特別養護老人ホーム(通称:特養)は、高齢者が安心して暮らせる介護施設です。
専門のスタッフが24時間対応し、食事や入浴、医療などの介護支援を受けながら生活できるため終の住居として人気があります。しかし、特別養護老人ホームの入居には条件があるため、介護施設の特徴や自分のライフスタイルに合わせて選ぶことが大切です。特別養護老人ホームについて正しく理解し、将来のリスクに備えましょう。
特別養護老人ホームとは、常時介護が必要で、自宅での生活が困難な高齢者に対して、食事、入浴、排泄などの日常生活の支援を提供する公的な介護施設です。介護保険法では「介護老人福祉施設」と呼ばれます。特別養護老人ホームは老人福祉法に基づく名称であり、略して「特養(とくよう)」と呼ばれるのが一般的です。
一方、混同しやすい名称に「養護老人ホーム」があります。養護老人ホームは、経済的に困窮している高齢者を養護し、社会復帰の支援を行う施設です。名称が似ていますが、介護保険は適用されないため注意が必要です。
特別養護老人ホームには、広域型、地域密着型、地域サポート型の3つがあります。
それぞれ施設規模や利用対象者などに違いがあるため、種類や特徴を理解しておくことが大切です。
以上のように、特別養護老人ホームには様々な種類があります。自分のニーズに合った施設を選ぶことが大切です。
養護老人ホームと特別養護老人ホームは名称が似ており、混同しやすいですが入居の対象者や施設の役割などが大きく異なります。
養護老人ホームとは、高齢者の方々が自立した生活を送ることができる場合に利用する施設を指します。貧困や虐待などで困窮している高齢者を一時的に養護して、社会復帰の支援を目的としています。介護施設ではないため自立した生活のできる方が対象であり、介護保険サービスは利用できないことが特徴です。
養護老人ホームは社会復帰の支援を行う施設、特別養護老人ホームは介護を行う施設と区別されているため注意しましょう。
特別養護老人ホームには以下の3つの特徴があります。
特別養護老人ホームは、介護職の人手不足や要介護度3以上の制限、地域別に異なる待機者数などの理由により空き状況に差があります。 厚生労働省の統計では、2019年度の平均利用率は92.2%、入居待機者は2022年4月1日時点で27.5万人とされ、2019年以前とくらべて5.1万人減少しています。こうした統計から近年は、待機者数は年々減少していますが、依然として多いのが特徴です。
特別養護老人ホームへの入居を申し込むと、施設に空きがない場合は待機期間が発生します。この期間は、申請時に利用者の状況を確認し、緊急度が高い人から優先的に入所を決定するため待機期間は施設や地域によって異なります。入居までの目安は、短い場合だと1~2ヵ月、長い場合だと数年かかるといわれています。
地域や施設によって空き状況や待機期間は変わるのであくまでも目安として留めましょう。詳細については自治体の地域包括支援センターや施設に確認することが大切です。
特別養護老人ホームの一般的な入居条件は以下の通りです。
原則として、在宅での介護が難しい方が受け入れ対象者となります。ただし、入居条件をすべて満たした方でも、必要とされる医療ケアの程度によっては入居を断られる場合もあります。介護施設ごとに入居条件は異なるため、事前に電話確認や施設見学などを行い確認しましょう。
要介護1~2の方でも、在宅での介護が困難な状態が見受けられる場合は特例として認められるケースがあります。特別養護老人ホームにおける要介護度1~2の方の入居条件は以下のようになります。
要介護度の割合は施設によって異なり、入居者の要介護度に応じた支援が提供されます。厚生労働省の令和2年度「介護老人福祉施設」によると、一番多い要介護度は要介護4で37.8%、次いで多いのは要介護5で32.3%とされています。入居者の平均要介護度については、年々上昇傾向となっています。
厚生労働省の令和2年度「介護老人福祉施設」によると、特別養護老人ホームの年齢階級は85〜94歳が最も多く、全入居者の46.8%に達しています。以降は、75〜84歳(23.2%)、95歳以上(14.1%)と続きます。特別養護老人ホームでは、85歳以上の入居者が全入居者数の60.9%を占めています。
介護施設について考えるきっかけやタイミングは、人によってさまざまです。大きな病気や認知症をきっかけに、または家族に迷惑をかけたくないという思いから施設を探す、などのように身体状況や住環境の変化が居住を検討し始めるタイミングとなります。入居を検討し始めるタイミングをまとめると、以下のような場合が挙げられます。
これらの状況を想定しながら、早い時期から介護の相談や施設の空き状況、待機期間などを確認することが大切です。また、今後介護が必要なった場合に備え、家族やケアマネージャーと療養する場所についてあらかじめ相談を重ねることも大切です。
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特別養護老人ホームでは、以下のような医療・介護サービスを受けることができます。
食事は、栄養バランスを考慮し、利用者の健康状態に合わせたメニューが提供されます。また、食事の形態や量など利用者の状況に応じて選択されます。食事に必要な介護が提供され、入居者が安心して食事を楽しむことができるように配慮されています。
入浴は、健康維持や清潔を維持するために必要な日常生活の一つであり、利用者に合わせて個別に支援が行われます。入浴後は、利用者の体調管理やおむつ交換などの介護が行われます。
排泄は、健康を維持するために必要な日常生活の一つです。利用者の身体の健康状態や排泄能力に応じて、介護を受けることができます。
施設医または訪問診療を行う医師や看護職員が健康管理を行います。入居者の健康状態やニーズに合わせて、定期的な健康チェックや診療情報の提供、運動指導、栄養管理などが行われます。また、緊急時や夜間に看護師がいない場合は、連絡が取れるようにオンコール体制などを敷いています。また、各職種が連携して感染症や食中毒の予防に努めています。
入居者の機能回復や日常生活動作の向上が目的です。主なリハビリテーションには、言語聴覚療法、作業療法、理学療法、運動療法などがあります。リハビリテーションにより、入所者の健康維持やQOL向上につながるため、積極的に取り組むことが重要です。
生活支援は、入居者の意思を尊重し、その生活を支えることを目的としています。入居者に合わせたケアプランが作成され、介護スタッフが日常生活のサポートを行います。 特に、認知症の高齢者に対しては、常に親身になってコミュニケーションを取り、ストレスを軽減する支援が大切です。
入居者の生活の質を向上させるために、レクリエーションやイベントが定期的に開催されています。また、季節に合わせたイベントとして、お花見や夏祭り、クリスマスパーティーなどがあります。これらのイベントは、入居者の社会交流を促しストレスを軽減する効果や楽しい時間を過ごす機会となります。
慣れ親しんだ施設で人生の最期を迎えられるよう、医師、看護職員、介護職員など看取りの体制が整えられています。随時本人や家族に十分な説明・同意を得ながら看取りのための介護を受けることができます。
これらサービスに加えて、施設によっては認知症ケアやリハビリテーションなどの専門的なサービスを提供しているところもあります。また、入居者の状態やニーズに応じて、個別にサービスの提供内容を変更することができます。必要な支援については、施設のケアマネージャーと相談をしましょう。
特別養護老人ホームは公的な施設であり、民間の施設に比べると費用は安く設定されています。特別養護老人ホームの費用負担は施設によって異なりますが、施設介護サービス費、介護サービス加算、居住費、食費、日常生活費などの項目が設けられています。
ここでは、部屋のタイプ別に「居住費・食費・介護保険1割負担額」を合計した特別養護老人ホームの1ヶ月にかかる費用負担の目安を以下にあげています。
特別養護老人ホームでは、入居者が利用できる居室タイプには以下の種類があります。
特別養護老人ホームの居室タイプは施設によって異なるため、入居前に確認することが大切です。
特別養護老人ホームでは円滑な介護サービスを提供するため、様々な役割を持つ専門スタッフが配置されています。その人員基準は、法令により下記のように定められています。
特別養護老人ホームは、高齢の入居者が介護サービスを受けながら安心して生活できる施設です。また、家族にとっても施設には医療・介護スタッフが常駐しているため安心です。特別養護老人ホームの利用には、待機期間が必要です。長期的な視点をもち、日頃から家族で今後の療養する場所について話し合い、ケアマネージャーとの相談や施設を見学するなど、普段からの情報収集が大切です。
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参考:
介護老人保健施設の運営状況に関するアンケート集計結果まとめ)
厚生労働省 平成28年12月 特別養護老人ホームにおける利用率及び介護職員充足状況に関する実態調査
厚生労働省「特別養護老人ホームの入所申込者の状況」
厚生労働省 特別養護老人ホームの入所申込者の状況(令和4年度)
厚生労働省 特別養護老人ホームの「特例入所」に係る国の指針(骨子案)について
厚生労働省 令和2年度「介護老人福祉施設」
木場 猛(こば・たける) 株式会社チェンジウェーブグループ リクシスCCO(チーフケアオフィサー)
介護福祉士 介護支援専門員 東京大学文学部卒業。高齢者支援や介護の現場に携わりながら、 国内ビジネスケアラーデータ取得数最多の仕事と介護の両立支援クラウド「LCAT」ラーニングコンテンツ監修や「仕事と介護の両立個別相談窓口」相談業務を担当。 3年間で400名以上のビジネスケアラーであるご家族の相談を受けた経験あり。セミナー受講者数、延べ約2万人超。
著書:『仕事は辞めない!働く×介護 両立の教科書(日経クロスウーマン)』
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