地域包括支援センターとは、介護・医療・保健・福祉などの面から高齢者を支えるための総合相談窓口です。
適切な介護サービスや医療機関と連携をとりながら、高齢者の尊厳の保持と自立した生活支援をサポートします。
介護保険法において地域包括支援センターは以下のように定義されています。
地域包括支援センターは、市町村が設置主体となり、保健師・社会福祉士・主任介護支援専門員等を配置して、住民の健康の保持及び生活の安定のために必要な援助を行うことにより、地域の住民を包括的に支援することを目的とする施設。 【引用:介護保険法「介護保険法 第115条の46第1項(地域支援事業)」】 |
地域内にお住まいの65歳以上の高齢者や高齢者の支援に関わる家族、地域の方であれば、どなたでも利用可能です。
介護に関する相談や日常生活などの支援はもちろん、介護保険の申請手続きも行なっています。
運営形態は、各市区町村の直営型が約20%、社会福祉法人や医療法人、民間企業による委託型が約80%です。
人口2〜3万人程度に対し、1カ所以上の設置が推進されており、令和4年4月末時点で全国5,404カ所(ブランチ・サブセンターを含めると7,409カ所)存在しています。
※令和4年4月末現在 厚生労働省老健局認知症施策・地域介護推進課調べ。
地域によっては「高齢者相談センター」や「シニアサポートセンター」など、さまざまな名称で呼ばれています。
団塊の世代(約800万人)が75歳以上になる2025年(令和7年)以降、高齢化のスピードが加速し、医療や介護の需要がより一層高まると予想されています。
厚生労働省では、2025年(令和7年)を目途に各地域の実情に合った医療・介護・予防・住まい・生活支援が一体的に提供できる体制を構築していくことを必要とし、地域包括ケアシステムの実現を推進しています。
地域にお住まいの高齢者に対して包括的・継続的な支援をおこなう地域包括支援センターは、地域包括ケアシステムを実現するための中核機関です。
地域包括支援センターでは、主に4つの業務を手掛けています。
それぞれの役割を詳しく紹介していきましょう。
高齢者や介護を行う家族の生活上の困りごとや悩みに対して、幅広く対応できる総合的な相談窓口です。
例えば、市区町村が行っている福祉・介護保険サービスの利用相談、在宅介護に必要な物品の提案や紹介を行いより良い暮らしをサポートします。
相談内容に応じて、医療機関や保健所、行政機関、民間企業と連携をとり、サービスや制度が利用できるように手助けしてくれます。
初めて介護が必要になった高齢者やこれから介護を行う家族が、最初の相談先として活用する場所です。
高齢者に対する詐欺や、悪徳商法などの消費者被害へ対応するほか、高齢者虐待の早期発見や防止に努める役割を担っています。
虐待に関しては、虐待を受けている本人や家族だけでなく、虐待に気づいた地域の人からの情報提供も可能です。
また、周囲の人が後見人となり、高齢者の財産を不当な契約などから守る成年後見制度の手続き支援も行っています。
認知症を患うと判断力や記憶力が低下するため、金銭管理や法律上の手続き、介護保険サービスの契約などが難しくなるのが現状です。
地域包括支援センターでは、法律上の手続きについても助言を行います。
高齢者自身で自分の財産や権利を管理できなくなる兆しが見えたら、早めに相談し高齢者を守りましょう。
高齢者が安心して暮らすためには、地域の医療、保健、介護の専門家が連携をとりながら、包括的に支援を行うことが不可欠です。
そのためには、地域のケアマネジャーをサポートすることも大切な業務の1つです。
経験豊富なスタッフが、ケアマネジャーへの個別相談や難しい事例の適切な指導やアドバイスを行なっています。
地域ケア会議を開催し、個別の課題解決や地域の課題、地域包括支援のネットワークの構築など専門家を交え話し合い、高齢者への支援を充実させます。
要介護認定において要支援1、2の判定が出た方や将来要介護状態になるリスクがあると判断された方を対象に、介護を予防するためのケアプランを作成します。
介護予防プランの例
症状の悪化を防ぎ、自立した生活を継続することが目的です。
保健所や病院などと連携を図り、介護予防教室なども行います。
地域包括支援センターでは、保健師や社会福祉士、主任ケアマネジャーが専門性を活かし連携しながら、課題解決に向けて取り組んでいます。
それぞれの具体的な役割についてみてみましょう。
・保健師(看護師)
保健師は病院や保健所と連携を取り、高齢者向け医療や介護関連の相談に対応します。
地域の高齢者が健康に暮らせるように介護予防プランを作成し、定期検診の呼びかけや疾患予防の意識づけも行います。
業務内容:介護予防ケアマネジメント 健康状態の維持、医療面での支援、介護予防給付の管理、介護予防事業のプランを作成など |
・社会福祉士(ソーシャルワーカー)
社会福祉士は高齢者や支援者の各種相談を受け付ける総合相談窓口や、権利擁護に関わる相談に対応します。
高齢者が暮らす自宅や施設を訪問し状況を確認した上で、公的制度や地域内にあるサービスを紹介します。高齢者と専門機関を繋げるパイプ役です。
業務内容:高齢者本人や支援者の総合相談・権利擁護 介護や生活支援、高齢者に対する虐待調査、消費者被害の対応、成年後見制度の手続きなど |
・主任ケアマネジャー(主任介護支援専門員)
地域で従事するケアマネジャーの統括として、介護の総合的な相談に対応します。
介護支援専門員と協力してケアプランを作成や、ケアマネジャーの育成、介護環境の改善など、大切な役割を担っています。
介護サービス事業者と連携し、高齢者の支援をスムーズに行えるようにサポートすることも重要な業務です。
業務内容:包括的・継続的マネジメント 地域ケア会議の開催、地域で従事しているケアマネジャーの指導や支援困難事例への把握やアドバイスなど |
高齢者についての悩みが出てきた時に、本人や介護を行う家族、近隣の住民が最初に相談できる場所として存在しているのが地域包括支援センターです。
困り事が漠然としていても、些細な悩みでも構いません。職員が問題点を整理し、必要なサポートを一緒に考えてくれます。
下記のような悩みが出てきたら、相談してみましょう。
高齢者の中には、生活に支障が出ているのにも関わらず相談することを拒むケースもあります。その場合、家族などが地域包括支援センターに直接相談することも可能です。
地域包括支援センターは、遠方に暮らしている親御さんの様子についての相談も受け付けています。支援を必要とする方(親御さん)が居住している自治体の地域包括支援センターへ問い合わせましょう。
・地域包括支援センターは高齢者の方の暮らしを包括的・継続的にサポートする施設
・専門家がそれぞれの知識を活かし、介護についての悩みや不安を対処してくれる
・些細なことでもまず相談することが介護負担を減らす一歩になる
今回は、地域包括支援センターについてお伝えしました。
今はまだ介護が必要ではない方も、困ったら相談にのってくれる地域包括支援センターの存在を把握しておくだけでも心強い備えになります。
介護の問題や高齢者の生活の悩みは、1人で抱え込まず専門家のアドバイスを受けることがとても大切です。高齢者や介護を行う家族がより良い暮らしを実現するために、地域包括支援センターを上手に活用しましょう。
金山峰之(かなやま・たかゆき) 介護福祉士、社会福祉士、准看護師。福祉系大学卒業後、20年近く在宅高齢者介護に従事。現場専門職の傍、介護関連の講師業(地域住民、自治体、国家公務員、専門職向け等)や学会のシンポジスト、介護企業向けコンサルティング事業、メーカー(ICT、食品、日用品等)へシニア市場の講演などを行っている。
厚生労働省関連調査研究事業委員、東京都介護人材確保関連事業等委員など経験。
元東京都介護福祉士会副会長。政策学修士。