訪問マッサージは、寝たきりや歩行困難など、体に不自由があって通院できない方が利用できるサービスです。国家資格の「あん摩マッサージ指圧師」が自宅などを訪問し、マッサージ治療を行います。自宅で施術が受けられるため、ストレスや負担を軽減しながらリラックスして治療を受けることができます。
訪問マッサージの施術目的は、血液やリンパ液の流れの改善、痛みなどの症状の緩和、関節の動きや疼痛の改善などです。また、筋麻痺や筋力低下の場合には筋力増強の促進も目的として施術が行われます。
訪問マッサージには、医療保険が適用されるため、施術を受ける際には医師の同意書(診断書)が必要です。
訪問マッサージで受けられる、あん摩・マッサージ・指圧の特徴と主な効果をまとめました。
あん摩
中国発祥の手法であり、患部をなでたり、押したり、揉んだり、さすったり、たたいたりすることによって身体の健康を向上させることを目的としています。主な効果は、筋肉の血流を促進し、新陳代謝を改善することです。刺激を与えることによって、身体機能の調整を促します。
マッサージ
ヨーロッパ発祥のマッサージは、オイルやパウダーなどの滑剤を使い、手足から心臓の位置に向かって直接皮膚を刺激する手法です。このマッサージは、求心性の刺激を加えることにより、血流やリンパの促進による、筋肉や関節の痛みの緩和や動作の改善などを図ります。
指圧
日本独自の手技療法であり、衣服の上から親指や手のひらで身体の指圧点(ツボ)を持続的に刺激します。筋肉や筋膜をほぐすことで血液循環やリンパ循環の促進効果、関節の動作の改善、神経系や内分泌系を刺激し、内臓の働きを活性化させることを目的としています。
医療保険が適用される訪問マッサージの料金は、厚生労働省によって定められています。料金体系は全国一律となっており、定期的に料金改定があります。
訪問マッサージの費用は、以下の3項目によって決定されます。
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訪問マッサージを受けるためには、まず医師が患者を診断し、処方(施術の部位数、種類、往療の可否)を記述した同意書を作成します。料金は、その同意書の施術部位数と種類によって決まります。
訪問マッサージの施術には「マッサージ(あん摩・マッサージ・指圧)」と「変形徒手矯正術」の2種類があり、料金が異なります。マッサージは1部位(1単位)350円、変形徒手矯正術を受ける場合は1肢450円が加算されます。
施術の種類 | 1部位単価 | 対象部位 |
マッサージ | 350円 | 頭から尾頭までの躯幹、右上肢、左上肢、右下肢、左下肢 |
変形徒手矯正術(加算) | 450円(加算) | 左右上肢(肩、肘、手関節)、左右下肢(股、膝、足関節) |
参考:厚生労働省「はり師、きゅう師及びあん摩・マッサージ・指圧師の施術に係る療養費の支給について」2022年、厚生労働省「あはき療養費の令和4年改定の基本的な考え方(案)について」
変形徒手矯正術は、関節の可動域を広げ、筋肉を強化することで症状の改善を目指す施術方法です。この施術はマッサージの加算として扱われるため、単独で行われることはありません。利用するには「マッサージ」と「変形徒手矯正術」の両方の同意書が必要です。
なお、訪問マッサージの同意書の有効期限は6ヶ月間です。その期間を過ぎても施術を継続する場合は、再度、医師へ同意書を作成してもらう必要があります。
訪問マッサージを利用する場合、往療料(出張料)が発生します。この費用は、訪問距離が4キロメートル以下か、4キロメートルを超えるかによって異なります。
全額(10割)負担の料金は、4キロメートル以内の場合は2,300円、4キロメートルを超える場合は2,550円となります。
訪問距離 | 往療料(全額負担) |
4km以内 | 2300円 |
4km超 | 2550円 |
同一の施設や住居で、複数の方に対して訪問マッサージを行う場合、往療料は1人分のみが適用されます。
訪問マッサージは、医療保険を利用することができます。介護保険は使えません。実際の費用(施術料金+ 往療費)に対して、利用者は1~3割を支払う必要があります。
負担の割合は、75歳以上の場合は1割、70歳以上74歳以下の場合は2割、現役世代や現役並みの所得がある場合は3割となります。ただし、心身障害者医療費助成制度(マル障)を利用すれば、自己負担なしで訪問マッサージを受けることができます。
・料金例
75歳以上の方(1割負担)が、マッサージ1部位と変形徒手矯正術1肢を受け、訪問距離が4km以下の場合
マッサージ1部位 350円+変形徒手矯正術1肢 450円+訪問距離4km以下の往診料 2300円 = 合計3100円
自己負担額1割の方:310円 自己負担額2割の方:620円 自己負担額3割の方:930円 |
訪問マッサージの支払い方法には、平成31年1月から「受領委任制度」が導入されました。通常は保険請求は受領委任制度に基づいて行われますが、例外的に「償還払い」による請求が必要となる場合があります。
受領委任制度とは、訪問マッサージを提供する施術者が、利用者に医療保険で規定された施術を行い、費用(保険適用分)の1〜3割を利用者から受け取り、そして利用者から療養費の受領を委任され、利用者の代わりに療養費支給申請書(レセプト)を作成して提出し、残りの7〜9割を市区町村から受け取る方法です。
この方法では利用者の支払い面での負担が少なくなり、さらに利用者自身が書類作成の手続きをする必要がないという利点があります。
償還払いとは、利用者が一時的に費用の全額を支払い、市区町村へ申請を行った後に、利用者の負担割合に応じた7~9割の保険適用額が返金されるという仕組みです。
この方法では一時的に全額を支払わなければならず、利用者の負担が大きくなります。また、保険請求も通常は利用者自身が手続きを行う必要があります。
現在、訪問マッサージでは原則として受領委任制度が適用されますが、以下に当てはまる場合は償還払いとなりますのでご注意ください。
医療保険を適用して施術を受けるためには、医師の同意書が必要ですので、利用を考えている場合は、まず主治医に相談しましょう。
金山峰之(かなやま・たかゆき) 介護福祉士、社会福祉士、准看護師。福祉系大学卒業後、20年近く在宅高齢者介護に従事。現場専門職の傍、介護関連の講師業(地域住民、自治体、国家公務員、専門職向け等)や学会のシンポジスト、介護企業向けコンサルティング事業、メーカー(ICT、食品、日用品等)へシニア市場の講演などを行っている。
厚生労働省関連調査研究事業委員、東京都介護人材確保関連事業等委員など経験。
元東京都介護福祉士会副会長。政策学修士。