介護サービスや施設を利用することは、「家族が何もしない」ということではありません。家族にしかできないことと、専門職に任せられることを分ける方法であるといえます。

 

介護は変化する。だから柔軟に体制も変える

その後も、母親には脳梗塞、転倒骨折、体調不良などが続きました。車椅子生活になり、やがて寝たきりに近い状態となり、最後は看取りを考える段階へ進みます。

介護は、一度体制を整えれば終わりではありません。本人の状態が変われば、必要なサービスも家族の関わり方も変わります。

だから、最初から完璧な介護体制を作ろうとしなくても大丈夫です。その時々で専門職と相談しながら、体制を組み替えていく。そのくらいの考え方のほうが、仕事との両立には現実的です。

 

覚えておきたいのは「一人で全部やらない」

8年半の介護生活を振り返って、松浦さんが強く感じたのは、「一人で全て抱え込まない」ということでした。

仕事と介護を一人の力だけで両立しようとすると、やがて時間も体力も足りなくなります。ですから、早いうちから家族や地域包括支援センター、ケアマネジャー、介護サービスなど、周りの力を借りることが大切です。

介護が始まったばかりなら、先のことを全部決める必要はありません。まずは、「自分だけで何とかしようとしていないかな」と振り返ってみることから始めてみてください。そして、一つだけでも自分以外の誰かにつないでみましょう。

介護を「自分一人で背負うもの」から「周りと一緒に考えられるもの」へ。それが、仕事と介護を両立していくための見通しを持つ第一歩です。

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