老健(介護老人保健施設)は要介護の認定を受けた方の自立を支援し、リハビリに重点を置き在宅復帰を目指す施設です。老健の役割やその目的から、原則とされている入居期間は3〜6ヶ月と短めです。
結論からお伝えすると、老健は在宅復帰や在宅療養を支援する施設で、基本的に長期間の入所はできません。
原則として3〜6カ月ごとに退所審査が行われ、施設によっては入所期間が延長される場合もありますが、退所後に備え、在宅介護や他の施設への移動など、本人とご家族の状況に適した次のステップの準備しておくことが重要です。
老健は、厚生労働省によって「在宅復帰・在宅療養支援のための拠点となる施設」、「リハビリテーションを提供する機能維持・改善の役割を担う施設」として位置付けられています。
病状が安定して病院を退院した方などを対象に、医師の監督のもと、理学療法士や作業療法士などの専門スタッフがリハビリを中心に行い、看護や介護、日常生活のサポートも行います。老健は在宅復帰をサポートする役割を担い、利用者が自宅に戻ったり、特養や他の施設への入居待機期間中のための施設として利用されるなどの中間的な役割を果たし、退所後は次のステップを決める必要があります。
平成30年度介護保険法改定により、老健は在宅復帰・在宅療養支援機能に対する評価値別に「超強化型」「在宅強化型」「加算型」「基本型」「その他型」の5つの区分が設けられています。中でも「超強化型」「在宅強化型」「加算型」の3つは、厚生労働省が定める要件を満たし、「超強化型」が最も在宅復帰率の高い施設とされています。
参考:厚生労働省「介護老人保険施設」資料
老健施設は、短期間の入居を原則としています。介護報酬制度に基づき、3〜6か月ごとに退所審査が行われ、在宅復帰が可能な場合は退所を促す仕組みとなっています。そのため、在宅復帰が困難な方や不安な方は、退所後の行き先を考えておかなくてはなりません。
入所期間が短い理由としては、老健がリハビリによる自宅復帰、終身利用が可能な施設への入居待ちといった中間的な役割であることや、リハビリには「これ以上継続しても機能回復の見通しが立たない」という限界があるケースもあるため期間が設けられていることなどが挙げられます。
また、平成24年度に介護報酬制度が改定され、在宅復帰率とベッドの回転率が介護報酬額に影響するようになったこともあり、施設側は早期退所を促し、ベッドを空けて新たな利用者を受け入れる方向へシフトチェンジしている傾向にあります。
前述した通り、老健の入居期間は一般的に3〜6か月とされていますが、厚生労働省による資料「介護老人保健施設」によると、実際の平均滞在日数は299日(約10ヶ月)となっています。
出典:厚生労働省「介護老人保険施設」資料
医療型ショートステイ(短期入所療養介護)が利用できる老健では、ベッドに空きがある場合は入所期間を延ばすことが可能なため、日数が増えていると考えられます。
また、看取り介護を行う施設もあり、利用者やご家族の状態によって受け入れも柔軟に対応している老健も多くなっています。
在宅療養の準備ができていない場合や転居先が決まっていない場合は、状況を説明して延長できるかどうか相談してみるのもよいでしょう。
厚生労働省による「介護老人保健施設」によると、退所後最も多い移動先は、36.6%で医療機関への入所、次いで家庭で33.1%、特別養護老人ホームが8.2%となっています。
一部の方は在宅に戻ることができますが、一方で入所中に病状が悪化し入院する方や、家庭の事情などにより在宅介護が難しく他の施設に入所する方も多いのです。
老健は在宅復帰を目的としていますが、現実的に退所することが難しい方が半数以上いるのが現状です。
出典:厚生労働省「介護老人保険施設」資料
老健の退所後は、元気になって自宅へ戻れるのが理想ですが、必ずしも在宅復帰しなければならない決まりはなく、別の施設へ行く選択肢もあります。
老健は在所期間も短いため、退所を求められた段階でも、まだ体調が不安定であったり改善しきっていないかもしれません。
まずは本人の意向を確認し、健康状態や支援者(介護家族・ビジネスケアラー)の状況もふまえ、退所後の行き先を検討していきましょう。
老健では、必ず各施設でケアマネジャー(介護支援専門員)が配置されているので、退所にあたり不安や疑問があればまず相談をしてみましょう。また、もしいるならば在宅生活時の担当ケアマネジャーも有力な相談相手です。
ケアマネジャーは普段から多くの相談を受けており、退所に関する悩みに対して適切なアドバイスや情報を提供してくれる強い味方となってくれます。
老健の入所期間が延長できない場合、在宅介護の検討も視野に入れましょう。
在宅介護となる場合に重要なポイントは、支援者(介護家族・ビジネスケアラー)の負担を減らすことと自宅の設備環境を整えることです。
介護を家族だけで抱え込まず、介護保険サービスの訪問サービスや通所サービス、ショートステイなどを積極的に利用しましょう。
退所後の身体状況によっては、手すりやスロープの設置、福祉用具(車いすや介護ベッドなど)のレンタルなど、住環境を整える準備が必要となる場合がありますが、介護保険の住宅改修を利用し、自己負担額を減らすことができます。
介護保険サービスの利用は、在宅介護において必要不可欠です。担当のケアマネジャーか地域包括支援センターに相談して、必要なサービスを取り入れたケアプランを用意してもらいましょう。
老健から他の施設への転居も可能です。選択肢として、特別養護老人ホームや介護医療院、介護付き有料老人ホームなどがあります。他の施設へ入居をする場合は、希望する施設が入居待ちの可能性もあるため、見学や申し込みなどは早めに準備を進めておきましょう。
特別養護老人ホーム(特養)
特養は要介護度3以上の方が入居できる公的な介護施設です。健康管理や医療的ケアも提供され、入所者同士やスタッフとの交流やレクリエーションも行われます。補助金によって費用が安いため人気があり、都市部などでは入居までに時間がかかります。立地にこだわりがなければ、地方の特養への入居も選択肢に入れてみましょう。
介護医療院
介護医療院は介護保険施設の一種で、介護サービスと専門的な医療ケアを提供しています。I型は要介護高齢者や身体合併症のある認知症高齢者、II型は容体が安定した方で介護・医療ケアが必要な方を対象としています。公的施設であり、介護保険が適用されるため、費用を抑えることができます。医療ケアが必要な方は入所を検討するとよいでしょう。
介護付き有料老人ホーム
介護付き有料老人ホームは、24時間体制で介護士が常駐し生活のサポート全般を行います。民間企業の運営ですが、一定の基準のもと都道府県の指定(認可)を受けた施設です。入居要件や費用は施設によって大きな差があり、要介護度が高い方や認知症の方を受け入れているところや、看取りまで対応しているところもあります。本人に合う施設を比較検討して選ぶとよいでしょう。
「老健から老健へ」の移動は可能です。老健は在宅復帰を目的としていますが、退所後の移動について法律や制度上の規制はありません。
ただし、老健から老健への移動は、3〜6ヶ月ごとに退去を求められて暮らす環境が変化するという可能性もあります。環境の変化によるストレスや書類手続きの煩雑さなどはデメリットとなるので注意しておきましょう。
老健は在宅復帰や在宅療養を支援する施設で、基本的に長期間の入所はできません。
原則として3〜6カ月ごとに退所審査が行われます。施設によっては入所期間が延長される場合もありますが、入居後の移動先を早めに考えることが重要となります。
退所後に備え、在宅介護や他の施設への移動など、本人とご家族の状況に適した次のステップの準備をしておきましょう。
金山峰之(かなやま・たかゆき) 介護福祉士、社会福祉士、准看護師。福祉系大学卒業後、20年近く在宅高齢者介護に従事。現場専門職の傍、介護関連の講師業(地域住民、自治体、国家公務員、専門職向け等)や学会のシンポジスト、介護企業向けコンサルティング事業、メーカー(ICT、食品、日用品等)へシニア市場の講演などを行っている。
厚生労働省関連調査研究事業委員、東京都介護人材確保関連事業等委員など経験。
元東京都介護福祉士会副会長。政策学修士。