2023年5月26日、リクシスは、第5回『全国ビジネスケアラー会議』を開催いたしました。今回のテーマは、家族間コミュニケーションです。遠距離で暮らす高齢の親をもつビジネスパーソンが多い中、今のうちからご家族内で話しておくべきことについて、気になる方も多いのではないでしょうか?
この度は、日本全国でシニアの方々の相談窓口を展開する有識者や介護のプロ、実際に家族間コミュニケーションにおける壁を乗り越えられてきたビジネスケアラーの方をお招きいたしました。70歳以上の高齢なご家族がいらっしゃるビジネスパーソン向けに、今から知っておくべき家族間コミュニケーションの内容やコツについて、徹底解説していきます。
本記事では、第2部講演内容(前編)をダイジェストにてご紹介します。
木場猛(こば・たける)株式会社リクシス チーフケアオフィサー
介護福祉士、介護支援専門員。東京大学文学部卒業。2001年の在学中から現在まで20年近く、現場の介護職として2,000世帯以上の高齢の方とご家族を支援した経歴あり。
2018年株式会社リクシスに参画。現在も高齢者支援や介護の現場に携わりながら、仕事と介護の両立支援クラウド「LCAT」ラーニングのコンテンツ作成や「仕事と介護の両立個別相談窓口」の相談業務を担当。介護を続ける中で学んだことは、雨が降ったら傘をさすように困った時には当たり前に支えがある社会づくりが必要だということ。
第2部では、株式会社リクシスのチーフケアオフィサーである、木場猛氏にご登壇いただき、介護における家族間コミュニケーションで起きやすいトラブルについて講演していただきました。
第2部後編では、家族間コミュニケーションにおける相談事例を元に、親や兄弟へのコミュニケーションの取り方や問題を円滑に解決するためのサービス活用についてお話していただきました。
木場氏講演の前半は「介護家族間で起きやすいトラブルそとの原因、家族間で事前にシミュレーションしておくといいこと」が議題となりましたが、続く今回の後半では、ケース別で考えるコミュニケーションのポイントがテーマとなります。実際、介護家族間のコミュニケーションでは、どんな悩み事例があるのでしょうか?
木場氏が多くの介護現場の経験から得た「介護家族が抱える主なコミュニケーションのお悩み例」の傾向は、大きく分けて以下の4つなのだそうです。
実際の相談事例
このように、介護が始まる前と始まってからでは、悩みの内容も変化していきます。木場氏によると、すでに困り事が出ている時に、親をどうやって説得するのかという相談はかなり多いとのことです。
では、このような家族間コミュニケーションの問題に対して、どのような対応をすれば良いのでしょうか?その解決策とコツを、4つのお悩み例のケース別に考えていきます。
親に、「この先介護になったらどうしたいのか」「万が一のときは施設に入るのか」「いつまで運転するのか」といった心理ハードルの高い直接対決に対して、どのようなアプローチをすれば良いのでしょうか。
木場氏から、直接対決を避けるアプローチ3つを紹介してもらいました。
「1つめは、タイミングを見計らうことです。難しそうだなと思う時に話を切り出すのはハードルが高いので、共通の知人や有名人で老後の話題が出たタイミングで話を切り出しましょう。また、今困っていることがあれば、それを話題にして話を切り出すことも良いでしょう。2つめは、ほかの親族経由で確認することです。すべて自分で確認する必要はないので、親と年の近い親戚の方に聞いてもらうことも良いでしょう。ほかにも、お孫さんが『おじいちゃんは大きくなったら何になるの』というようなことを聞いて、話を切り出せたという方もいました。3つめは、道具や他人を使うことです。エンディングノートの活用や、住まいや終活関係の相談窓口などです。ほかにも、物の片付け業者の方も、話を聞いてくれる場合があります」(木場氏)
他にも、「昔の写真を見ていて自然に話を切り出せた方もいた」という例の紹介もありました。確かに、昔の写真を見ることは、家族間で自然に話を切り出せる良い手段であると言えます。
「写真を見ておくと、親という顔以外の本人の思いや価値観があることに気づきます。また、本人が意思表示できなくなった時の、判断基準に繋がることもあります」(木場氏)
親が意思表示できなくなり、家族が意思決定をした時に本当にこれでよかったのかと思うこともあるでしょう。後で罪悪感を抱くことがないように、親の思いや価値観を知ることができるような、コミュニケーションを図っていきましょう。
では、介護の始まりでご本人の拒否がある場合など、互いの意見の食い違いで既に困り事が出ている時には、どうやって説得すれば良いのでしょうか。
「結論から言うと、直接説得するのは難しいです。家族が無理に説得しようとすると、どちらかが力でねじ伏せようとします。それが尾を引いて、後々の家族関係も悪化します。そのため、説得するのが難しいと感じたら地域包括支援センターやケアマネージャーなどの専門職に頼ることが大切です。仮にもめてしまっても、第三者である相談員は家族と違って変わりがいるので、本人に提案しにくいことは専門職の方に依頼しましょう。とくに、介護の始まりにおいては頼れる方がいるということを知っておきましょう」(木場氏)
介護の最初の段階では、介護を必要とするご本人に提案しにくいことも多々あるでしょう。家族で無理に説得すると後々の関係性も悪化してしまうので、相談員や専門家を活用して提案をしてもらう方が良い、ということです。
次に、本人以外の家族間でのコミュニケーションにおいて、「介護のことを自分だけで進めていいのかわからない」「兄弟や配偶者とスムーズに意見交換できる方法はないのか」「自分が主たる介護者のためにできることは何なのか」という相談事例があります。
兄弟間でのコミュニケーションのポイントは、以下のように立ち位置によって変わってきます。
「自分が主たる介護者の場合は、手伝ってもらえることはやってもらった方が良いです。しかし、親の状態を伝えていないことでトラブルになることもあります。そのため、親が入院したことや介護度が上がったことなど、面倒かもしれませんが粛々とほかの家族に伝えましょう」(木場氏)
親のことを兄弟に伝えていないと、兄弟は怒って手伝ってくれなくなることもあるでしょう。ただでさえ介護で大変ですが、ひとりで抱え込まないためにも情報共有しておくことが、後々もめないためにも重要なのです。
では、自分が主たる介護者ではない場合は、どのようなことに注意していくと良いのでしょうか。
「介護している人の様子を気にかけることが大切です。しかし、介護方針に口を出すのは危険です。とくに、介護される方のサービス利用について口を出すのは難しいでしょう。ですが、ひとりで抱え込んでいないか、頑張りすぎていると思った時には、『介護サービスを増やしてもいいかも?』という言い方で伝えることは必要だと思います」(木場氏)
そのほか、木場氏からは、「私がこう思う」という伝え方をすると外した時にリスクがあるので、「私が思っているわけじゃないけど、リクシスの木場さんという方が言っていたよ」など、第3者の名前を使うと伝えやすいという提案もありました。
次に、現在の日本の介護問題のひとつとして挙げられている「老老介護」のケースについて考えていきましょう。
自分自身が主たる介護者ではなく、介護自体を手伝えなかったり、お金を出すことが難しい場合、つまり親が「老老介護」の環境に置かれるケースでは、実際どのくらいの負担がかかっているのか実情が見えにくいものです。
お悩み事例でも多い「老老介護」をしている親の介護ストレスが心配になった時のアプローチが紹介されました。
「1つめは、介護のサービスを増やして家族の負担を減らすことです。2つめは、レスパイト(小休止)のサービスを使って、介護者の負担を減らす目的でサービスを増やすこともあります。これら2つはケアマネージャーに相談することになります。遠方の方の場合は、ケアマネージャーの連絡先を知っておくと良いでしょう。介護者は大丈夫と言っているが、本当はどうなのか、ケアマネージャーに確認することもできます。3つめは、介護している人の話を聞いて、精神的負担をケアをすることです。相談窓口や家族会を利用して、家族からの共感を得ることも、精神的ケアの方法です」(木場氏)
支援者(介護家族・ビジネスケアラー)は、責任感からひとりで抱え込むことが多々ありますが、それは精神的・身体的にも負担となっていき、共倒れとなる可能性が高くなってしまいます。特に老老介護の場合は、介護する側も高齢であるため、介護者のレスパイトケアが介護生活の鍵を握ります。
「日中利用できるデイサービスを増やすこと、一時的に施設に宿泊するショートステイを利用して、介護者の負担を減らすことができます。精神的負担を軽減する家族会や介護相談窓口は、地域包括支援センターに情報が集まっています。ほかにも、介護している人の家事を減らすことで負担を減らすこともできます」(木場氏)
自分自身が主たる介護者ではない場合においても、ケアマネージャーや専門家といった第三者を通し、最善策を提案をしてもらう方が、事は円滑に進むということです。
最後に、今回のテーマのまとめとして、木場氏からのアドバイスがありました。
「家族間コミュニケーションにおけるポイントは、3つあります。1つめは、主たる介護者や意思決定者、費用の出どころをシミュレーションすることです。2つめは、要介護申請などで本人の説得が難しいと感じたら、迷わず専門職に相談することです。介護申請の手前であれば、片付け業者など、その時々の困りごとに対して相談できる方もいます。3つめは、主たる介護者に対しては、必要に応じたレスパイト導入のすすめと共感をすることです。介護している人の負担を考えてメンタルケアをすることも大切です」(木場氏)
家族間コミュニケーションは、木場氏のような専門職の方であっても失敗するほど複雑で、家族ごとに個性があるものです。
介護における問題で円滑に家族間のコミュニケーションを取るためには、無理のない範囲で話を進め、使えるサービスはすべて活用し、ケアマネージャーや専門家など第三者のアドバイスを柔軟に取り入れるという対処法を実践してみてください。
次回は、第5回『全国ビジネスケアラー会議』の【第3部】「介護体制を築く上でのポイントと、家族だからこそつまづきやすい壁」のレポート記事です。介護福祉士・看護師として働きながら、仕事・介護・出産・育児・看病の両立を行ってこられた室津瞳氏の体験談をご紹介していきます。
⇒同イベントレポートの続きはこちら
【第3部】介護体制を築く上でのポイントと、家族だからこそつまづきやすい壁
⇐同イベントレポート(前編)はこちら
【第2部】介護における家族間コミュニケーションで起きやすいトラブルとは(前編)
izawa 株式会社リクシスCCO(チーフケアオフィサー)
東京大学文学部卒業。2001年の在学中から現在まで22年以上にわたり、介護士・ケアマネージャーの現場職として、1,000組以上のご家族を担当し、在宅介護、仕事と介護の両立支援に携わる。