「フレイル」という言葉、最近耳にする機会が増えてきたかもしれません。でも、実際にどんな状態を指すのか、自分や家族にどう関係するのか、まだぼんやりしている方も多いのではないでしょうか。
この記事では、フレイルの基本から、予防のポイントまで、無理なく読める形でお伝えします。
フレイルとは、年齢を重ねる中で、体や心、社会とのつながりが少しずつ弱くなっていく状態を指します。まだ「要介護」とまではいかないけれど、生活に支障が出始めるサインとも言えます。
疲れやすくなったり、外出の頻度が減ったり、人と話す機会が少なくなってきたり。気づかないうちに進んでしまうのが、この状態の特徴です。
2014年に日本老年医学会が提唱し、以来、高齢者の健康を守るうえで重要なキーワードになっています。
「最近、何となく体が重い」「やる気が出ない」「人に会うのが面倒」。そんな変化が続くと、筋力が低下し、転倒しやすくなったり、外出しづらくなったりします。いわゆる“フレイルサイクル”と呼ばれる悪循環が起こるのです。
活動量が減り、食欲が落ちて栄養も偏り、さらに体力が落ちる——。こうした小さな変化が積み重なると、やがて要介護のリスクが高まってしまいます。
糖尿病や高血圧、脳卒中などの生活習慣病は、体の衰えを早める要因になります。また、筋肉量が減る「サルコペニア」、足腰の機能が落ちる「ロコモティブシンドローム(ロコモ)」も、フレイルの土台になりやすい状態です。加齢による口腔機能の低下も、食事量の減少につながり、見逃せません。
心の面では、軽度認知障害(MCI)やうつ状態、そして人との交流が減ることによる孤立感もフレイルを進めてしまうことがあります。
「なんとなく調子が悪いけど、年齢のせいかな」と思いながら過ごしている方へ。実は簡単なセルフチェックで、今の状態を振り返ることができます。
たとえば最近、「体重が急に減った」「握力が弱くなった」「外に出る機会が減った」などの変化がありませんか?厚労省が公開している「基本チェックリスト」を見てみましょう。
「介護予防のための生活機能評価に関するマニュアル(改訂版)」基本チェックリスト
NO | 質問事項 |
1 | バスや電車で一人で外出していますか |
2 | 日用品の買い物をしていますか |
3 | 預貯金の出し入れをしていますか |
4 | 友人の家を訪ねていますか |
5 | 家族や友人の相談にのっていますか |
6 | 階段を手すりや壁をつたわらずに昇っていますか |
7 | 椅子に座った状態から何もつかまらずに立ち上がってますか |
8 | 15分間位続けて歩いていますか |
9 | この1年間に転んだことがありますか |
10 | 転倒に対する不安は大きいですか |
11 | 6ヶ月間で2~3kg以上の体重減少はありましたか |
12 | 身長(cm)・体重(kg)※BMI数値(=体重÷身長(m)×身長(m)が18.5未満の場合に該当) |
13 | 半年前に比べて堅いものが食べにくくなりましたか |
14 | お茶や汁物等でむせることがありますか |
15 | 口の渇きが気になりますか |
16 | 週に1回以上は外出していますか |
17 | 昨年と比べて外出の回数が減っていますか |
18 | 周りの人から「いつも同じ事を聞く」などの物忘れがあると言われますか |
19 | 自分で電話番号を調べて、電話をかけることをしていますか |
20 | 今日が何月何日かわからない時がありますか |
21 | ここ2週間、毎日の生活に充実感がない |
22 | ここ2週間、これまで楽しんでやれていたことが楽しめなくなった |
23 | ここ2週間、以前は楽にできていたことが今ではおっくうに感じられる |
24 | ここ2週間、自分が役に立つ人間だと思えない |
25 | ここ2週間、わけもなく疲れたような感じがする |
上記の基本チェックリストで「はい」と答えた数と以下の表を照らし合わせて、簡単にフレイル診断チェックができます。親御さんはどうか、と読み替えてチェックしてみましょう。
NO | チェックの目的 | フレイルの可能性がある点数 |
1~20 | 日常生活全般 | 10点以上 |
6~10 | 運動器の機能 | 3点以上 |
11~12 | 栄養状態 | 11が「はい」で、12のBMIが18.5未満の人 |
13~15 | 口腔機能 | 2点以上 |
16~17 | 社会的交流 | 16が「いいえ」の人(17も「はい」の人は要注意) |
18~20 | 認知機能 | 1点以上 |
21~25 | 心理(抑うつ)状態 | 2点以上 |
フレイルの予防に大切なのは特別なことではなく、日々の生活に「栄養」「身体活動」「社会参加」の3つを取り入れることです。
まずは食事。毎日の食卓でたんぱく質をしっかり摂ることを意識してみてください。肉・魚・大豆製品などをバランスよく取り入れ、よく噛んで食べることが大事です。
次に運動。いきなり激しい運動をする必要はありません。近所を歩くだけでも効果はあります。できれば毎日15分でもいいので、体を動かす時間を作ってみましょう。
最後に社会参加。誰かと会って話すことは、脳や心の健康にも大きな影響を与えます。趣味の会や地域のイベントに参加してみたり、離れて暮らす家族に電話してみたり。ちょっとしたつながりが、あなたの暮らしを支えてくれます。
フレイルを防ぐために、すべてを完璧にやろうとする必要はありません。疲れている日があっても、食欲がない日があっても、大丈夫。大事なのは「気づいたこと」そして「小さな行動を積み重ねること」です。
高齢者に起こりやすいフレイルは、その兆候を早期に発見して予防することが大事です。そのまま放置してしまい、適切な対応ができないと要介護状態に陥ってしまいます。気になったら基本チェックリストでセルフチェックをして、毎日の生活に「栄養・身体活動・社会参加」を取り入れていきましょう。
介護プロ編集部