大切なご家族の介護と仕事の両立の難しさは、多くの方にとって大きな課題であり、悩みの尽きない問題です。
親に介護が必要になったとき、これまで通りに働けるように、速やかに介護体制を構築するための手段の一つとして、ぜひ知って頂きたいのが「介護休暇」や「介護休業」の制度です。
「介護休暇」は、1日単位や数時間単位で仕事を離れ、介護やそれに伴う手続きなどに時間を使うことができるという、仕事と介護の両立をサポートする支援制度のひとつです。
今回の記事では、介護休暇の利用条件や規定日数のほか、同じような制度の「介護休業」との違いについても分かりやすく解説します。
介護休暇は、要介護状態にある家族の介護をすることを目的に、一日や半日といった短期間の休暇を取得できる制度です。「育児・介護休業法」によって定められています。
要介護状態とは、ケガや病気などによって、日常生活の基本的な動作に、2週間以上常時介護が必要な状態を指しますが、必ずしも要介護認定を受けている必要はなく、介護保険制度の要介護区分の基準により判断されます。
この制度を活用することで、仕事をしながら家族の介護に専念する時間を確保することができます。さらに介護休暇は、介護に負担のかかる支援者(介護家族・ビジネスケアラー)のメンタルケアや健康管理のための時間としても利用でき、家族全体の健康維持にも役立ちます。要介護者が家族にいる場合は、積極的に活用すべき制度と言えるでしょう。
厚生労働省の介護休業制度のサイトでは、介護休暇を以下のように定義しています。
「労働者が要介護状態(負傷、疾病または身体上もしくは精神上の障害により、2週間以上の期間にわたり常時介護を必要とする状態)にある対象家族の介護や世話をするための休暇です。」
出典:厚生労働省「介護休暇とは」
介護休暇で取得できる日数は、以下のように決められています。
介護休暇を取得できる日数と取得単位時間
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※事業主が特に定めをしない場合には、毎年4月1日から翌年3月31日となります。
※時間単位での取得が困難と認められる業務に従事する労働者について、時間単位での取得を除外する労使協定を締結している場合、対象の労働者は1日単位でのみ取得可能。
出典:厚生労働省「介護休暇とは」
以前は一日や半日単位でしか利用できませんでしたが、現在は時間単位で取得できるため、柔軟な利用が可能になっています。
また、「介護」には直接的な介護ケアだけでなく、生活支援、保険手続き代行、通院の付き添いやケアマネジャーとの相談なども含まれます。
介護休暇を取得するためには、まず、労働者が要介護状態の家族を介護していることが条件となり、対象となる家族は以下のように決められています。叔父や叔母、いとこなどは対象に含まれません。
対象となる家族
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また、介護休暇を取得する労働者側の条件は、「対象家族を介護する男女の労働者(日々雇用を除く)」とされています。
また、以下のような条件の労働者の方は、介護休暇取得の対象外となります。
労使協定を締結している場合に対象外となる労働者
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※労使協定とは、事業所ごとに労働者の過半数で組織する労働組合がある時はその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない時は、労働者の過半数を代表する者と事業主との書面による協定のことです。
日雇い労働者は介護休暇を取得できません。また、労使協定を結んでいる場合や、雇用期間が6ヶ月未満で、1週間の所定労働日数が2日以下、または時間単位で介護休暇を取得することが困難な業務に従事している場合は、介護休暇の取得が制限される可能性があります。
出典:厚生労働省「介護休暇とは」
介護休暇は、急に休みが必要になった場合や短時間の休みが必要な場合に便利です。当日申請が可能で、1日や半日単位、または時間単位でも申請できます。
具体的な利用例としては、保険手続きや要介護者の急な体調不良、通院の付き添い、病院への送迎、ケアマネジャーとの面談、日常生活の介護などが挙げられます。
ただし、介護休暇は無給となる場合が多いため、給与面が気になる場合は有給休暇を利用することも検討してみましょう。
介護休暇中の賃金については、法的な規定は存在せず、会社の就業規則に従います。多くの場合、介護休暇中は無給となることが一般的です。
ただし、会社によっては有給休暇が適用される場合もあるようですので、会社の担当部署に確認してみてください。
介護休暇は、取得したい当日に、事業主に対して口頭や書面で申請ができます。原則として、事前の連絡は不要です。ただし、会社によっては申請書を用意している場合や、医師の診断書が必要なこともありますので、確認が必要です。
「介護休暇」と「介護休業」は、どちらも要介護状態になった家族の介護や世話をするための制度で、労働者の権利として法律で定められています。具体的にどんな違いがあるか比較してみましょう。
介護休業とは、要介護状態の家族を長期間にわたって介護するための制度です。介護休暇と同じように「育児・介護休業法」によって定められた制度です。介護休暇が一日や半日程度の休暇を想定しているのに対し、介護休業は数週間や数ヶ月にわたる長期休暇を取得できます。
介護休業を取得することにより、離職や職場復帰への負担といった問題が軽減され、介護に専念することができます。
なお、労働者は権利として介護休業を利用できますが、長期休暇になるため、周囲の理解を得ることが大切です。早い段階で上司などに相談し、介護の状況や休業したい日程などを伝えるようにしましょう。
「介護休暇」と「介護休業」の違いのポイントを見ていきましょう。大きく異なるのは、取得日数や賃金・給付金の有無、対象となる労働者の条件、申請方法などです。
介護休暇 | 介護休業 | |
取得できる日数 | 対象家族1人の場合は、年5日まで。
対象家族が2人の場合は、年10日まで。 |
対象家族1人につき、93日まで。
3回まで分割取得が可能。 |
賃金・給付金 | 賃金は原則無給
(会社によっては有給の場合もある) |
賃金は原則無給だが、条件を満たせば雇用保険の介護休業給付金制度を利用することも可能(上限あり)。 |
申請方法 | 口頭で会社へ申請。当日でも可能。
(会社によっては申請書等の書面提出が必要な場合もある) |
休業開始予定日の2週間前までに会社に書面で申請。 |
対象労働者 | 要介護状態にある家族を介護している。
雇用期間が6ヶ月以上。 |
要介護状態にある家族を介護している。
1年以上、同一の事業主に雇用されている。 介護休業開始の予定日から93日経過しても、半年は雇用契約が続く。 |
対象家族 | ・配偶者(事実婚を含む) ・父母(養父母を含む) ・子(養子を含む) ・同居する祖父母 ・兄弟姉妹 ・孫 ・配偶者の父母 |
・配偶者(事実婚を含む) ・父母(養父母を含む) ・子(養子を含む) ・同居する祖父母 ・兄弟姉妹 ・孫 ・配偶者の父母 |
介護休暇と介護休業とは異なる制度です。介護休業は長期間の休暇を意味し、仕事を離れて介護に専念する制度ですが、介護休暇は短期間(短時間)の休暇であるため、仕事を続けながら通院の付き添いや手続きの代行など直接的な介護ケア以外に必要な用事にも使うことができます。
「介護休暇は介護するための休暇ではなく、仕事を続けながら介護との両立体制を築くために利用するもの」という視点を持ちながら、なるべく自分で抱え込まないようにしてうまく活用してみることが大切です。
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金山峰之(かなやま・たかゆき) 介護福祉士、社会福祉士、准看護師。福祉系大学卒業後、20年近く在宅高齢者介護に従事。現場専門職の傍、介護関連の講師業(地域住民、自治体、国家公務員、専門職向け等)や学会のシンポジスト、介護企業向けコンサルティング事業、メーカー(ICT、食品、日用品等)へシニア市場の講演などを行っている。
厚生労働省関連調査研究事業委員、東京都介護人材確保関連事業等委員など経験。
元東京都介護福祉士会副会長。政策学修士。