介護老人保健施設(以下:老健)は知っていても、特別養護老人ホームなどのほかの介護保険施設とどのように違うかまでは詳しくわからないという方もいらっしゃるでしょう。この記事では老健の概要や特別養護老人ホームとの違いなど、老健選びに役立つ情報を紹介しています。
介護老人保健施設(老健)とは?
要介護者が、在宅での生活を目指して、医療的なケアや日常生活上の介助を受けながらリハビリテーションを行う施設で、「老健」とも呼ばれます。3か月ごとに在宅で生活が可能かの判定が行われ、可能な場合は退所となります。「在宅で生活が可能な状態まで身体機能が回復していない」「医療的な処置が引き続き必要である」「家族の受け入れ態勢が整っていない」などの理由で、入所延長となることもあります。本人や家族の希望により、看取りに対応している施設もあります。
老健の入所条件と手続きの流れ
老健の入所条件
次のすべてを満たすことが入所条件となります。
- 要介護1~5(短期入所は要支援1.2も可能)
- 全身状態が安定していて入院治療の必要がない
- 医療ケアや介護が常時必要
- 在宅復帰のためにリハビリテーションが必要
老健の活用方法
老健は専門スタッフによるリハビリを通じ、入所者が在宅復帰することを目的としており、入院から自宅の暮らしに戻るのはまだ不安があるという方におすすめです。介護士のほかに医師や看護師が配置されており、入浴や排泄などの介護サービスに加えて、リハビリ・医療ケアも受けることができます。
また、短期間だけの入所や定期的に通うなど、さまざまな活用方法があります。
施設サービスは、老健に入所した場合に受けることのできるサービスで、要介護度1~5であることが条件です。日常生活への復帰を目的とし、主な内容としてはリハビリや、介護や看護・医療となります。
ショートステイは、短期間だけ老健に入所してサービスを受けることができます。自宅での介護や看護生活が一時的に難しくなった場合におすすめです。
受けられる内容については入所サービスとほぼ変わらず、リハビリや介護・看護といったサービスを、一般の入所者と一緒に受けることができます。
通所リハビリテーションを受けるには、要介護1~5または要支援1~2の認定を受けている必要がありますが、老健に通ってリハビリなどのサービスを施設専任のスタッフ(理学療法士や作業療法士、言語聴覚士)から受けることができます。老健の近所に居住する高齢者におすすめのサービスで、施設によっては自宅への送迎をしてくれるところもあります。
老健入所における手続きの流れ
申請から入所までの流れは次のとおりです。
- 要介護認定を受ける
住んでいる市町村区の窓口に要介護認定の申請を行う
- 入所相談
入所を検討している老健に連絡して、施設見学や施設の説明を相談員から聞きます。利用者の心身の状況、介護が必要となった経緯、病歴、希望などの聞き取りも行われます。
- 入所申請
入所を希望している施設に必要書類の提出を行うと、利用者の状態についての詳しい面談があります。
- 入所判定
施設の医師、看護師、介護支援専門員、リハビリテーション専門職、栄養士、支援相談員などの多職種が集まり、判定会議が行われます。提出書類や面談の内容に沿って入所可能か判定されます。
- 契約・入所
入所可能となれば施設と契約を行います。入所日が決定してから入所となります。
老健で提供されるサービス内容
老健では次のようなサービス提供があります。
サービスの種類 |
関わる専門職 |
サービス内容 |
医療ケア |
医師、看護師、薬剤師 |
服薬管理、経管栄養、たん吸引、摘便、浣腸、認知症に関するケア、カテーテル管理、褥瘡の処置、疼痛管理、看取りなど |
日常生活上の介助・援助 |
介護職 |
入浴・排泄(トイレ介助など)・食事・着替え・ベッドからの起き上がり・整容・移乗・移動などの介助・援助
生活期リハビリテーションとして、本人ができることは見守り、今よりも自分でできることを増やすような自立を促す関わりを行う |
リハビリテーション |
理学療法士・作業療法士・言語聴覚士 |
心身機能、活動、参加に焦点を当て、機能回復だけでなく、日常生活動作や料理・洗濯・掃除・買い物などの家事、外出、地域での役割や生きがいづくりなど、その人らしい生活を送るための生活機能全般の向上を目標としたリハビリテーションの実施 |
食事 |
管理栄養士、言語聴覚士 |
栄養管理や認知機能や摂食・嚥下機能に合わせた食事の評価・提供など |
支援・相談 |
ケアマネジャー、支援相談員 |
本人・家族の希望に沿った施設介護サービス計画の作成、本人・家族の相談・支援 |
老健の費用
老健の費用は、「食費+居住費(基準費用額)」+「要介護度別の施設サービス費」+「サービス・施設体制の加算・減算」+「日常生活費」を合わせた費用です。利用者が実際に支払う費用は、1割(所得によって2割もしくは3割)負担です。
老健の食費・居住費
居室の種類により、費用が異なります。
|
基準費用額(日額) |
食費 |
1,445円 |
多床室 |
377円 |
従来型個室 |
1,668円 |
ユニット型個室的多床室 |
1,668円 |
ユニット型個室 |
2,006円 |
施設サービス費
要介護度、施設の在宅復帰率(基本型もしくは在宅強化型)、施設体制などによって料金が設定されています。(単価10.00円で算出)
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多床室・基本型(日額) |
従来型個室・在宅強化型(日額) |
要介護1 |
788円 |
756円 |
要介護2 |
836円 |
828円 |
要介護3 |
898円 |
890円 |
要介護4 |
949円 |
946円 |
要介護5 |
1,003円 |
1,003円 |
老健の費用シミュレーション
例えば、要介護5の人であれば、1か月の自己負担金額の目安は次のようになります。日常生活費は施設によって異なり、1~2万円程度です(表は1万円で計算)。これに加算が加わります。
|
要介護5、多床室・基本型 |
要介護5、従来型個室・在宅強化型 |
居住費 |
377円×30日=11,310円 |
1,668円×30日=50,040円 |
食費 |
1,445円×30日=43,350円 |
1,445円×30日=43,350円 |
施設サービス費 |
1,003円×30日=30,090円 |
1,003円×30日=30,090円 |
日常生活費 |
約10,000円 |
約10,000円 |
合計 |
約94,750円+加算分 |
約133,480円+加算分 |
老健の人員配置・施設設備
スタッフの職種や人数、施設の部屋や広さついて説明します。
老健の人員配置
老健は24時間体制でスタッフが配置され、次のような基準があります。
医師 |
常勤1人以上(入所者100人に対して1人以上) |
看護職員(看護師・准看護師)・介護職員 |
入所者3人に対して1人以上(看護職員は2/7程度)
※ユニット型の場合:
・昼間は1ユニットに常時1人以上
・夜間・深夜は2ユニットに1人以上
・常勤のユニットリーダーをユニットごとに配置 |
薬剤師 |
入所者300人に対して1人以上を標準として、実情に応じた適当な人数 |
支援相談員 |
1人以上(入所者100人に対して1人以上) |
理学療法士・作業療法士、言語聴覚士(理学療法士もしくは作業療法士に加えて配置されている場合にかぎる) |
入所者100人に対して1人以上 |
介護支援専門員 |
1人以上(入所者100人に対して1人以上を標準とする) |
栄養士 |
入所定員数が100人以上の場合は1人以上 |
調理員、事務員その他の職員 |
実情に応じた適当な人数 |
老健の施設設備
老健の部屋の設置、スペース、定員などは次のように定められています。
療養室 |
入所者1人当たり8㎡以上、1室の定員は4人以下
ユニット型の場合、1ユニットの定員は10人以下 |
機能訓練室 |
1㎡×入所定員数以上 |
食堂 |
2㎡×入所定員数以上 |
浴室 |
身体の不自由な方の入浴に適している |
廊下幅 |
1.8m以上、中廊下は2.7m以上 |
共同生活室 |
ユニット型の場合(療養室をすぐ近くに一体的に設置) |
老健と特養の違いは?
目的やサービス、入所期間などが老健と特養では異なります。
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介護老人保健施設
(老健) |
介護老人福祉施設
(特別養護老人ホーム) |
目的 |
在宅での生活を目指す |
終の棲家として介護を受けながら生活する |
主なサービス |
・医療ケア
・リハビリテーション
・日常生活上の介助・援助 |
・日常生活上の介護
・身の回りの世話
・機能訓練・レクリエーション
|
入所条件 |
要介護1~5
全身状態が安定 |
要介護3~5
介護が常に必要 |
入所期間 |
原則として3ヶ月 |
終身にわたって入所可能 |
1か月の自己負担費用目安(要介護5・多床室利用の場合) |
約94,753円 |
約104,200円 |
医師の配置 |
入所者100人当たり1人以上
(常勤) |
必要な数
(非常勤も可) |
平均在所日数 |
299日(1年未満) |
1,405日(約4年) |
入所のしやすさ |
入所期間が短いため、比較的入りやすい |
長期間入所するので、待機者が多く、入りにくい |
老健のメリットとデメリット
介護老人保健施設のメリットを把握することで、大切な人を安心して預けることができます。
・在宅復帰を目指せる
老健は多職種が連携し、家庭環境や状況に合わせた個別プログラムで在宅復帰を目指すことができます。福祉用具や住宅改修などの具体的なアドバイスもあり、在宅復帰後まで考えたサポートを受けることができます。
・機能訓練が充実している
理学療法士や作業療法士などのリハビリ専門職が常駐しており、個別の計画書に基づいた機能訓練が受けられ、生活全体が機能訓練につながるような工夫がされています。
・手厚い医療体制
常勤の医師や看護師が24時間常駐する施設も多く、医学的管理のもとに安心した生活を送ることができます。たんの吸引、経管栄養などの医療的ケアにも対応し、薬も施設から処方されます。
・民間施設よりリーズナブル
公的な施設のため初期費用は無料となります。月額費用も15万円前後のところが多く、有料老人ホームなどの民間施設と比較してもリーズナブルに利用することができます。また、所得の少ない方には、住居費や食費が減免されるなどの費用軽減措置が適用されます。
介護保険施設のデメリットは以下となります。
・入所期間が限定されている
在宅復帰を目的としているので入居は3〜6ヶ月の期間限定となります。
・多床室が多い
居室は多床室(4人部屋)が多く、個室や2人部屋は特別室料が加算となります。
・生活支援サービスは充実していない
入浴介助や排せつ介助などの身体介護サービスは受けられますが、洗濯や買い物代行などの生活支援サービスはあまり充実していないため、洗濯物は家族が持ち帰るか、実費で外部業者に依頼するかたちとなります。
・レクリエーションやイベントは充実していない
レクリエーションはあくまでも機能訓練につながるものとなり、イベントなどはあまり充実していません。レクリエーションの充実を希望する場合は有料老人ホームも検討するとよいでしょう。
老健にはずっと入所できる?
老健は入所し続けられる期間に制限があります。老健退所後は、在宅療養や病院、特別養護老人ホーム、有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅などの医療施設や介護施設、民間施設などに移ることを選択肢の一つとして検討しておきましょう。
▼関連記事
老健(介護老人保健施設)はずっと入所できる?施設の役割と退所した後の対処法を解説
まとめ
老健は、在宅復帰を目指して日常生活上の援助を受けながらリハビリテーションを行う施設です。入所時には自宅から近い施設を紹介されることが多く、利用者や家族が希望する施設を選ぶ余地がないことがほとんどです。
入所条件や対応している医療ケアは施設によって異なります。地域に介護老人保健施設が3~4つしかないこともあるので、事前に希望するケアを受けられるかをチェックしておきましょう。
参考となるサポナビ記事:「親にあう施設の選び方」
公的参考リンク:
全国老人保健施設協会 老健って何
厚生労働省介護保険サービスにかかる利用料
厚生労働省 介護老人保健施設の概要
この記事の監修者
木場 猛(こば・たける) 株式会社チェンジウェーブグループ リクシスCCO(チーフケアオフィサー)
介護福祉士 介護支援専門員 東京大学文学部卒業。高齢者支援や介護の現場に携わりながら、 国内ビジネスケアラーデータ取得数最多の仕事と介護の両立支援クラウド「LCAT」ラーニングコンテンツ監修や「仕事と介護の両立個別相談窓口」相談業務を担当。 3年間で400名以上のビジネスケアラーであるご家族の相談を受けた経験あり。セミナー受講者数、延べ約2万人超。
著書:『仕事は辞めない!働く×介護 両立の教科書(日経クロスウーマン)』
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