2025年7月16日、リクシスは、第29回『全国ビジネスケアラー会議』を開催いたしました。
これから高齢社会がより一層加速し、仕事と介護の両立が当たり前の時代がやってきます。本オンラインセミナーは、高齢化の流れが加速する日本社会において、現役世代として働きつつ、同時にご家族の介護にも携わっている「ビジネスケアラー」の方々とその予備軍となる皆様に向けたセミナーです。
今回のテーマは、多くの方からリクエストをいただいた「認知症」です。
実は、認知症になる前には「軽度認知障害(MCI)」という段階があります。この時期に早く気づき、生活習慣の見直しや適切なケアを始めることで、症状が良くなったり、認知症の発症を防げる可能性があるのです。
医療法人さわらび会福祉村病院副院長の伊苅 弘之(いかり・ひろゆき)先生にご登壇いただき、MCIと認知症の見極めのポイントや、認知機能の維持に効果的だと言われている生活や習慣についてご解説いただきました。
この記事では、セミナー中にお答えできなかった皆さまからの事前質問やお声に対し、伊苅先生が寄せてくださった回答をお届けします。
というテーマ別でまとめています。
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セミナーQ&A(前編):認知症の基礎知識・MCIについて・認知症の初期症状について⇐このページのテーマ
セミナーQ&A(後編):認知症予防について・その他(先生の考え方など)
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伊苅 弘之(いかり・ひろゆき)医師 医療法人さわらび会福祉村病院副院長。医学博士。日本老年医学会・日本老年精神医学会の専門医・指導医。
1957年4月25日生まれ。愛知県名古屋市出身。信州大学医学部卒業後、名古屋大学医学部老年科学教室に入局。記憶に関する基礎実験を行い医学博士を取得。1993年1月から1995年3月までアメリカ国立衛生研究所客員研究員。帰国後、名古屋大学医学部附属病院にて「ものわすれ、認知症外来」を5年間行われました。1999年4月より高齢者のための総合的施設群(1,000人以上の高齢者が生活している)の中心となる福祉村病院に勤務されています。
認知症になる方の割合ですが、70歳台で10%程度、80歳台で25%程度、90歳台で50%程度が目安です。認知症にならない方もたくさんおられます。ぜひ、毎日の生活の中に予防のヒントがあるので、実践していきましょう。
認知症になっても、その方の生活環境がよければ幸せに暮らせます。介護者がパーソンセンタードケアを実行して、本人が快適だな、幸せだなと感じる日々があれば、脳の萎縮もゆっくりにできると言っている先生もいます。
認知症の介護については、各市町村にて「認知症介護実践者研修」なるものが、年に2,3回開催されていて、施設を運営している場合は必ず参加しないといけないという法律になっています。
この会では、テキストもあり、現場での研修もあり、プロは認知症ケアの教科書で勉強して実践も体験だけでなく勉強しています。一般の方はそのような機会が少ないのが現実です。テキストは本屋さんで入手可能です。
医学的には、脳が萎縮していくアルツハイマー型認知症(AD)やレビー小体型認知症’DLB)などの原因は不明です。ADではアミロイドというタンパク質が脳内にゴミのようにたまっていることがわかっていますし、DLBではαシヌクレインという物質がたまってくることがわかっていますが、なぜそれらがたまるのかという原因はわかっていません。
最近アミロイドタンパクを溶かして取り除く注射が使用されていますが、ADの方の脳内のアミロイドをいくら取り除いても、どんどんたまってしまうので、もとに戻すことはできず、徐々に悪化してしまうのです。
最近では、脳内にいろいろな物質がたまって認知症をひきおこすという事実が明らかになりつつあります。しかしいずれも原因は不明で、根本的な治療法はありません。
脳血管障害の後遺症で認知症になる方がありますが、これは脳血管障害で障害をうけた脳の部分の欠落症状がでることでおこる認知症ですから、脳血管障害を予防することは認知症予防になります。
認知機能の検査は無数といっていいくらい、いろいろなものがあります。
記憶力の検査なら、ADASの中の10枚のカード、三宅式検査、数字の順唱逆唱など。
視覚的な歪みの有無をみるには、レーブン色彩マトリックス検査、ノイズパレイドリア検査、コース立方体。
前頭葉機能の検査では、後出し負けじゃんけん、ストループテスト、「あ」ではじまる言葉をできるだけたくさん言う、など。判断力かをみるには、言語を使ってですが、火事をみつけたらどうするか、友達に傘をかりたがなくしてしまったり、などへ回答してもらう。
認知機能を総合的にみる知能検査には1から2時間かけて検査するものまであります。医療機関ならば、臨床心理士という資格の方がいる医療機関にいけば検査してもらえます。精神科にはまずおられます。
ほかには、脳神経内科や老年内科などで認知症をよくみておられるところなら、臨床心理士がおられる場合もあります。簡単な検査なら医師が実施しているところもあります。
10年前まで事務系の仕事をして神経も張ってやってきました。あれから10年、最近、置き忘れや物忘れが頻繁になって心配。集中力も落ちてる(聞いた内容の半分が抜け落ちている)不安が大きくなっています。先日、3週間位ひどい頭痛が続き、脳梗塞の家系でもあり脳外科でMRI検査して頂いた時、「脳に全く問題ない正常です。認知症も見られません」と言われたのですが、それでも認知症の症状は現れるのはどうしてでしょうか?
セミナーで基礎知識や予防法を学び認知症が進まないよう気をつけたいと思います。期待しています。
脳が萎縮していく認知症(アルツハイマー(AD)、レビー小体型(DLB)、嗜銀顆粒性GD)など、認知症全体の90%を占めます)では、病気の初期2,3年間くらいは、MRIをとっても萎縮は目立ちません。よほど丁寧に画像を専門的に読む放射線科医師がみても難しいのです。
脳の萎縮が始まって3年から5年ほど経過すると、ADやGDでは海馬付近の萎縮が目立つようになりMRIで海馬付近の萎縮を認めます。始まりから数年は脳のMRIを撮影しても正常と言われてしまいます。
また、DLBでは5年ほど経過しても年齢相応と言われる場合が多く、MRIなどの脳の形を調べる検査では異常がでてきません。そのような状態でも、神経心理検査(いわゆる詳細な知能検査、長谷川式とかMMSEといった30点満点のものは簡単な知能検査)の詳細なもの、くわしく認知機能の評価をするものを実施すると低下しています。
初期の段階では、認知症かどうかは、MRIで判断するものではありません。日常の症状や脳の機能検査で判定します。もちろん画像MRIやCTも撮影しますが。
ご心配であれば、ご近所で、精神科、脳神経内科、老年内科あたりで、認知症の初期診断、軽い人を丁寧に診断してくれると評判のある医療機関へ受診してください。そういう医療機関では、臨床心理士という認知機能を専門に検査してくれる職員がいます。そのような詳細な知能検査を受けてみてください。もし低下があるようなら、脳萎縮してくる認知症のきわめて初期の可能性があります。
将来悪化すると認知症になる前段階ともいえるのがMCI(軽度認知障害)というものです。MCIの方は、認知機能の低下が軽度ありますが、自立した生活を送れている状態をいいます。それぞれの病気でMCIの段階での症状は異なります。
アルツハイマー型認知症(AD)や嗜銀顆粒性認知症(GD)のMCIの時は、記銘力障害といって、ちょっと前のことをすぐに忘れてしまうという症状が目立ちます。
レビー小体型認知症の方のMCIの時は、うつ病と間違われたり、いつもはしっかりしているのになぜこんな失敗するのというような注意力や集中力の変動だったり、だれかに見られているとかいう幻覚や被害妄想がでたり、記憶障害以外の症状が主になります。
認知症をきちんと診てくれるという評判のある医療機関へ受診されるのがよいでしょう。きちんと診断を受けて、非薬物療法の大切さを知ってください。
日々の生活を改善することで認知機能の悪化を遅らせるとか改善できる方法を知り、実践することが可能になります。薬よりも生活環境を改善することの方が有効性が高いといわれています。脳も身体も使わないと弱り、衰えます。衰え方は年をとるほど速くなります。楽しく脳を使いましょう。
家族や周囲の方が認知機能の低下に気づくことが多いです。自分自身では気づきにくいようです。従って、家族との接触を多くしたり、友人と会ったり、社会活動をしたりすることで気づいてもらえる機会が増えます。早く気がつけば、悪化予防の対策もおおくなりますので、ご安心ください。
認知症の初期症状は大きく二つになります。そのような症状がみられたら、注意してください。多くの場合は、家族や友人など、周囲の人が気づいてくれます。
また、認知症というのは、認知機能の低下により、自立した生活ができない状態ですから、健康な時から、周囲の人、多くは家族になりますが、家族をよく教育して認知症のことを知ってもらい、上手に助けてもらえるように人間関係を作っておくことが重要でしょう。
サポナビ編集部