親や身近な人の様子が「少し変わったかも」と感じた瞬間、その不安は小さくても放置できません。認知症は誰にとっても他人事ではなく、早く気づくことが生活の質を保つ第一歩になります。
本記事では、初期症状の見え方や、気づいたときにできる行動をやさしく解説します。
最も多いのは「もの忘れ」です。例えば、昼食で何を食べたか思い出せないだけなら年齢による自然な忘れですが、「食べたこと自体を覚えていない」場合は記憶障害の可能性があります。外出や約束を忘れる、同じ質問を何度も繰り返す、鍵や財布の置き場所が分からなくなるといった変化もサインの一つです。
また、「見当識の衰え」も特徴的です。日付や時間が分からなくなる、なじみの場所で迷う、自分の年齢を忘れるといった現象が起きます。さらに、簡単な計算や家事が続けられなくなるなど、理解力や判断力、集中力の低下が行動に表れることがあります。
性格面では、無気力や怒りっぽさ、頑固さ、暴言など、感情のコントロールが難しくなることもあります。
初期段階の変化は本人より周囲が先に気づくことが多いものです。驚きや戸惑いを感じても、否定せず、日々の様子を記録に残しましょう。医師に状況を正確に伝えることで、診断や対応策がより適切になります。
「もしかして認知症かも?」と気になったら、まずはこちらをチェックしてみましょう。
◆チェック1
財布や鍵など、物を置いた場所がわからなくなることがありますか まったくない(1点)/ときどきある(2点)/頻繁にある(3点)/いつもそうだ(4点) ◆チェック2 5分前に聞いた話を思い出せないことがありますか まったくない(1点)/ときどきある(2点)/頻繁にある(3点)/いつもそうだ(4点) ◆チェック3 周りの人から「いつも同じ事を聞く」などのもの忘れがあると言われますか まったくない(1点)/ときどきある(2点)/頻繁にある(3点)/いつもそうだ(4点) ◆チェック4 今日が何月何日かわからないときがありますか まったくない(1点)/ときどきある(2点)/頻繁にある(3点)/いつもそうだ(4点) ◆チェック5 言おうとしている言葉が、すぐに出てこないことがありますか まったくない(1点)/ときどきある(2点)/頻繁にある(3点)/いつもそうだ(4点) ◆チェック6 貯金の出し入れや、家賃や公共料金の支払いは一人でできますか 問題なくできる(1点)/だいたいできる(2点)/あまりできない(3点)/できない(4点) ◆チェック7 一人で買い物に行けますか 問題なくできる(1点)/だいたいできる(2点)/あまりできない(3点)/できない(4点) ◆チェック8 バスや電車、自家用車などを使って一人で外出できますか 問題なくできる(1点)/だいたいできる(2点)/あまりできない(3点)/できない(4点) ◆チェック9 自分で掃除機やほうきを使って掃除ができますか 問題なくできる(1点)/だいたいできる(2点)/あまりできない(3点)/できない(4点) ◆チェック10 電話番号を調べて、電話をかけることができます 問題なくできる(1点)/だいたいできる(2点)/あまりできない(3点)/できない(4点) |
20点以上の場合は、認知機能や社会生活に支障が出ている可能性があります。お近くの医療機関や相談機関に相談してみましょう。
※このチェックリストの結果はあくまでもおおよその目安で医学的診断に代わるものではありません。認知症の診断には医療機関での受診が必要です。
※身体機能が低下している場合は点数が高くなる可能性があります。
出典:東京都福祉局「自分でできる認知症の気づきチェックリスト
現在の医学では認知症を根本的に治す方法はありませんが、進行を遅らせる薬や生活習慣の改善によって、症状の進行を抑えることは可能です。特にアルツハイマー型認知症は早期介入で効果が高まります。日常の小さな変化を見逃さないことが、未来の生活を守ります。
健常と認知症の間にあたる軽度認知障害(MCI)は、生活には大きな支障がなくても認知機能の低下が見られる状態です。この段階であれば、運動や食生活の改善、認知トレーニングなどで症状の改善や回復が期待できます。必ずしも認知症に進行するわけではないため、早めの受診が重要です。
本人が病院に行くことを嫌がる場合、健康診断の一環として誘う方法があります。かかりつけ医の診察であれば心理的な負担も少なく、必要な検査への移行もスムーズです。また、知人の体験談や、家族以外の第三者からの助言が後押しになることもあります。
医療機関だけでなく、地域包括支援センターや認知症疾患医療センター、もの忘れ外来なども頼れる窓口です。電話相談を行っている団体もあり、匿名での相談も可能です。こうした窓口は、診断前でも利用できます。
地域包括支援センター | 認知症疾患医療センターや認知症初期支援チームなどの機関と連携
適切なサポートサービスを提供 お住まいの地域での支援を受けられる |
もの忘れ外来 | 認知症を早期発見し治療するための、認知症専門医が在籍している外来
主に総合病院などに併設 |
電話相談 | <認知症の電話相談>
公益社団法人 認知症の人と家族の会 TEL:0120-294-456 / 050-5358-6578 受付時間:10時〜15時(年末年始と祝日を除く月~金曜日)若年性認知症コールセンター
社会福祉法人 仁至会 認知症介護研究・研修 大府センター TEL:0800-100-2707 受付時間:10時〜15時(年末年始と祝日を除く月~土曜日) 水曜日は10時〜19時 |
認知症の初期症状は、気づけば日常のあちこちに現れています。重要なのは、本人を責めず、変化を受け止め、早めに行動を起こすことです。
早期の受診と適切な支援は、本人と家族の生活を守る力になります。今の一歩が、これからの暮らしを穏やかに保つための土台になるのです。
介護プロ編集部