介護施設(特別養護老人ホームや老人保健施設など)に入居していると、介護サービスの利用料のみならず、食費や居住費といった費用がかさみます。そうした費用を支払うと、生活保護を受けないととてもやっていけないというケースは、一般に想像される以上に多数発生しています。
こうした介護施設への入居における費用は、入所する利用者(要介護者)の経済状況によって4段階にわかれています。経済状況のよい人であれば、より高額な費用が請求されます。逆に、経済状況が苦しい人の場合は、より低額な費用が請求されるという具合です。
そうした措置にも関わらず、請求される費用を支払うと、介護施設への入居を続けられない場合、基本的には生活保護を申請することになるでしょう。しかし、生活保護というのは、近年ますます簡単には認められなくなってきているのです。増え続ける生活保護の受給者に対して、財源が追いつかないからです。
さらに、生活保護の運用は、その大部分が自治体に権限移譲されています。このため、自治体によって認められやすいところもあれば、逆に、ほとんど認められないというところもあります。もはや限界ということで生活保護を申請しても、運が悪ければ認められないこともあるわけです。
そうして、生活保護ギリギリのラインにありながらも、生活保護が認められないときは、境界層制度(境界層措置)というものがあることを覚えておいてください。境界層制度とは、簡単に言えば、生活保護の申請をして認められなかった利用者の介護施設への各種支払いを減額するというものです。
この境界層制度は、こうした支払いによって、利用者が生活保護を受ける経済水準から脱することを目的としています。そして、正式にこの制度の適用が認められると、境界層該当措置証明書というものが発行されます。
この境界層該当措置証明書があると、介護施設での食費や居住費が下がるだけではありません。まず、介護保険料の滞納があっても給付額の減額が行われなくなります。また、高額介護サービス費を算出する際の負担上限額が下がります。そして介護保険料の納付金額が減額されるのです。
40歳以上の人であれば、誰もが介護保険料を支払っています。ここで、支払う介護保険料は、支払う人の収入などによって、5段階に分かれていることは、あまり知られていないかもしれません。もっとも多く支払う人と、もっとも少なく支払う人の金額には、およそ3倍の差があります。
こうした措置は、国民健康保険料にも適用されています。しかし、国民健康保険料の場合は、もっとも多く支払う人と、もっとも少なく支払う人の金額には、およそ7倍の差が設けられているのです。介護のための介護保険のほうが、医療のための国民健康保険よりも、低所得者に厳しい状況になっているということです(伊藤, 2007年)。
また、生活保護が認められると、国民健康保険料の納付は免除されます。これに対して、生活保護が認められても、介護保険料の納付は免除されないのです。ただ、介護保険料分についての税制控除(第2号被保険者)や介護保険料加算(第1号被保険者)があるため、実質的にゼロにはなります。
大きな視点からすれば、国民健康保険と介護保険は、1本化されていくべきものです。複数の制度が複雑に運用されると、それだけ余分な管理コストが発生します。そうした管理コストを極限まで圧縮しないと、もはや、これからの超高齢化社会は乗り切れないはずだからです。
※参考文献
・伊藤 嘉規, 『生活保護基準以下の収入しかなく,住民税が非課税である等,一定の低所得者に関し,介護保険料を一律に賦課しないとする現定を設けていないことは,憲法14条,25条に反せず,また介護保険料を特別徴収の方法によって徴収することは,憲法14条,25条に違反しないとされた事例』, 富山大学紀要, 富大経済論集53(2), 401-434, 2007年11月
サポナビ編集部