2023年11月22日、リクシスは第11回『全国ビジネスケアラー会議』を開催いたしました。
今後、高齢社会がより一層加速する日本において、仕事をする傍らご家族の介護を行うビジネスケアラーの方が増えてきます。
現役のビジネスパーソンが突如として介護と仕事の両立の壁に立たされたとき、働き方や介護の方法について、どのような選択を行うべきか悩む声が後を絶ちません。
今回のテーマは「介護保険でできること・できないこと」です。
ご家族の介護が始まると利用する機会が増える介護保険。
日本は介護保険制度やサービスが充実しているといわれますが、実際に利用する際、さまざまな条件や利用範囲に決まりが存在していることをご存知でしょうか?
「介護の手助けが欲しいときに知らなかった」「そもそも介護保険サービスの使い方がわからない」といった状況にならないためにも、介護保険制度の仕組みを把握することが大切です。
日常で使える介護保険サービスの活用術や実践的な知識を徹底解説します。
この記事では、
というテーマでまとめています。
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1.「介護サービスを知ることは希望を生む」ケアラ―経験者による介護の変遷とハワイ旅行実現までの道のり(前編)⇐このページのテーマ
2.「介護サービスを知ることは希望を生む」ケアラ―経験者による介護の変遷とハワイ旅行実現までの道のり(後編)
3.「介護保険でできること・できないこと(前編)」
4.「介護保険でできること・できないこと(後編)」
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金子 萌(かねこ・もえ) 株式会社想ひ人代表取締役
東京大学教養学部卒業。外資系コンサルティング会社を経て外資系メーカーでシニアブランドマネージャーとしてマーケティング業務に従事。
若年性のパーキンソン病と認知症を患う父親を10年以上在宅介護している経験。介護に驚きと希望をという思いから「在宅介護者のケア」事業を営む株式会社想ひ人を起業。元ヤングケアラーとしてのドキュメンタリーがBBCやTBSで放映されるなど、発信活動にも積極的に取り組む。
親御さんの老いや病気、介護に直面すると、何もできなくなり全てを諦めてしまうご家族は多くいらっしゃいます。
金子氏も、12年前お父様が44歳の若さで若年性パーキンソン病と認知症を発症し診断されたときは、未来が見えず絶望を感じたそうです。
しかし現在は、悩みを乗り越えさまざまな制度やサービスを活用しながら前向きに介護を行なっていらっしゃいます。
今回、介護に直面したご家族が感じられてきた諦めを希望に変えるためのヒントを教えていただきました。
「突然ですが眼鏡やコンタクトをつけている方の中で、視力が低下したときに絶望した人はいらっしゃるでしょうか?
17世紀に眼鏡が発明される前の人たちは、視力が低下して見えなくなったら自分1人では生活できないため介護が必要になり絶望を感じたでしょう。
しかし現代は、眼鏡やコンタクトがあるので、絶望する人はいませんよね。
介護が必要になったときも、心身の変化があってできないことが増えても、諦める必要はありません。
介護をサポートするための制度やサービスは日々進化し、できないことを補うためのノウハウが充実しているということを父の介護経験から感じました。
当時、要介護4の父を連れて実現したハワイ旅行は、介護保険サービスはもちろん、保険適用外のサービスも調べ活用しました。
介護サービスの情報を知ることは希望を生み、前向きな気持ちで過ごせるということです」(金子氏)
社会保障制度が整っていて、介護のサポートが充実している日本では、大きく分けて5種類のサービスがあります。
【公的支援】
介護保険対象のサービス 福祉用具貸与(車椅子など)、ホームヘルパー、デイサービス、ショートステイ 医療保険対象のサービス 訪問診療(投薬・検査・処置) 訪問看護(通所、訪問リハビリ) 障がい福祉対象のサービス 就労継続支援、外出のサポート、障がい者支援施設 自治体独自支援 おむつの支給、ゴミ出し、訪問歯科など地域のニーズに合わせた内容 |
【全額負担】
民間会社やNPOの支援 見守り、家事代行、宅食サービスなど |
介護保険は65歳以上の方を対象としたサービスです。原則65歳未満の方は、障がい福祉サービスを利用することになります。
特定疾病に診断された場合は例外で、40歳以上65歳未満の方も介護保険の対象です。
65歳未満で介護状態を引き起こす要因は、何らかの病気、怪我がもとになるケースが多い傾向です。
「私の父も特定疾病の若年性のパーキンソン病の認定を受けていたため、障がい福祉サービスにプラスして介護保険サービスも受給していました」(金子氏)
障がい福祉サービスは65歳未満の方を主体に考えているため、就労関係や社会生活を営む支援がメインです。一方、介護保険サービスは65歳以上の高齢の方にとって必要な、訪問看護や介護老人福祉施設など日常生活に関わる支援が対象です。
原則として65歳以上の方は介護保険サービスが優先されますが、介護保険では補いきれない場合のみ障がい福祉サービスも適用されます。介護保険・障がい福祉・医療保険サービスは重複する内容が多くとても複雑なため、利用条件に関しては注意が必要です。
お父様の介護を12年間行なわれてきた中で、介護保険サービスを利用し始めたのはわずか4年前からだそうです。
今では「なんでそんな長い間使おうとしなかったんだろう」という思いがあるとおっしゃっています。介護保険サービスを利用するまで8年かかった当時の状況についてお話しいただきました。
「2011年の12月に発症してから2019年の6月までは、介護保険制度を使わず、障がい福祉サービスのみ利用していました。2014年の3月頃に病気を理由に会社から退職勧奨を受けてしまい働けない状態になってからは、福祉サービスの就労支援をメインで受けていました。
病気の発症から約8年後、要介護2の認定を受けて初めて介護保険サービスを利用しました。その後、要介護4そして要介護5と進行していきました。
介護保険サービスは仕組みも複雑でわかりにくいことが課題だと思っています。これらの経験を原動力に会社を立ち上げ、豊富な制度を有効に使っていただけるよう努めています」(金子氏)
金子氏のお父様は、2019年6月頃から2020年の1月頃まで要介護2の認定を受けていました。
お父様はすでにパーキンソン病を発症していたため体幹が不安定なときもありましたが、当時はまだご自身の足で立って歩くことはできる状態だったそうです。
要介護2で利用されていたサービスは以下の3種類です。
介護保険対象:デイサービス 障がい福祉:障がい年金2級、難病患者福祉制度(10,000円/月) 医療保険:難病医療費助成 |
「若年性認知症の方を対象としたデイサービスを週2回、9時から17時ぐらいまで利用していました。デイサービスの内容は、公園や施設への外出や、身体機能の衰えを予防する目的でのリハビリなどです。
障がい福祉サービスは、国の制度である障がい年金2級の受給にあわせて、居住していた中野区独自の制度である難病患者福祉手当を頂いておりました。
他にも医療保険の部分では、国の制度である難病医療費助成もあわせて利用していました」(金子氏)
金子氏のお父様は2020年1月頃には認知症の症状も進行し、食事や入浴、排泄など身の回りのこと全てにおいて介助が必要になりました。
そのため、要介護2から一気に要介護4の判定を受けました。要介護4の認定を受けた結果、介護保険の中で使えるサービスが増えたそうです。
介護保険対象:デイサービス、ショートステイ 障がい福祉:障がい年金2級、特別障がい者手当、障がい者福祉手当 医療保険:難病医療費助成 自治体支援:紙おむつ支給 |
「介護保険対象のデイサービスは、平日は週5回、介護施設に数日宿泊するショートステイを月1回程度利用できるようになりました。医療保険サービスは引き続き難病医療助成制度、自治体支援のサービスも利用しました」(金子氏)
障がい福祉は、サービス内容が少し複雑で注意すべき点があると金子氏はおっしゃいます。
「障がい年金と障がい者手帳はそれぞれ異なる認定が必要です。
父はこのとき、身体障がい者手帳2級に該当していたため、国制度の特別障がい者手当と区制度の障がい者福祉手当をいただけるようになりました。
これらの手当は、障がい者手帳のレベルや所得によって制限があります。個々によって手当を頂ける条件が違うため、ご自身で必ず調べておくとよいでしょう」(金子氏)
金子氏は2022年9月に要介護4のお父様を連れてハワイ旅行を実現されました。
お父様の体調が安定していたことなどさまざまなタイミングが重なり叶った念願のハワイ旅行は、おそらく今回が最後の海外旅行になるだろうという思いで行かれたそうです
ハワイ旅行を安全に楽しむため、具体的にどんなサービスを利用したのでしょうか。
航空機のカウチシート
「いつでもあるわけではないサービスかもしれないのですが、エコノミークラス1席の値段にプラス10万から15万円ほどで3席分の座席を利用することができました。パーキンソン症状があって座った姿勢を保つのが難しい父も、横になることで移動中も快適に過ごすことができたようです」(金子氏)
機内専用車椅子
「飛行機に搭乗する直前までは自分自身の車椅子で移動するのですが、飛行機内は狭いため機内専用車椅子というものを航空会社が無料で貸してくれます。機内専用車椅子は、飛行機内の狭い通路でも通れるように横幅が狭く設計されているため、父は車椅子から乗り換えてそのまま座席まで行けました」(金子氏)
ホテルのバリアフリールーム
「今回宿泊したホテルのバリアフリールームは、あらかじめ車椅子の利用を伝えたところ他の部屋と同額で案内してもらいました。
バリアフリールームは、廊下の幅が非常に広くキッチンや洗面所が通常より低くなっています。
父の車椅子はサイズも大きく重さも35kgほどあるのですが、広々と過ごしやすい設計になっていたのでとても助かりました」(金子氏)
水陸両用車椅子
「水陸両用車椅子はホノルルのビーチで無料レンタルしました。
父は病気を発症して以来初めての海で、まさかこのような状態で入れるとは思っていなかったのでとても良い思い出になりました」(金子氏)
オーダーメイド車椅子
「東京都の補装具費支給制度は、一般的な車椅子では難しい方に対し、個々の体に合わせてオーダーメイドするための費用を支給する制度です。
父がオーダーメイドした車椅子は、背面が高く座位が保ちやすい作りになっています。座位が保ちやすいため、長時間の外出もできるようになり、父もハワイの街並を楽しんで過ごせました」(金子氏)
金子氏のお父様は、2023年の初めに誤嚥性肺炎を起こしたことをきっかけに一気に状態が進行してしまい、現在は要介護5の認定を受けています。
飲み込みが難しくなってきたため胃瘻を作り、痰の吸引を昼間は1時間〜1時間半に1回、深夜は10分〜20分に1回のペースで必要な状態です。
お父様はリハビリ病院に半年ほど入院していらっしゃいましたが、現在はさまざまな制度を利用しながら24時間体制でお母さまと在宅で介護を行なっていらっしゃいます。
在宅介護では具体的にどんな制度を利用しているかお伺いしました。
「介護保険サービスでは、訪問看護や訪問医療は全て利用しております。
毎日ヘルパーさんや看護師さんに来ていただき、排泄の介助や体を拭いていただいたり頭洗っていただいたり、歯の口腔ケアを行なっています。
自治体独自のサービスとして、紙おむつの支給、訪問美容も1回1,500円も利用しています」(金子氏)
介護状態になると、金銭面の不安も大きいものです。
金子氏のお父様は、65歳未満の方が受給できる障がい福祉制度を現在も利用しています。
「父は47歳のときに会社を退職してから生涯年収が途絶えてしまい、現在も国や自治体の障がい福祉制度から月額いただいております。
若くして病気や介護状態になってしまうと生涯年収が途絶えてしまう不安もありますが、障がい福祉制度にとても助けられました。
障がい福祉制度はお住まいの自治体によって受給できる内容が異なります。お住まいの市区町村へご相談いただくと良いでしょう」(金子氏)
⇒「介護サービスを知ることは希望を生む ケアラ―経験者による介護の変遷とハワイ旅行実現までの道のり(後編)」に続く
サポナビ編集部