適応機制(防衛機制)とは?壊れてしまいそうな自分を守る脳内システムについて。

適応機制(防衛機制)とは?壊れてしまいそうな自分を守る脳内システムについて。

 

この記事を書いた人

株式会社リクシス 酒井穣

株式会社リクシス 創業者・取締役 酒井 穣
慶應義塾大学理工学部卒。Tilburg大学経営学修士号(MBA)首席取得。商社にて新規事業開発に従事後、オランダの精密機器メーカーに光学系エンジニアとして転職し、オランダに約9年在住する。帰国後はフリービット株式会社(東証一部)の取締役(人事・長期戦略担当)を経て、2016年に株式会社リクシスを佐々木と共に創業。自身も30年に渡る介護経験者であり、認定NPO法人カタリバ理事なども兼任する。NHKクローズアップ現代などでも介護関連の有識者として出演。

著書:『ビジネスパーソンが介護離職をしてはいけないこれだけの理由』(ディスカヴァー・トゥエンティワン、2018)、『ビジネスケアラー 働きながら親の介護をする人たち』(ディスカヴァー・トゥエンティワン、2023)

適応機制(てきおうきせい)とは?

私たち人間には、様々な欲求があります。そうした欲求が満たされない状態が継続すると、当然、欲求不満になります。しかし、ずっと欲求不満でいることは、精神的なストレスになってしまうでしょう。

そこで人間は、こうした欲求そのものを満たそうとするのではなく、たとえば、それが満たされない状態を正当化するなど、別の方法で、欲求不満を解消しようとします。この人間に備わっている機能を特に「適応機制(てきおうきせい)」と言います。

「適応機制」は、欲求が満たされない自分自身を防衛するという意味から「防衛機制(ぼうえいきせい)」と呼ばれることもあります。ある意味で、心の安全装置といってもよい機能です。自我を守り、自分自身が壊れてしまわないようにするシステムといったほうが、伝わりやすいかもしれません。

しかし注意しないとならないのは「適応機制」ばかり覚えてしまうと、欲求不満と向き合って、その欲求を満たしていくという本来の道が閉ざされてしまうということです。また、精神的なストレスに対する耐性も、育っていかないということにもなりかねません。

こうした意味でも「適応機制」が観察された場合、その欲求不満と向き合うべきか、それとも回避するのが正しいのかといった判断が求められるということです。そのためにも、典型的な「適応機制」について、知っておく必要があります。

 

適応機制(防衛機制)の種類とその簡単な説明

ここでは、参考文献(黒澤貞夫ほか, 2013年)の記述を参考にしつつ、KAIGO LAB 編集部による追記・修正を行ったものを提示しています。気になる場合は、直接、参考文献をあたってください。

攻撃 物や他者に対して、感情をぶつけたり、乱暴したりする。家庭内暴力や組織におけるパワハラのような犯罪として現れることもある。また、自傷といった自分自身への攻撃に向かうこともある。
逃避 困難な状況や場面をさけたり、ほかのことに熱中して問題に向き合うことをさけたり、空想の世界に逃げたりする。必ずしも悪いことばかりではなく、新たなチャレンジや、芸術的な創造力の源泉となることもある。
退行 過去への逃避であり、現在の問題を避けるために楽しかった過去に生きようとする。赤ん坊や子供のように振舞って、依存的な態度を示すことがある。一人っ子だった家庭に、次の子供が生まれるときに、上の子供が示す態度として有名。
拒否 課題となっている事実が存在しないかのように振る舞う。障害を認めなかったり、発生した事実を認めないといったことが起こる。現実と向き合うだけの準備ができていない場合もあり、成長とともに振り帰ることができるようになる場合もある。
隔離 自分に関連することであっても、勤めて冷静に、客観的に観察することで、評論家のように振る舞う。起こっている事実から、感情を切り離す技術でもある。苦しみを生み出している困難と向き合う方法でもあり、悪いこととはいえない。
代償 本来の目標がかなわない場合に、容易な目標を達成することで、満足を得ようとする。特定の大学に受かりそうもない場合、別の大学で満足するといった代償は、誰にでも経験のあるものだろう。
合理化 自分の欠点や失敗をそのまま認めず、社会的に容認されそうな理由をつけて、それを正当化する。いわゆる「言い訳」に相当する。それが「言い訳」にすぎないことを、本人もわからなくなってしまうと危険。
昇華 人間が避け難くもっている性や破壊の衝動といった「暗い欲求」を、スポーツや芸術など、社会的に価値の高いことに向かうエネルギーに変換すること。多くの偉大な表現が、この昇華によるものとされる。
同一視 自分の欲求が満たされなくても、心理的に自分に近い他人の行動を、あたかも自分のことのように感じて、欲求が満たされているように感じる。カリスマ的な人物のファッションを真似るといった行為が、この同一視によるものと考えられている。
投影 自分自身がもつ不安を引き起こしている衝動や欲求を否認し、他者にその衝動や欲求があるように考える。自分が極端な嫌悪感を感じる他者の中には、むしろ、自分自身に似た「嫌な部分」がある可能性もある。
抑圧 過去の不快な記憶が抑制されており、楽しいこと、いいことだけが思い出せる状態。脳が、自らに対してトラウマになるような体験を思い出せなくさせることで、その個体の精神を防衛していると考えられている。
反動形成 自分がもっている否認すべき感情とは正反対の行動をとること。本当は好きな人に対して冷たくしてしまったり、本当は好きなことを人前で否定してしまったりといった行動が、代表的な例とされている。

 

要介護者の適応機制と向き合うとき(ライチャード5分類)

高齢者のタイプを5つに分類した「ライチャードの5分類」と呼ばれるものがあります(詳細はリンク先を参照)。介護という文脈でも、特に介護のプロが、相対することになる要介護者(利用者)をおおまかに分類して理解するために、非常に重要な概念のひとつとされています。

まず、老いを自分なりに受け入れて環境に適応する「適応型」と、それができない「不適応型」に2分類されます。さらに「適応型」としては3種類に、また「不適応型」としては2種類に分類され、全5分類として整理されています。

きちんとした科学的な研究はないものの、この「不適応型」の中でも「攻撃憤慨型(外罰型)」とされる、トラブルを起こしやすい高齢者のタイプには、今回の「適応機制」が働いていることが多いようです。それが理解できただけで問題は解決しませんが、状況を改善する手がかりにはなるかもしれません。

※参考文献
・黒澤 貞夫, 『介護職員初任者研修テキスト』, 中央放棄, 2013年
・市村 弘正, 杉田 敦, 『社会の喪失―現代日本をめぐる対話』, 中央公論新社 (2005/09)

この記事の監修者

サポナビ編集部

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