まずは、要介護認定(要支援認定)の概要やどのような流れで行われるかなど、基礎知識を確認しておきましょう。
要介護認定(要支援認定)とは、必要な介護サービスを受けるために、日常生活における介助度や介護度を判断する評価方法のことです。そのため、ご本人の病気の重さとは必ずしも比例しない場合もあります。
介護度の高さは、要支援1~2、要介護1~5の全部で7段階。段階別に認定基準が設けられており、また仮に介護が不要と判断された場合には、自立と認定されるようになっています。
介護度認定(要支援認定)の流れ
STEP1:申請
まずは、ご本人が住む市区町村・自治体の窓口へ申請をします。
<申請に必要なもの>
申請書
介護保険被保険者証(65歳以下の方は健康保険証)
マイナンバー(記載が難しい場合は未記入でも可。※各自治体で異なるため事前に確認が必要)
STEP2:訪問調査
認定調査員による訪問調査が行われます。
<訪問調査の内容>
調査概要:家族・住居・病気などを調査する項目
基本調査:身体機能・生活機能・認知機能・社会性などを調査する項目
特記事項:基本調査をより詳細に調査する項目
STEP3:主治医が意見書を作成
訪問調査の内容を受け、主治医が意見書を作成します。
※主治医がいない場合は、市町村指定の医師が作成
STEP4:一次判定
コンピュータによる一次判定が行われます。判定に使用されるのは、訪問調査による内容と主治医(または市町村指定の医師)が作成した意見書です。
STEP5:二次判定
介護認定審査会による二次判定が行われます。判定に使用されるのは、一次判定の結果と主治医(または市町村指定の医師)による意見書、さらに訪問調査の項目である特記事項です。これらをもとに、保健・医療・福祉の各専門家が話し合い審査判定します。
出典:厚生労働省「要介護認定に係る制度の概要」「要介護認定はどのように行われるか」
要介護3と4の身体状況には、どういった違いがあるのでしょうか。
その違いを知る目安としては「歩行、両足での立位、座位保持」といった動作を介護なしでできるかどうかが大きなポイントとなります。
また、認知症の進行具合も判定の基準に関わってきます。
要介護3の状態では、身体的な衰えによって立ち上がりや歩行することが難しく、食事や排せつ、入浴など日常生活の基本的なことにも介助が必要となります。
また、認知機能の低下も進み、見当識障害(時間や場所、人などの感覚が分からなくなる、判断できなくなる状態)や実行機能障害(目標を立て、物事を計画どおり順序よく行うことができなくなる状態)が現れることがあります。
家族だけでの介護は難しいと感じることが増えるため、施設に入居するケースが多くなります。特別養護老人ホーム(特養)への入居が可能となるのも、原則として要介護3からとされています。
要介護3は、日常生活のほぼすべてに介護が必要となる状態で、要介護の一つの節目として見なされます。具体的な症状としては、以下が挙げられます。
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要介護4は、基本的な動作である立ち上がりや歩行などに加え、立ったままや座ったままの姿勢を保つことも困難になります。車いすや歩行器を使用する方、寝たきりの方も少なくありません。
同時に認知機能の低下も進み、意思の疎通が難しくなることもあります。暴言や暴力、不潔行為、徘徊、妄想、誤食や異食など、認知症の周辺症状も目立ってきます。
要介護3と同じように、介護負担が大きくなるため在宅介護だけでは限界が生じ、介護サービスの利用や施設入居を選択する方も多くなります。
要介護4は、日常生活のほぼ全てにおいて全面的な介助が必要な状態と言えます。具体的な症状としては、以下が挙げられます。
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要介護認定は、厚生労働省によって定められた要介護認定等基準時間に基づいています。
要介護認定等基準時間は、介護サービスをどれくらい行う必要があるかを判断するためのものです。あくまでも介護の必要性を量る「ものさし」であり、直接、訪問介護・訪問看護等の在宅で受けられる介護サービスの合計時間と連動するわけではありません。
介護認定等基準時間は、要介護3では「70分以上90分未満」、要介護4は「90分以上110分未満」と決められており、介護度が上がるにつれ介護サービスの必要度が上がっていることが分かります。
要介護度別の要介護認定基準時間
介護度 | 要介護認定等基準時間 |
要支援1 | 25分以上32分未満 |
要支援2・要介護1 | 32分以上50分未満 |
要介護2 | 50分以上70分未満 |
要介護3 | 70分以上90分未満 |
要介護4 | 90分以上110分未満 |
要介護5 | 110分以上 |
※上記の要介護認定等基準時間が上記の時間またはそれに相当すると認められる状態
上記の表から、介護認定等基準時間は、要介護3では「70分以上90分未満」、要介護4は「90分以上110分未満」と決められており、介護度が上がるにつれ介護サービスの必要度が上がっていることが分かります。
また、介護認定基準時間の決定におけるポイントは以下の5つです。さまざまな視点から介護に必要な時間を割り出しています。
介護度の認定は、コンピュータによる一次判定が行われた後、一次判定の結果と医師による意見書をもとに保健医療福祉の学識経験者が話し合いで行う二次判定で決定されます。
出典:厚生労働省「用語の説明」「要介護認定はどのように行われるか」
要介護3と4では、利用できる介護保険サービスの種別に大きな違いはありません。どちらの区分でも、同じ介護保険サービスを受けることが可能ですが、要介護4の方が支給限度額が多いため、より多くの回数・多くの時間サービスを利用できるという違いはあります。
また、入居順は緊急性の高さを優先する特別養護老人ホーム(特養)などの介護保険施設利用については、要介護4の方のほうが早期入所の可能性が高くなるとされています。
要介護3では、それまでの要介護2よりも介護が必要となるケースが多くなり、介護サービスの利用回数を増やしたり、介護施設入居の検討を始めるタイミングとなります。
在宅介護の場合、最も利用が多いのが訪問サービス(訪問介護・訪問看護など)で、次に通所介護(デイサービス)、短期入所生活介護(ショートステイ)のサービスが利用されています。
施設のサービスでは、より手厚い介護サービスや医療ケア・リハビリが提供される特別養護老人ホーム(特養)や介護老人保健施設(老健)に入所する人の割合が高くなっていきます。
参考:厚生労働省「介護保険事業状況報告」、厚生労働省 国民生活基礎調査 令和元年国民生活基礎調査「介護を要する者数,現在の要介護度の状況・介護サービスの利用状況・利用した介護サービスの種類(複数回答)別」
要介護4では、比較的重度の症状が見られるケースが多く、高齢者向け施設への入居を検討せざるを得ないことも多くなります。要介護4の方の入居先としては、介護度が高くても受け入れが可能な特別養護老人ホーム(特養)などの施設を選ぶ必要が出てきます。
一方で、要介護4の方の在宅介護は不可能ではなく、要介護3のとき以上に居宅サービスの利用頻度を増やすことで対応することもできます。要介護3と同様に訪問サービス(訪問介護・訪問看護など)、通所介護(デイサービス)、短期入所生活介護(ショートステイ)が多く利用されていますが、外出が困難な方が多い要介護4では、要介護3よりも訪問サービスの利用割合が増加し、通所サービスの利用割合が低くなっています。
参考:厚生労働省「介護保険事業状況報告」、厚生労働省 国民生活基礎調査 令和元年国民生活基礎調査「介護を要する者数,現在の要介護度の状況・介護サービスの利用状況・利用した介護サービスの種類(複数回答)別」
介護保険サービスは、所得によって1~3割の自己負担で利用することができますが、介護度により「区分支給限度基準額」として介護保険が適用される上限額が定められています。
区分支給限度基準額の月額は、要介護3は270,480円、要介護4では309,380円と決められているため、例えば自己負担1割の場合は、要介護3で27,048円、要介護4で30,938円が上限となります。
なお、限度額を超えて利用した場合、介護度に限らず超過分は全額自己負担となります。
区分支給限度基準額と自己負担額(月額)
要介護3 | 要介護4 | |
区分支給限度基準額 | 270,480円 | 309,380円 |
自己負担1割の場合 | 27,048円 | 30,938円 |
自己負担2割の場合 | 54,096円 | 61,876円 |
自己負担3割の場合 | 81,144円 | 92,814円 |
※1単位当たり10円として計算した場合
介護保険の自己負担割合は、世帯の構成や本人の所得に基づいて、年に一度見直されます。自己負担割合は「介護保険負担割合証」という書類を通じて確認できます。もし年金収入が増えたなどの理由で自己負担割合が変わる場合には、新しい証書が発行されます。
出典:厚生労働省 2019年度介護報酬改定について
要介護3から4になったときの主なデメリットは、金銭的負担が大きくなること挙げられます。要介護3のときに在宅介護であった方では、介護度が上がったために施設入所が必要になり、負担する費用が増加する傾向にあるのです。
とはいえ、すべての在宅介護の方において、施設入所が金銭的負担の増加につながるかというとそうではありません。
ご本人の体調がだんだんと悪くなっていくと家族だけでは手が足らず、ケアを増やす必要があります。物品の購入が増えたり、24時間見守りが必要な状態になったりすると、介護保険で賄いきれない場合があり、すると自費でヘルパーや家事代行を依頼しなければならない可能性も出てくるのです。
在宅介護で月額40万以上になる方では、施設へ入所したほうが費用の負担が少なく済むこともあります。介護の必要度の高さと費用のバランスを見て、ご本人とご家族にとって良い選択ができるようご検討ください。
要介護3と要介護4は、どちらも身体的な衰えにより日常生活で介助を必要としている状態で、認知症が進行している場合もあります。要介護4では、基本的な動作において自力で行えないことが多く、介護サービスの利用は必要不可欠となります。
要介護3と4では、利用できる介護保険サービスに違いはないものの、介護保険の支給限度額が異なるため、必要なサービスの種類や頻度に違いが生じます。
どちらの介護度も、在宅介護の場合は支援者(介護家族・ビジネスケアラー)の負担が大きくなる段階です。家族だけで抱え込まず、無理のない生活を送るためにも、必要な分の介護サービスを活用し、施設入居の検討も視野に入れていきましょう。
金山峰之(かなやま・たかゆき) 介護福祉士、社会福祉士、准看護師。福祉系大学卒業後、20年近く在宅高齢者介護に従事。現場専門職の傍、介護関連の講師業(地域住民、自治体、国家公務員、専門職向け等)や学会のシンポジスト、介護企業向けコンサルティング事業、メーカー(ICT、食品、日用品等)へシニア市場の講演などを行っている。
厚生労働省関連調査研究事業委員、東京都介護人材確保関連事業等委員など経験。
元東京都介護福祉士会副会長。政策学修士。