育児・介護・仕事のマルチタスク対策術

育児・介護・仕事のマルチタスク対策術

はじめに:全部やろうとしていませんか?

育児に介護、そして仕事。どれも大切で、どれも中途半端にしたくない。そう思うのは自然なことです。

でも、現実は「時間も体力も足りない」と感じる瞬間の連続。自分が3人いればいいのに、そんなふうに思ったことはありませんか?

しかも、育児には「子どもが成長していく」という希望がありますが、介護は「親が少しずつ衰えていく」という現実を受け止めるつらさがあります。心も体も削られる中で、「仕事は休めない」「収入は減らせない」と思えば、どうしても抱え込んでしまいがちです。

でも大丈夫です。全部を背負わなくても、マルチタスクは乗り切れます。少し視点を変えるだけで、暮らしと気持ちが軽くなる。そのヒントを、この記事でお伝えします。

 

育児と介護は、まったく別モノ

一見似ているようで、育児と介護は大きく違います。

育児は、自分自身が過去に経験した世界。保育園や学校など、社会の中に支援の仕組みが整っていて、情報も得やすい。

一方、介護は「自分が経験したことのない」誰かの人生に、突然深く関わることになります。しかも、介護のほうが「終わりが見えにくく」「制度がわかりにくく」「周囲に相談しづらい」といった特徴があり、ストレスや不安が積み重なりやすいのです。

育児と同じように「なんとかなるだろう」と思っていても、介護は意識して情報を集め、早めに体制を整える必要があります。そのためには、まず「違いを知ること」から始めましょう。

 

無理なく両立するための3つの考え方

「プレイヤー」ではなく「マネージャー」になる

介護が始まったとき、つい「自分がやらなきゃ」と思いがちです。

でも、すべての介助を自分で行う必要はありません。介護の専門家やサービスを活用し、自分は「全体を調整する役割」に回ることで、心身の負担を減らすことができます。

育児ではベビーシッターや学童保育を使うように、介護でも「プロに任せる」選択肢をもっと活用していいのです。

 

様子見せず、早めに相談する

親の変化に気づいても、「まだ大丈夫かな」「もう少し様子を見てから」と先延ばしにしがちです。

でも、介護の準備は「早いほどラク」です。地域包括支援センターやケアマネジャーなど、頼れる相手に早めに相談しましょう。

困る前に「お供を増やす」。昔話の桃太郎のように、一人で鬼退治に行かないことが大切です。

 

「介護に合わせて働き方を変える」のではなく「働き方に合わせて介護体制を組む」

よくある誤解のひとつが、「介護のために仕事を調整しなければ」という思い込みです。

でも本来は逆。自分がどんな働き方・どんなキャリアを続けたいかを軸にして、必要な介護サービスを組み合わせていく考え方が、両立を続けるためのコツです。

 

頼れるしくみを味方にする

国や自治体には、さまざまな両立支援制度があります。たとえば介護休業、介護休暇、時短勤務制度、在宅勤務の相談など。

ただし、制度は「知っている人しか使えない」ことが大きな落とし穴。職場の総務や人事に気軽に聞ける関係をつくっておくことも大切です。

加えて、地域包括支援センターは、最初の相談窓口として強い味方になります。

また、遠距離介護や、育児とのダブルケアで負担が大きいときには、保険外の民間サービス(訪問型の見守りサービスや家事代行など)も視野に入れてOK。

「人を頼る」ことに罪悪感を感じる場合もあるかもしれませんが、人の力を借りないと借りないと自分たち家族だけではいつか疲弊してしまいます。

 

最後に:がんばりすぎない選択を

トリプルケアの状況は、誰にとっても簡単ではありません。でも、「自分をすり減らさない工夫」を重ねることで、無理なく乗り越えることはできます。

がんばり屋のあなたほど、「もう少しだけなら」と限界を超えてしまいがちです。だからこそ、「やらないと決める勇気」や「頼る決断」もまた、大切な選択肢なのです。

一人で全部やろうとしなくていい。あなたが倒れてしまわないことが、育児にも、介護にも、仕事にも、何よりあなた自身にとっても一番大事なことです。

この記事が、あなたの「今」を軽くし、前に進むヒントになりますように。

 

この記事を書いた人

室津 瞳(むろつ・ひとみ)
NPO法人こだまの集い代表理事 / 株式会社チェンジウェーブグループ シニアプロフェッショナル / ダブルケアスペシャリスト / 杏林大学保健学部 老年実習指導教員
介護職・看護師として病院・福祉施設での実務経験を経て、令和元年に「NPO法人こだまの集い」を設立。自身の育児・介護・仕事が重なった約8年間のダブルケア経験をもとに、現場の声を社会に届けながら、働きながらケアと向き合える仕組みづくりを進めている。
【編著書】『育児と介護のダブルケア ― 事例からひもとく連携・支援の実際』(中央法規出版)【監修】『1000人の「そこが知りたい!」を集めました 共倒れしない介護』(オレンジページ)【共著】できるケアマネジャーになるために知っておきたい75のこと(メディカル・ケア・サービス)

この記事の監修者

介護プロ編集部

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