「包括に相談したけど、あまり親身に聞いてもらえなかった」「なんとなく話をはぐらかされた気がする」――そうした声を耳にすることがあります。
実際、私の母も同じような経験をしたことがありました。気軽に相談してくださいと言われるけれど、「どういう風に相談したらいいかわからない」これによって相談までの一歩が踏み出せない方は少なくないと思います。一方で支援者側の立場からすれば「具体的な話がなかったので、どう助ければいいかわからなかった」というのが本音かもしれません。
地域包括支援センターは、高齢者やその家族の生活を支える心強い味方ですが、魔法の杖ではありません。困っていることが何か、それによって何が起きているのか、どうなれば安心できるのか。そうした情報がきちんと伝わってこそ、最適なサポートを一緒に考えることができます。
でも、いざ相談となると「何から話していいのかわからない」「親のことを相談していいのか不安」と感じるのも当然のこと。そこで今回は、相談をスムーズに進めるために、事前に整理しておくと役立つ3つのポイントをご紹介します。
包括に相談する前に、次の3点をメモにしておくことをおすすめします。それだけで話の軸がブレにくくなり、相談がグッと建設的になります。
たとえば「最近、母が食事を作らなくなってきた」という相談があるとします。でも、これだけでは状況が見えにくいものです。以下のように、どんな場面で困っているのかをできるだけ具体的にしましょう。
時間帯や頻度を加えると、必要なサービスの検討もしやすくなります。「週に何回か起きていることか」「毎日なのか」「特定の時間帯だけなのか」など、思い出せる範囲で構いません。
たとえ本人が困っていないように見えても、家族の側に負担が集中しているケースはよくあります。相談の場では「困っている人」が本人なのか、家族なのか、はっきりさせると伝わりやすくなります。
“困っているのは自分”という気づきも、相談の大事な入口です。自分自身の気持ちも含めて「何がどうつらいのか」を率直に整理しておきましょう。
理想の状態を描く必要はありません。「せめてこれだけは」というラインを決めておくだけでも、相談が現実的になります。
無理をしない前提で「どこまでならやれるのか」「どこからは無理なのか」を自分の言葉で持っておくと、支援者からの提案が“的外れ”になりにくくなります。
この3つを整理してから包括に相談すると、「要介護認定が必要かどうか」「通所か訪問か、どちらのサービスが合っているか」など、次のステップを一緒に考えるための土台ができます。
もちろん、すべてを完璧にまとめる必要はありません。頭の中で整理するだけでも違いますし、ざっくりとメモに書き出して持っていくのもおすすめです。
また、事前に他の家族と情報をすり合わせておくと、当日の相談もスムーズです。たとえば「母はこんな様子だった」「この前こんなことがあった」などのエピソードを共有しておくと、支援者に伝える内容がぶれにくくなります。
例えば今までのポイントを意識した伝え方だとこうなります。「悪い例」と「良い例」を合わせてみてみましょう。
「最近、母の様子が少しおかしい気がします。どうしたらいいでしょうか?介護とか、まだよくわからないんですが、とりあえず何をすればいいですか?」
▶︎チェックポイント:
最近、母が朝食を準備しないまま外出してしまうことが週に2〜3回あります。本人は「大丈夫」と言っていますが、日中誰とも話さない日が続いていて、父の負担が増えてきています。今は私が実家に行けるのが週末だけなので、平日の見守りをどうにかできないか相談したいです。
▶︎チェックポイント:
このように、同じ事例でも表現を変えるだけで、こんなにも伝わり方が変わるんだと認識いただけたかと思います。
地域包括支援センターは、私たちの味方です。ただ、味方になってもらうためには、伝えるべきことを準備しておくことが大切です。
介護の相談は、時に「親不孝なことを言っているのではないか」「こんなことで頼っていいのか」と思ってしまいがちです。でも、支援を受けながら家族として関わるという選択は、決して“逃げ”ではありません。むしろ、自分自身を守りながら、長く寄り添っていくために必要なことです。
地域包括支援センターは、介護が本格化する前から相談できる窓口です。「まだ介護認定は受けていないけれど、最近ちょっと気になることがある」――そんな段階でも、ぜひ一度、気軽に扉をたたいてみてください。その前に、今回ご紹介した「3つの整理」をやっておけば、きっと一歩先に進めるはずです。
佐々木 元勝(ささき・もとかつ)
理学療法士、元デイサービス管理者
新卒で理学療法士免許を取得してから約10年以上、介護現場に身を置き、現在までに介護される人・介護する家族さん達延べ3000人以上の方々と関わる。また、地域住民向けに「介護に関すること」「健康な体作り」等のセミナーを50回以上開催。介護や認知症をもっと身近に感じてもらうためのワークショップを開催している。自身の経験を元に電子書籍も2冊出版。
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介護プロ編集部