高齢化に伴い、有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅の数も増えています。しかし、費用が高額で入居になかなか踏み切れないという方も多いのではないでしょうか。
そんな時に選択肢のひとつとして挙がる施設が、比較的費用が安い公的入居施設である「軽費老人ホーム」です。
今回の記事では、「軽費老人ホーム」の特徴や費用、入居条件、サービス内容、入居までの流れなどを解説していきます。
軽費老人ホームとは、全面的な介護は必要ないが、自立した日常生活を送ることが困難な高齢者が入居できる施設のことです。軽費という名の通り、費用が安く設定されていることが特徴です。
老人福祉法第二十条の六によると、施設の定義は「無料又は低額な料金で、老人を入所させ、食事の提供その他日常生活上必要な便宜を供与することを目的とする施設」とされています。
軽費老人ホームは、以下の5つのタイプに分けられています。
|
参考:厚生労働省「養護⽼⼈ホーム・軽費⽼⼈ホームについて」
では、それぞれのタイプの特徴や違いを見ていきましょう。
軽費老人ホームの4つのタイプについて、それぞれの対象者、特徴や違いをまとめた表をご覧ください。
<軽費老人ホームの種類>
対象者 | 特徴(性格) | 食事 | 生活支援 | 介護サービス | |
A型 | 独立して生活するには不安が認められる60歳以上の高齢者(要支援・要介護高齢者も入居可) | 低所得高齢者のための住まい | あり | あり | なし(外部の介護サービスを利用可) |
B型 | 独立して生活するには不安が認められる60歳以上の高齢者(要支援・要介護高齢者も入居可) | 自炊ができる低所得高齢者のための住まい | なし | あり | なし(外部の介護サービスを利用可) |
自立C型 | 身体機能の低下などにより自立した日常生活を営むことについて不安があると認められる 60歳以上の方、または家族による援助を受けることが困難な方(要支援・要介護高齢者も入居可能) | 低所得高齢者のための住まい | あり | あり | なし(外部の介護サービスを利用可) |
介護C型 | 65歳以上で、要介護1以上の高齢者 | 包括的な介護サービス(特定施設入居者生活介護)が必要な低所得高齢者のための住まい | あり | あり | あり |
参考:厚生労働省「養護⽼⼈ホーム・軽費⽼⼈ホームについて」
また、上記のタイプ以外に「都市型軽費老人ホーム」という施設もあります。
都市型軽費老人ホームは、通常の軽費老人ホームのA型~C型よりも居住面積が狭く、人員配置の基準を緩和することにより、都市部においても安く利用できるのが特徴です。
軽費老人ホームA型の特徴は、食事の提供があることです。また、一定数の介護職員を配置することが義務付けられています。介護サービスはありませんが、外部の訪問介護事業所と契約を結び介護サービスを受けることが可能です。
自立のほか、要支援や要介護の人でも入居でき、独立して生活するには不安のある高齢者の方のための住まいです。
軽費老人ホームB型は、身体機能の低下や高齢のために独立して生活するには不安のある高齢者の方を対象にした住まいですが、自炊ができることが条件であるため、食事の提供はありません。A型と違いB型では介護職員を配置することが義務付けられてはいませんが、スタッフが常駐しています。
自立C型の軽費老人ホームは一般的に「ケアハウス」と呼ばれているものです。自立した日常生活に不安がある方で且つご家族の援助を受けることが困難な高齢者の方のための住まいで、生活支援をすることにより入居者が安心して生活できるようにすることを目的としています。
ケアハウスには「自立型」と「介護型」があり、自立C型は自立型ケアハウス、または一般型ケアハウスとも呼ばれています。
食事の提供があり介護サービスの提供がないため、軽費老人ホームA型と似た性質を持っていると言えます。
介護C型の軽費老人ホームは、「介護型ケアハウスの特定型」とも呼ばれています。食事や掃除などの生活支援に加え、日常生活の介助、リハビリ、一部の医療的ケアなども受けられます。
特定施設入居者生活介護の指定を受けているため、施設内で入浴や排泄の介助などの介護サービスが提供されていることが大きな特徴です。
介護サービス費用が含まれるため、自立C型と比べると初期費用や利用料は高くなりますが、介護度が進んでも退去の必要がなく、認知症のケアや看取りに対応している施設もあります。
地価や人件費が高い都市部では軽費老人ホームであっても費用が高くなりがちでした。居住面積や人員配置基準を緩和して都心部の低所得者の方でも入居しやすい施設として設立されたのが、都市型軽費老人ホームです。首都圏、近畿圏、中部圏にある一定地域などの既成市街地に設置されています。
通常の軽費老人ホームのA型~C型よりも居住面積が狭く、人員配置の基準を緩和することにより、都市部においても安く利用できます。
敷金や入居一時金はかからず、月額費用は9万〜16万円が相場です。
先ほども説明したように、軽費老人ホームの自立C型を「ケアハウス」と呼びます。
軽費老人ホームのA型とB型は、1990年以降新設されておらず、将来的にはすべて自立C型であるケアハウスへと建て替えられることになっています。
このようなケアハウスへの一本化の理由は、介護が必要とされる現代では介護サービスが提供できるC型であるケアハウスが社会から必要とされたことなどが挙げられます。
▼ケアハウスについての詳細はこちら
ケアハウスとは?入居条件や費用、施設の特徴をすべて解説
ケアハウスへの入居条件は「自立型」と「介護型」で異なります。「自立型」と「介護型」それぞれの条件を解説していきます。
自立型のケアハウスへの入居条件は以下です。これらの条件全てを満たす必要があります。
|
自立型は、その名の通りある程度は自立した生活ができることが前提条件です。そのため、介護や医療ケアを必要とする要介護3以上の方は原則入所ができません(施設によって受け入れる場合あり)。
また、入居条件として所得の制限もありません。
介護型のケアハウスへの入居条件は以下です。これらの条件全てを満たす必要があります。
|
介護型は、介護サービスが受けられる施設のため要介護度1以上と決められています。自立型と違い要介護2以上の方、軽度の認知症の方でも入所が可能です。
自立型と同様に、入居条件として所得の制限もありません。
ケアハウスで提供されるサービスは、生活支援や食事、レクリエーション、見守りや緊急対応が基本です。スタッフが24時間常駐し、緊急時のサポート体制が整っているので、利用者は安心して生活することができます。
また、介護型のみ医療・介護サービスの提供があることが大きな違いとなっています。
ケアハウスでは1日3回、バランスの取れた食事が提供されます。また、自由度が高い施設のため食事を抜くことも可能です。ただし、食費は毎月定額でかかるため抜いた分が引かれるわけではありませんので注意を。
様々なイベントや体操、趣味などのレクリエーションが充実してるのも特徴。クリスマスや節分などの季節の行事を楽しむこともできるため、入居者同士でコミュニケーションを取ることもできます。
「自立型」は掃除や洗濯などの身の回りの世話は、原則として入居者自身が行います。食事介助などの介護ではなく、あくまでも日常生活の支援にとどまる点に注意しましょう。
ただし「介護型」の場合は、自立型と違い介護サービスの提供が行われています。
ケアハウスでは緊急時の対応、見守り、安否確認も行なっています。
食事中なども入居者の体調に問題ないかスタッフが見守ってくれるため、一人暮らしよりも安心です。スタッフは24時間常駐しているため、仮に夜間に緊急事態が起きてもすぐに対応できる体制が整えられています。
「自立型」は医療・介護サービスを受けることができませんが、「介護型」はこれらを受けることができます。
医療については、施設が医療機関と連携し、必要であれば訪問診療の契約をしたり、通院することが可能です。
介護については、介護職員または看護職員が要介護者3人に対して1人以上配置されており、施設内介護サービスを受けることができます。
ケアハウスの設備は、厚生労働省によって基準が定められています。原則として居室の他に、以下のような生活に必要な設備が整っています。
また、ケアハウスの居室の特徴として以下が挙げられます。
ケアハウスは(特に自立C型の場合)、生活の自由度が高いため、外出や外泊なども自由にできる施設が多く、家族や友人との外食や旅行も可能です。
参考:厚生労働省「養護⽼⼈ホーム・軽費⽼⼈ホームについて」、厚生労働省「軽費老人ホームの設備及び運営に関する基準」
以下の表は、軽費老人ホーム(ケアハウス)費用の目安です。
施設により費用は大きく異なるため参考程度にし、具体的な費用は施設に問い合わせてください。
一般型(自立C型) | 介護型(介護C型) | |
初期費用 | 0~1,000万円(施設によって大きく差がある) | |
月額利用費 | 9~15万円程度(前年の所得による) | |
介護サービス費用 | なし(外部業者を利用した場合は別途必要) | 要介護度により異なる |
その他の費用 | 日用品、医療費、光熱費、通信費などの実費 | |
所得制限 | なし |
<初期費用>
ケアハウスの初期費用の項目は、施設によっていろいろな名称、形態があります。
自立型では、いわゆる敷金のような保証金タイプが多く、介護型では、入居一時金(居住費用の前払金的なもので、毎月償却される)という形もあります。
<月額費用(月額利用費+その他の費用)>
毎月支払う費用で、家賃・食費・光熱費、サービス提供費、介護サービス費(介護型のみ)などが含まれています。月額利用料は、入居者の前年の所得により金額が決定され、所得の低い方ほど安くなる仕組みです。
介護型の介護サービス費用は、利用者の介護度により毎月定額となる金額が決められます。
ケアハウスへの入居は、各施設で手続きが行われるので詳細は施設へ問い合わせをしてみましょう。一般的な手続きの流れは、以下をご参考ください。
①入居申込書を提出
施設に直接入居申込書を提出します。(自治体や地域包括支援センター経由での相談できる場合もあります)
②面談
介護度や入居者の身体と心の状態、資産状況などをヒアリングするための面談が行われます。
③必要書類(住民票や健康診断書、所得証明書など)を提出
書類の内容により、入居費用が決まります。
④入居判定・契約
①~③までで問題が無ければ、施設と契約を結び、入居となります。
軽費老人ホームは、今後はC型(ケアハウス)に一本化されるため、これからの入居を考えている方はC型(ケアハウス)を検討するとよいでしょう。費用が安く人気の施設のため入居が難しい場合もあります。気になる方は早めに問い合わせてみることをおすすめします。
金山峰之(かなやま・たかゆき) 介護福祉士、社会福祉士、准看護師。福祉系大学卒業後、20年近く在宅高齢者介護に従事。現場専門職の傍、介護関連の講師業(地域住民、自治体、国家公務員、専門職向け等)や学会のシンポジスト、介護企業向けコンサルティング事業、メーカー(ICT、食品、日用品等)へシニア市場の講演などを行っている。
厚生労働省関連調査研究事業委員、東京都介護人材確保関連事業等委員など経験。
元東京都介護福祉士会副会長。政策学修士。