
仕事・育児・介護の“トリプルケア”や、遠距離介護と子育てなど、複数のケア責任を担うビジネスケアラーの方々から、職場でのこんなエピソードをよく耳にします。
「で、いつになったら家庭のことは落ち着くの?」
このひと言に、言葉を失った人もいれば、「親の介護が終わるときです」と絞り出すように返した方もいました。
介護といっても、その対象や関係性は一様ではありません。
にもかかわらず、「いつ落ち着くの?」「仕事は続けられるの?」といった一言で、状況を“シンプルに判断された”と感じる方も少なくありません。
またあるケースでは、介護と仕事の両立に奔走する社員に対し、上司がこう声をかけました。
「もう施設に入れたら?」
もちろん、施設の活用は大切な選択肢の一つです。ですが、その選択には家庭内での合意や本人の気持ち、金銭面、地域事情など、さまざまな背景が絡み合っています。
このように「決断」を急がせるような言い方をされると、「家族のことを、合理性だけで語られた」という疎外感を持ってしまう人もいます。
何気ないひと言が、当事者の心に大きな影響を与えることがあります。
こうした言葉が、「もうキャリアは難しいね」「今は全力では働けないね」と受け取られてしまうと、当事者は「頑張っても評価されない」と感じ、孤立してしまうのです。
相手を“助ける”というより、“一緒に進める”姿勢を示すことで、関係性は大きく変わります。
介護も育児も、正解のないテーマです。
何が最善かは、家庭ごと・タイミングごとに異なります。だからこそ、「どちらかを選ぶ」ではなく、「どうすれば、できる限り続けられるか」を共に考える姿勢が、支えになります。
そしてこれは、単に共感にとどまらず、
という意味で、非常に重要な視点です。
日々のコミュニケーションの中で、育児や介護をしている社員の“いま”に気づくこと。その姿勢が、働きやすく信頼できる職場づくりの基盤になります。
室津 瞳(むろつ・ひとみ)
NPO法人こだまの集い代表理事 / 株式会社チェンジウェーブグループ シニアプロフェッショナル / ダブルケアスペシャリスト / 杏林大学保健学部 老年実習指導教員
介護職・看護師として病院・福祉施設での実務経験を経て、令和元年に「NPO法人こだまの集い」を設立。自身の育児・介護・仕事が重なった約8年間のダブルケア経験をもとに、現場の声を社会に届けながら、働きながらケアと向き合える仕組みづくりを進めている。
【編著書】『育児と介護のダブルケア ― 事例からひもとく連携・支援の実際』(中央法規出版)【監修】『1000人の「そこが知りたい!」を集めました 共倒れしない介護』(オレンジページ)【共著】できるケアマネジャーになるために知っておきたい75のこと(メディカル・ケア・サービス)