
「いつかこの子とも別れが来ることは、わかっていた」——そう思っていたはずなのに、いざその時が来ると、胸にぽっかりと穴があいたような感覚に包まれます。
朝、目が覚めたとき。いつものように家に帰ったとき。ふとした瞬間に、そこにいたはずの存在がいないことに気づく。
そのとき胸に押し寄せる寂しさは、言葉にならないほどの重さをもっています。
ペットロスは、ただの喪失ではありません。大切な家族との別れです。
多くの人にとって、ペットは子どものようでもあり、きょうだいのようでもあり、時には親友のような存在だったことでしょう。
だからこそ、その別れは深く、心の奥まで響くのです。
この記事では、ペットロスとどう向き合っていくか、そして支援する立場としてどんな寄り添い方ができるのか。
その一つの在り方を、丁寧に紐解いていきます。
ペットとの別れは、老いのプロセスのなかにある自然な喪失体験のひとつです。人は年を重ねる中で、徐々にさまざまな「手放し」を経験していきます。体力や役割、職場でのポジション、そして家族との関係性。そうした変化のなかで、ペットが与えてくれる「無条件の愛」は、人生の心の支えとなっていることも多いものです。
だからこそ、その存在を失うとき、私たちは一時的に心のバランスを崩します。日々の生活が色あせて感じられ、食事や睡眠にも影響が出ることさえあります。
けれど、年齢を重ねた人が持つようになるのは、こうした喪失さえも自分の糧に変えていける力です。
それは、過去の経験を通して少しずつ培われた、人生に静かに向き合う強さでもあります。
ペットロスは必ずしも「克服すべき課題」ではありません。むしろ、「これまでの自分の歩みや経験を生かして、どう付き合っていくか」を考えることで、その体験は人生をしなやかに歩むための力になる可能性を秘めています。
心の痛みをやわらげるためには、「いなくなった事実」に意味を与えることがひとつの手がかりになります。
たとえば、こんなふうに考えてみることもできます。
こうした“意味づけ”は、無理にする必要はありません。また、その人自身が意味づけるもので、周りが諭すものでもありません。
でも、少しずつでも視点を変えていくことで、心がほんの少し軽くなることがあります。そして、自分の気持ちを否定せずに受け止めることが、ペットロスとの向き合いの第一歩です。
もし身近にペットを亡くしてつらそうにしている人がいたら、支援する側にできることは何でしょうか。
以下に、支援者としてできる具体的なかかわり方のヒントをご紹介します。
まずは、その人が感じている寂しさや涙を否定せずにまるごと受け止めることから始めましょう。
「今はそういう時期なんだと思います」「泣いてもいいですよ」「悲しむ自分を受け止めてあげてください」——そんなひと言が、その人を少し安心させ、心の不安を吐き出すきっかけになります。悲嘆を否定しないことは、悲嘆を浄化させる第一の過程として、とても大切です。
特別な何かをしなくても、食べる・寝る・起きる・働くという日々のリズムを続けるだけでも十分です。忙しく過ごしているうちに、ふと心が軽くなる瞬間がやってくることもあります。
「ちゃんとごはん食べてる?」「今日は少し散歩してみませんか?」など、無理のない声かけが支えになります。
こうした問いかけは、その人自身が、自分の気持ちと向き合い、言葉にして整理するためのきっかけになります。ただし、無理に問いかける必要はありません。相手が自ら思い出を語り出したときや、気持ちを誰かに伝えたい様子がうかがえるときなど、心が少し落ち着いている場面でそっと訊ねてみてください。
ぬいぐるみや、毛の手ざわりに近いクッション、ペット型ロボットなど、「命」ではなくてもそばにいるように感じられる存在が支えになることもあります。最初は抵抗があるかもしれませんが、「この子は、○○の代わりじゃないけど、そばにいてくれる存在」と思えるようになることもあります。
いまは、さまざまなタイプのコミュニケーションロボットが登場しています。ただ可愛いだけではなく、どんな関わり方を求めているかによって、選ぶべきロボットも変わってきます。
たとえば、
といったように、それぞれの癒され方のスタイルに応じたロボットを選ぶと、より心の支えになりやすくなります。
無理にすすめるのではなく、「こういうのもあるみたい」と軽く紹介して、選ぶ楽しみを持ってもらうことも大切です。コミュニケーションロボットのおすすめは、こちらのページからもご参照いただけます。
▼保険外サービス紹介:高齢者の孤独解消(コミュニケーションロボット・話し相手)
自分の関わりが何も役に立たないと思うこともあるかもしれません。でも、何かを「してあげる」ことよりも、そばにいて、待つことこそが大きな支援になります。
悲しみは人によって深さも長さも違います。その人の中に温かさが戻るには時間がかかるものです。無理に励ましたり、「もう元気出して」と言ったりせず、その人が自分のペースで癒えていくのを見守ること。急かさず、焦らず、何年かかってもいいと心得て、静かにそばにいることが何よりの支援です。
ペットとの別れは、誰にとっても深い痛みをともなう体験です。
でもそれは、「忘れなければいけないもの」でも、「乗り越えなければいけない課題」でもありません。
悲しみを抱えたまま、日常を生きていくこと——その中で、ほんの少しずつ心の中にあたたかさが戻ってきます。
時間はかかっても大丈夫。悲しみの中であっても、人はやさしさを育てていく力を持っています。最初はただつらくて苦しいだけだった喪失も、あるときふと、「あの子と過ごせてよかったな」と思える瞬間に変わっていくはずです。
そのとき初めて、あなたは、別れが“終わり”ではなく、“つながり直し”の始まりだったことに気づくことでしょう。
介護支援専門員(ケアマネジャー)・介護福祉士
京都大学卒業後、介護福祉士として、介護老人保健施設・小規模多機能型居宅介護・訪問介護(ヘルパー)の現場に従事。その後、育休中に取得した介護支援専門員の資格を活かし、居宅ケアマネジャーのキャリアを積む。「地域ぐるみの介護」と「納得のいく看取り」を志している。
介護プロ編集部