4千数百種類いるという哺乳類の中でも、人間のように、一夫一妻制が認められるのは、全種の5%以下にすぎません。こうした、哺乳類が特定のパートナーとの関係を持続させたり、解消させたりするときの脳内メカニズムは、少しずつ解明されつつあります。
メスが特定のオスとの絆を作る上では、オキシトシン(愛情ホルモン)が必要とされます。これに対して、オスの場合は、バソプレッシン(下垂体後葉ホルモン)という物質が、メスとの絆にとって重要のようです。
一夫多妻制のネズミのオスにバソプレッシンを導入すると「浮気」が減ることが観察されています。半分冗談ですが、どうしても「浮気」してしまう男性には、バソプレッシンに影響を与える薬剤が開発されるかもしれません。
人間であっても、現在のような一夫一妻制になるには、様々なパートナーシップがあり、自然淘汰が背景にあります。一夫一妻制のメリットは、オスが、特定のメスの生存環境を整える投資をすることで、子供をより安全に出産し、育てることができるということです。
クーリッジ効果(Coolidge effect)と呼ばれる、動物の性行動に関する、有名な調査研究があります。これは、哺乳類のオスは、特定のメスとの性的なパートナーシップには「飽きる」というものです。一部の哺乳類の場合は、メスにもみられるという報告もあります。
クーリッジ効果は、男性の「浮気」を正当化させるときに持ち出されることの多い理論です。しかしこれは、あくまでも性的なパートナーシップに関する理論であって、人間の関係性は、性的なものに限定されるものではありません。
ただ、男性による、パートナーである女性に対する性的な興奮の度合いが時間とともに低下するのは、ある程度までは本能と考えられます。そしてこれは、パートナーの女性の魅力が低下したからというわけではないことは、きちんと理解しておく必要があるでしょう。
人間が、一夫一妻制にたどり着いたのは、文化も含めた、自然淘汰の結果です。ですから、これについて文句を言ったり、クーリッジ効果を持ち出して「浮気」を正当化するのは無理があります(それがどの程度まで固定的なのかについては議論できますが)。
ただ、人間も哺乳類なので、男性は、新たな女性に弱いという点については、リスクとして理解しておく必要もあります。それは、長年連れ添ったパートナーに対する愛情の度合いとは無関係なのです。
特に男性は、特定のパートナーとの精神的なつながりを大事にしていく必要があるということです。クーリッジ効果に惑わされることなく、人間としてのあたたかいやりとりを意識しないと、誓ったはずの永遠の愛は実現されないということです。
クーリッジ効果を考えるとき、男性の要介護者のところに、女性の介護職を配置することについては、配慮が必要であることが理解できるでしょう。また、この逆で、女性の要介護者に対して、男性の介護職を配置することにも、介護職の側に対して同様な配慮が必要です。
介護では、どうしても、お互いの身体に触れるシーンも多くあります。そうしたことが、思わぬトラブルのきっかけになってしまうとするなら、とても悲しいことです。
何事も、トラブルを避けるためには、どこにリスクがあるのかを正しく理解することが大事になります。こうした性的なことは、なかなか現場では議論しにくいことでもあります。だからこそ、一段上の注意を意識する必要もあるのです。
※参考文献
・森 裕司, 『動物の成熟と行動』, 東京大学公開講座, 2008年9月27日
・高澤 奈緒美, 谷内 通, 『交尾経験による性的嗜好性の獲得と飽和』, 金沢大学, 学長研究奨励費研究成果論文集6, 2010年8月
サポナビ編集部