入院前には、普通に暮らせていた高齢者が、入院したことがきっかけで、認知機能を低下させてしまうというのは、非常によく見られることです。高齢者の入院には、一般に信じられている以上に精神的ストレスがあり、認知機能への悪影響があると考えられます。
とはいえ退院後には、認知機能が回復するケースも多いようです。ただ、中には、退院後も長期にわたって低下した認知機能が回復しなかったり、多少の改善はみられてももとの状態には戻れないというケースも見られます。
今のところ、入院による認知機能の低下に関する研究は、まだあまり存在していません。また、退院後の認知機能の回復に関するところも、あくまでも医療・介護関係者の経験則であり、しっかりとした研究は少ない状態にあります(阪神グリーンクラブ・ニュース, vol.173)。
専門的には、入院する原因となった病気(原疾患)を治すために、長期に渡って安静に横になっている(安静臥床)ことがきっかけで、日常生活のための機能が失われることを、特に入院関連機能障害(Hospitalization-Associated Disability:HAD)と言います。
入院関連機能障害には、先に取り上げた認知機能の低下以外にも、歩行困難になったりといった身体面での衰えも含まれます。そして、70歳以上の高齢者の入院においては、その30〜40%に、なんらかの入院関連機能障害が見られたという報告もあります。
国内の報告では、53例中8例(15%)に入院関連機能障害が認められたというものがあります(田邊・矢野, 2017年)。検証データが少ないため、しっかりとしたことは言えませんが、高齢者の入院には、かなりのリスクがあるという認識が必要です。
大切な家族のことですから、病気があれば「心配だから一旦入院して・・・」という気持ちにもなります。しかし、入院すること自体に、入院関連機能障害のリスクがあることを知っていれば、少し考え方も変わるかもしれません。
特に高齢者の場合は、慣れ親しんだ日常を離れることは、高齢者福祉の3原則(生活継続の原則)にも反しています。良かれと思って判断したことが、かえって悪い結果を生んでしまうのは、悲しいものです。
どうしても入院しなければならない場合、医師や看護師に相談しながら、入院関連機能障害を発症してしまわないように対策を打ちたいところです。ただ、医療関係者にとっても、入院関連機能障害への対策は、まだ始まったばかりで、不慣れなところも多いようです。
ですから、入院が必要になったときは、医療関係者に全てを任せ切るのではなく、自分でも入院関連機能障害に注意するようにしてください。後になって入院関連機能障害を発症してしまい、それを医療関係者のせいにしても仕方がないからです。
※参考文献
・田邊 翔太, 矢野 彰三, 『入院関連機能障害(Hospitalization-Associated Disability:HAD)の現状と危険因子の検討』, 日本農村医学会雑誌 65(5), 924-931, 2017
・村木 宏要, 『高齢者の入院は、時としてせん妄状態、認知症を引き起こすことがある。』, 阪神グリーンクラブ・ニュース, vol.173
サポナビ編集部