1分でわかる 遠距離介護の「実践サバイバル術」―抱え込まずに仕事と両立する方法 

1分でわかる 遠距離介護の「実践サバイバル術」―抱え込まずに仕事と両立する方法 

株式会社ディー・エヌ・エーに勤務する崎山文乃(さきやま・あやの)さんは、ビジネスケアラー歴約3年。東京で働きながら、神奈川に暮らす両親の介護に関わってきました。

認知症になったお母様と、その介護をするお父様を支えながら、専門職や介護サービス、職場の協力を組み合わせ、「自分がすべてを抱え込まない」体制をつくってきた、リアルな経験談をご紹介します。

 

「母の様子がおかしい」から始まった介護

崎山さんの介護が始まったのは、2019年1月の帰省中でした。お父様から「母の様子がちょっとおかしいんだよね」と相談されたのがきっかけです。

お母様には、食器を元とは違う場所にしまったり、「○○がない」と繰り返したりする変化が出ていました。病院を受診すると、認知症と診断される一歩手前の状態。一人娘の崎山さんは、両親だけでは対応が難しいと感じ、情報を探し始めます。その中で知ったのが「地域包括支援センター」でした。

勇気を絞って地域包括支援センターに電話をするというのが、ケアラーとしての私のスタートだった」と崎山さんは振り返ります。

その後、要介護申請へ進みましたが、すぐに介護サービスを使えたわけではありませんでした。ご両親には「家に他人が入ること」への抵抗感があったからです。

ところが、その後お父様に大腸がんが見つかり、家族だけでは生活を支えきれない状況になります。そこでようやく、外部サービスを取り入れた介護体制が動き始めました。

 

「自分が毎日行く」のではなく、誰かが毎日訪れる仕組みに

お母様の認知症がわかってからの3年間は、決して一直線ではありませんでした。お母様が誤嚥性肺炎を起こしたり、薬の副作用に悩まされたり、お父様が腰痛で要介護状態になったり。そのたびに、それまでの介護体制がうまく回らなくなることもありました。

崎山さんは、その都度、訪問診療の医師やケアマネジャーに相談し、サービスの組み合わせを調整して乗り切ってきました。

その際、「自分が毎日実家へ行く」体制にはしなかったことが、崎山さんの工夫です。

訪問診療を月2回、訪問介護を週2回利用し、さらに訪問入浴、デイサービス、歯科医師の往診などを組み合わせました。予定をうまく配置することで、「1日1回は必ず、公的サービスなどで誰かが実家を訪れる状態」をつくりました。

さらに、お母様を介護しているお父様には、LINEで毎日、起床時と就寝時の2回、メッセージを送ってもらいます。朝晩はお父様から連絡があり、日中は介護や医療の関係者が訪れる。こうして、崎山さん自身がその場にいなくても、複数の目でご両親の状態を確認できる仕組みができました。

崎山さんが安心できるラインとして置いたのが、何かが起きる可能性をゼロにするのではなく、「何かあっても、24時間以内には必ず見つけられる」という状態でした。

「どこまでならリスクを受け入れられるか」を考えながら、仕事を続けられる体制をつくったのです。

 

実際どうした?崎山さんに聞く仕事と介護の両立

Q. 介護があることを、職場にはどう伝えましたか?

崎山さん:
「うちの状況をあんまり包み隠さず伝えること」は徹底しました。

父が坐骨神経痛になったときには、それまでの介護体制が回らなくなってしまったので、率直に「介護体制が崩壊したので、ちょっと仕事の優先度を下げます!」と伝えました。そこで職場にも協力してもらえたのは、ありがたかったですね。

 

Q. お母様の認知症は、最初のころと今とでどう変わりましたか?

崎山さん:
最初に「おかしいな」と思ったころは要介護1で、今は要介護4まで上がりました。初めのころは幻視や幻聴に悩まされていて、「黒い人がいて怖い」と言ったり、精神的にかなり不安定だったことを覚えています。

今は症状が進んで、むしろ母本人は安定しているのかなとも感じています。食べたいときに食べて、寝たいときに寝るという感じです。

 

Q. 徘徊など、認知症への対応で工夫したことは?

崎山さん:
母が出ていってしまったことは2回ほどあります。マンションなので、幸い敷地からは出ていかず、隣の方に見つけて届けてもらえました。その経験があったので、玄関にセンサー付きのアラームをつけるなど、できる対策をしています。

最初から全部想定できていたわけではなく、何かが起きたら、その都度「じゃあ次はどうするか」と考えて、対応を足してきたという感じです。

 

専門家は崎山さんの介護をどう見た?

木場さん:「自分で“落とし所”を設定できている」

いろいろな葛藤がある中で、ご家族としての立ち位置を上手に見つけてこられたんだな、と感じました。

特に「何かあっても24時間以内に見つけられれば」というところです。本心としてはご両親のことがとても心配だと思うのですが、その葛藤を乗り越えて、上手にリスクを見積もっておられますよね。

「ケアに割くぶんはこのぐらいにしておこう」と、自分から落とし所を設定できたというのが、とても大きなポイントだと思います。

 

佐々木さん:「家族がずっとそばにいなくても、生活できる選択肢はある」

知っておいてほしいのは、家族がずっとそばにいなければ生活できないとは限らないということです。私たちが在宅医療を提供している方の25%は一人暮らしです。家族はたまにしか来ない。それでも、要介護3や4の方が一人で暮らしているケースがあります。

要介護度が高くなれば、必ず家族がつきっきりになる、あるいは必ず施設に入らなければならない、というわけではありません。老人ホームに入ったとしても個室で生活することになりますし、自宅であっても、介護サービスをうまく組み合わせることで生活を支えられる場合があります。

だからこそ、「抱え込まずに、早い段階から経験者や専門職に相談していく」ことを強くおすすめします。認知症で「ちょっともの忘れが増えたな」というところから、だんだん日常生活を送ることが難しくなっていく中で、崎山さんは上手に退きつつ、介護を続けてこられていると思います。

 

これから介護が始まる人へ:介護が始まっても、自分の人生は止めなくていい

最後に崎山さんから、これから介護が始まるかもしれない人たちへのメッセージをお届けします。

崎山さん:
ケアラー予備軍の方からすると、「いつ何が起こるかわからない」みたいなところで、すごく不安に感じることが多いと思います。実際、私もとても不安でした。けれども、今はネットやSNSなど便利な時代ですので、そういったツールを活用して、情報をたくさん集めて、乗り切っていってほしいです。私も、最初の「ちょっと母の様子がおかしい」というときから、ネットでいろいろ検索する中で、「地域包括支援センター」という単語に出会いました。

できる範囲で、少しずつ準備をしておくだけでも、いざというときの心持ちはだいぶ変わってくると思います。万端ということは絶対ないにしても、やってみれば何とかなる部分はきっとあります。

なので、不安になりすぎず、「自分の人生はちゃんと生きる」ということも考えながら、介護に向き合っていくのがいいのかな、と考えています。

私もまだまだ引き続き介護中なので、その気持ちを忘れずにがんばっていきたいと思っています。

 

※本記事は、2022年9月16日にリクシスが開催した第1回「全国ビジネスケアラー会議」のパネルディスカッション「ビジネスケアラーの『実践サバイバル術』とは」における、崎山文乃さんの事例および専門家のコメントをもとに再構成しています。

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