介護負担の定義を「PMTE」の4因子から考える

介護負担の定義を「PMTE」の4因子から考える

研究者たちの論文レビューよりわかること

これまでも、介護についての研究は、盛んに行われてきました。ただし、そうした中には、研究としてサンプル数が足りなかったり、定義や測定方法がそろっていないといったことから、研究手法に問題がある研究が多いとする指摘もあります。今後は、根拠に基づく介護(evidence based care)が求められていくので、こうした研究のあり方も改善されていくことでしょう。

同時に、日本の高齢化は待ったなしで進んでいます。ですから、研究手法に問題があったとしても、過去の様々な研究結果を「ヒント」として活用することも求められています。そうした研究者たちの研究には、介護をする側(家族など)の介護負担について考えるものも多数あります。そしてそこには「介護負担とは何か」といった定義の問題があります。

ここで、この「介護負担とは何か」の定義が、多数の論文の中で4つの因子でそろってきているという指摘(馮, 2019年)があります。その4つとは(1)身体的負担(2)精神的負担(3)時間的負担(4)金銭的負担、です。以下、これらの英語の頭文字をとってPMTE(Physical, Mental, Time, Financial)と表現します。

PMTEの4因子について考えてみる

介護をされる側(要介護者)については、自立支援の理想があります。自立支援という言葉はわかりにくいので、ここでは、介護とは「心身になんらかの障害をおっている人に対して、生きていて良かったと感じられる瞬間を創造し届ける」という仕事だと定義します。これを実現するためにこそ、介護をする側の介護負担が求められます。

介護をする側としては、先の介護の理想を実現するために、様々なリソースが必要となります。心身が疲労するだけでなく、時間もお金もかかります。それらは、別の言葉で表現すれば負担です。これを介護負担とした場合、先のPMTEがその中身となるわけです。以下、PMTEの4因子について、それぞれ考えてみます。

身体的負担(physical burden)

直接介護を行う場合の身体的負担は、わかりやすい負担です。この中身は、他者の体を持ち上げたり、動かしたり、車椅子を押したり、オムツを取り替えたりといった身体的な行動です。睡眠不足から疲れが取れないといったことも身体的負担に含まれるでしょう。この身体的負担は、ボディメカニクスを理解したり、ノーリフトを実現したり、レスパイトを導入することで、減らせます。

これに対して、間接的に介護に関わるときの身体的負担は、わかりにくい負担です。その中身は、介護事業者までの道のりを歩くことだったり、病院の階段を上がることだったりといった行動になるでしょう。こちらの負担は、家族などの介護者が、遠隔からも対応できるような仕組みを採用することで減らすことができるかもしれません。

精神的負担(mental burden)

精神的負担は、直接介護をする場合は、要介護者の反応(例えば認知症によって会話が成立しなくなるなど)に大きく左右されます。また、介護のプロ(介護職)との相性が悪かったりすることでも大きくなります。間接的な意味では、介護をしながらのキャリア形成に悩んだり、日々の仕事のパフォーマンスが落ちたりすることで精神的負担は大きくなります。

似たような介護をしていたとしても、精神的負担は、人によって大きく異なります。ですから、精神的負担は、外から客観的には評価しにくいのです。ここで一つ認識しておきたいのは、精神的負担を高めている原因が睡眠不足というケースも多いことです。睡眠不足は、健康に関するあらゆる問題の原因にもなる、非常に危険なものなのです。

時間的負担(time burden)

時間的負担は、直接的・間接的に、介護のためにどれだけ時間がかかっているかを示すデジタルな評価です。ここで、食事や排泄の介助といった直接的に介護をしている時間は、それぞれが細切れだったりして、それらを足し合わせても、意外と大きくなかったりします。

これに対して、関節的な時間には移動時間はもちろん、役所や病院の待ち時間なども含まれ、非常に大きくなりやすいものです。こうした間接的な時間を正しく時間的負担として評価しないと、仕事と介護の両立がうまくいかなくなる可能性が高まってしまいます。

金銭的負担(financial burden)

介護にはお金がかかります。在宅介護には、平均で月額7万円程度はかかります。民間の老人ホームなどの介護施設での介護には、1,000万円を超えるような一時金と、月額25万円程度の利用料を想定しないとなりません。一般には、介護施設への入居は困難だと考えておく必要があります。

何よりも注意しないとならないのは「介護は10年程度は続く」という事実です。それだけの期間で、金銭的負担を見積もる必要があるのです。多少の貯金は、すぐになくなってしまいます。長期的には、親の介護だけでなく、自分自身の介護まで含めて、家計を考える必要があるのです。

研究者たちに求められること

日本は、少子高齢化をともないながら、大介護時代に突入しています。これが意味するのは、介護の負担の多くが1人の子供にかかってきやすいということです。過去であれば、こうした負担は兄弟姉妹で分散したり、専業主婦が担ったりしてきました。しかし、そうした状況はこれからは当てはまりません。

PMTEの4因子として表現できる介護負担を、それぞれ具体的に、どのような方法で小さくしていけるのでしょうか。これが、今後の日本を考える上で、もしかしたら最重要のテーマとなるかもしれません。特に、意外と見過ごされがちな時間的負担は、家族と介護職の間でどう分散されているのかが見えにくくなっています。

4因子は、それぞれに相関しており、完全に独立していないことにも注意が必要です。例えば、夜中の排泄介助は、時間的負担としては30分程度だったとしても、睡眠不足への影響が大きく、疲れが取れなくなることによる身体的負担の増加と、精神的負担の増加につながるでしょう。

こうした睡眠不足の結果として、仕事のパフォーマンスが落ち、人事評価が下がったりするかもしれません。そうなれば、その介護は大きな金銭的負担にもなっているわけです。このように、4因子間の連動や相関は、介護の中身によって異なってくるという部分もまた、重要な研究分野になりそうです。

※参考文献
・馮 怡, 『認知症高齢者を抱える家族介護者の介護負担に関する文献検討:日中比較を中心に』, 佛教大学大学院紀要. 社会福祉学研究科篇 (47), 35-46, 2019-03-01

この記事の監修者

回答者アイコン木場 猛(こば・たける) 株式会社チェンジウェーブグループ リクシスCCO(チーフケアオフィサー) 介護福祉士 介護支援専門員 東京大学文学部卒業。高齢者支援や介護の現場に携わりながら、 国内ビジネスケアラーデータ取得数最多の仕事と介護の両立支援クラウド「LCAT」ラーニングコンテンツ監修や「仕事と介護の両立個別相談窓口」相談業務を担当。 3年間で400名以上のビジネスケアラーであるご家族の相談を受けた経験あり。セミナー受講者数、延べ約2万人超。 著書:『仕事は辞めない!働く×介護 両立の教科書(日経クロスウーマン)』
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