介護保険施設を利用する際にかかる居住費と食費を軽減する仕組みが、介護保険負担限度額認定制度です。通常、介護保険サービスは1~3割の自己負担ですが、介護保険施設やショートステイを利用する際には食費や宿泊費が全額自己負担となります。そこで、介護保険負担限度額認定制度を利用すると、対象者には上限額が設定され、全額自己負担となる食費や宿泊費の一部を軽減することができるというのがこの制度です。
介護保険負担限度額認定制度の対象者には、「介護保険負担限度額認定証」が交付されます。認定証は、居住地の自治体に申請することで取得することができ、施設入居者には毎年申請書類が送られてくるので、施設を通じても申請することが可能です。
介護保険負担限度額認定制度の対象範囲や軽減額は、自治体によって異なる場合があります。申請前に事前の確認をしておきましょう。
介護保険負担限度額認定証を交付するためには、「所得」と「預貯金」の2つの要件を満たす必要があります。これらの要件によって負担限度額(施設に支払う1日当たりの金額)が決定されます。利用者負担段階は、以下のように分けられます。
区分 | 所得の状況 | 預貯金等の状況(※1) | |
単身 | 夫婦 | ||
第1段階 | 生活保護受給者
住民税非課税世帯で老齢福祉年金受給権者 |
1,000万円以下 | 2,000万円以下 |
第2段階 | 住民税非課税世帯で、公的年金等収入額と非課税年金収入額とその他の合計所得金額の合計が年間80万円以下の方(※2) | 650万円以下 | 1,650万円以下 |
第3段階(1) | 住民税非課税世帯で、公的年金等収入額と非課税年金収入額とその他の合計所得金額の合計が年額80万円を超え120万円以下の方(※2) | 550万円以下 | 1,550万円以下 |
第3段階(2) | 住民税非課税世帯で、公的年金等収入額と非課税年金収入額とその他の合計所得金額の合計が年額120万円超の方(※2) | 500万円以下 | 1,500万円以下 |
※1:第2号被保険者(65歳未満)は、段階に関わらず単身の場合は1,000万円、配偶者がいる場合は2,000万円以下です。
※2:「その他の合計所得金額」とは、合計所得金額から公的年金等にかかる雑所得(公的年金など収入金額から公的年金等控除額を差し引いた金額)を差し引いた金額(マイナスの場合は、0円として計算)のことです。
参考:横浜市「介護保険制度における負担限度額認定証とは何ですか。」
上記の区分に該当しない人(住民税世帯課税者)は「第4段階」と呼ばれます。
所得の要件は、本人を含む世帯の全員が住民税非課税であることです。
本人の配偶者が住民票で別の世帯にいる(世帯分離している)場合、事実婚であっても婚姻届を提出している夫婦と同じ扱いになり、配偶者の所得も合算されます。介護保険負担限度額認定を受けるためには本人・配偶者ともに住民税非課税の世帯である必要があります。ただし、DV防止法の規定により、配偶者からの暴力被害や行方不明になっている場合などは、この対象から除外されます。
預貯金の要件は、預貯金の合計額が基準の金額以下であることです。配偶者がいる場合は2,000万円以下、配偶者がいない場合は1,000万円以下になります。
預貯金とは、資産性があって、換金性が高く、価格評価が容易であるものと定義されています。以下の資産が預貯金の対象になります。
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引用:厚生労働省「介護保険施設による負担限度額が変わります」
生命保険や自動車、腕時計、宝石などの時価評価額の把握が難しい貴金属、絵画、骨董品、家財などは預貯金の対象ではありません。また、預貯金額には借金や住宅ローンなどの負債が差し引かれます。
上記で紹介した区分に当てはまらない第4段階の人は、負担限度額認定制度の対象外になりますが、経済的に困難な状況に置かれた場合、特例軽減措置として第3段階の負担限度額が適応されることがあります。
特例軽減措置の対象者となるのは、以下の6つの要件に該当する場合です。
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引用:厚生労働省「介護保険施設による負担限度額が変わります」
特例軽減措置は高齢者夫婦の世帯だけでなく、同居している家族の年収が低く経済的に困難な場合にも適用されます。
介護保険負担限度額認定制度により、食費や宿泊費が負担軽減の対象となる施設は以下のとおりです。
施設サービス |
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ショートステイ |
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その他 |
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民間施設のサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)、グループホーム、有料老人ホームは制度の対象外施設です。
介護保険負担限度額認定証の申請に必要となる書類や手続きの流れをご紹介します。
一般的に介護保険負担限度額認定の申請に必要とされているのは以下の3種です。ただし、地域によっては必要書類が異なるので、お住まいの市区町村の窓口やケアマネジャーに確認しましょう。
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申請書は、自治体の窓口や地域包括支援センターで配布されていたり、自治体が運営するホームページからのダウンロードで入手が可能です。
なお、不正申告により介護保険の負担軽減を受けた場合、負担限度額の2倍の加算金が課せられます。不正な申告によって得た費用は返還しなければなりません。
介護保険負担限度額認定証には1年間の有効期間があります。有効期限は、毎年8月1日から翌年の7月31日までです。
初回の認定後、翌年からは更新書類が送付されてくるので、毎年自分で更新手続きを行います。介護保険負担限度額認定証が自動的に更新されることはありませんので、注意が必要です。
また、更新時に申請した所得や預貯金の変化によって負担段階が変わる可能性がありますので、更新した後は、前回と同じ負担段階か、変更があるかなどの確認を忘れないようにしましょう。
介護保険負担限度額認定制度を利用すれば、住民税非課税世帯でも介護保険施設やショートステイの自己負担額を軽減することができます。申請に必要な書類や軽減額などは地域によって異なる場合があるので、市区町村の窓口やケアマネジャーに相談し、条件を満たしているかどうか確認のうえ、申請を行いましょう。
金山峰之(かなやま・たかゆき) 介護福祉士、社会福祉士、准看護師。福祉系大学卒業後、20年近く在宅高齢者介護に従事。現場専門職の傍、介護関連の講師業(地域住民、自治体、国家公務員、専門職向け等)や学会のシンポジスト、介護企業向けコンサルティング事業、メーカー(ICT、食品、日用品等)へシニア市場の講演などを行っている。
厚生労働省関連調査研究事業委員、東京都介護人材確保関連事業等委員など経験。
元東京都介護福祉士会副会長。政策学修士。