
「親の介護は、まだ先の話だろう。」そう思っていても、どこかで少し気になっている。そんな方は多いのではないでしょうか。元気な親を前にして「介護の話をしよう」と切り出すのは難しいものです。仕事や子育てで忙しければ、なおさらでしょう。
ただ、介護はある日突然、ゼロから始まるとは限りません。振り返ってみると、その前から小さな変化が出ていた、ということも少なくありません。
今から介護の準備を完璧にする必要はありません。大切なのは、まずは「こんな始まり方がある」ということを知っておくことです。それだけでも、いざというときの動きやすさが変わります。
このページでは、「親の介護がどのように始まり、どんな兆候があるのか」を学び、介護のパノラマ(見晴らし)を獲得しましょう。
介護が必要になるきっかけは、一つではありません。
厚生労働省の「2025(令和7)年 国民生活基礎調査の概況」によると、介護が必要となった主な原因で最も多いのは「認知症」の16.7%です。次いで「高齢による衰弱」が15.6%、「骨折・転倒」が14.6%、「脳血管疾患(脳卒中)」が12.5%となっています。
ここで知っておきたいのは、介護の始まり方には「突然」と「じわじわ」の両方があることです。
たとえば、骨折・転倒や脳卒中では、それまで元気だった親が救急搬送され、入院をきっかけに生活のサポートが必要になることがあります。
一方、認知症や高齢による衰弱では、「同じ話が増えた」「外出しなくなった」「家事が以前ほどできなくなった」といった小さな変化から始まることがあります。
つまり、介護は「ある日突然始まるもの」だけではありません。日常の中の「あれ? 前と少し違うな」が、介護について考え始めるサインになることもあります。
このあと紹介する3つのパターンを知っておくと、親に変化が起きたとき、「これは介護の入口かもしれない」と考える心構えができるでしょう。
一つ目は、親が救急搬送され、病院から家族に連絡が入るケースです。
転倒して骨折した、突然倒れて脳梗塞や脳出血が見つかった、といった出来事をきっかけに、それまで一人で暮らしていた親にサポートが必要になることがあります。
仕事中に突然「◯◯さんでしょうか。私△△病院の▽と申します。実は◯◯さんのお母様の□□さんが当院へ救急搬送されたのでお越しいただけませんか」と電話が来れば、誰でも動揺するでしょう。
しかし、ここで覚えておきたいのは、入院したからといって、家族がすべてを引き受ける必要はないということです。入院している間に、退院後はどのくらい支援が必要になりそうか、病院の相談員や地域の専門職と一緒に考え、必要な体制を整えていくことができます。
突然の入院そのものを防ぐのは難しいものです。ただ、親の持病や服用している薬を知っておくと、いざというときの心構えにつながります。たとえば、骨折のリスクに関わる骨粗しょう症や、脳卒中のリスクに関わる高血圧などです。
とはいえ、最初から詳しく聞き出す必要もありません。「最近、健康診断受けた?」くらいの何気ない会話から始めてみてください。「私が受けた健康診断の結果はこうだったんだけど、お母さんはどうなの?」というように、自分も健康に関する相談を親にすることで、会話のきっかけを作ったご家族もいました。
二つ目は、警察からの連絡で親の変化に気づくケースです。「道に迷っていたところを保護しました」「お店でトラブルがありました」といった連絡をきっかけに、認知機能の低下が表面化することがあります。
難しいのは、骨折のように目に見えるけががないことです。親自身も普通に話せますし、できることもたくさん残っています。そのため、家族としても「まだ大丈夫かな」と考えたくなります。
一度話し合って「もの忘れ外来」などを受診してみると安心ですが、センシティブなことですので、本人から「問題ない」と言われれば、強くは言いにくいでしょう。
そんなときには、家族だけで説得しようとしなくても大丈夫です。親の住む地域を担当する『地域包括支援センター』に、まず家族だけで相談してみてください。「最近、少し様子が違う。でも本人は受診を嫌がっている」といった段階でも相談できます。
家族だけで答えを出そうとせず、早めに第三者を増やしておくことが、その後の負担を小さくする助けになります。
三つ目は、もっと静かな始まりです。
久しぶりに実家へ帰ったら、なんとなく同じ話を何度もする。以前好きだった趣味をやらなくなった。冷蔵庫に古い食品が残っている。部屋が散らかっている。外出が減った。やけに「疲れた」「年だから」と口にする。
一つひとつを見れば、「年齢のせいかな」で済ませたくなる変化です。ただ、「以前と違う」という感覚は、意外と大事なサインです。親の介護に関わった人から、後になって「あのころから少し変だった」と振り返る話が出ることは珍しくありません。
そういった時には、『フレイルチェック』が有効です。体重や運動習慣、疲れや歩行速度などセルフチェックできるような指標です。本格的な検査をしなくても、こうした簡便なツールを介して、認知機能の変化だけでなく、栄養不足、体力の低下、腰や膝の痛み、気分の落ち込みなど、さまざまな介護のリスクに関わる要因を振り返ることができます。
別居しているときは、帰省した際ご近所さんに「最近うちの親どうですか」と菓子折りを持ってご挨拶に行っている、というご家族もいました。
介護の始まりには、病気やけがのように突然やってくるものと、認知機能や体力の低下のように少しずつ進むものがあります。
だからといって、いつ起きるかわからない介護のために、今から身構える必要はありません。帰省したときに歩き方を見てみる。最近どんな病院に通っているか聞いてみる。冷蔵庫や部屋の様子、外出の頻度を気にかけてみる。そんな小さなことでも、十分に準備の一歩です。
そして「ちょっと気になる」と感じたら、『地域包括支援センター』に相談してみてください。介護認定を受けていない段階でも相談できます。早いうちに相談先とつながっておけば、何か起きたときにも次の行動をとりやすくなります。
親の介護をすべて予測することはできません。でも、介護の始まり方を知り、小さな変化に目を向け、困ったときに頼れる先を持っておく。それだけでも、いざというときの不安が減り、仕事と介護を両立していくための見晴らしが開けてくるはずです。