介護用手すりの役割は、主に3種類。歩行のサポート、動作のサポート、そして転倒・転落の防止に分けられます。
加齢とともに筋力や身体機能が衰え、歩行が困難になることがあります。こうした時、手すりにつかまることで、足腰の負担が上半身に分散され、バランスを取りながら歩くことができます。
要支援や要介護の認定を受けた方の中には、座った状態やベッドに寝ている状態からの立ち上がり、階段や段差の上り下り、トイレや浴室での動作に困難を伴う方が多くいらっしゃいます。
手すりの補助によって体を支えながら動作を行い、負担を軽くしながら自力で動作を行うことができます。
手すりは、転倒・転落リスクを軽減する役割があります。
運動機能や筋力が衰えた高齢者の方は、ちょっとしたことでバランスを崩しがちです。2021年の消費者庁の調査によれば、65歳以上の高齢者の転倒事故の発生場所件数が最も多いのは自宅で、全体の約半数の割合を占めているという結果も出ています。
高齢者の方の転倒は、骨折や後遺症が残るリスクが高く、その結果介護が必要となるケースも多いことから、自宅の転倒対策は大変重要です。
参考:「毎日が#転倒予防の日~できることから転倒予防の取り組みを行いましょう~」(消費者庁 2021年10月)
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手すりは、設置場所や用途によって様々な種類があります。利用者の身体の状況や、自宅の設置場所に応じて、適切なものを選びましょう。
手すりの高さは、利用者の身長に合わせて設置することが重要です。一般的には、地面から手すりの上部までの高さ75~85センチ程度が目安ですが、利用者の手首くるぶしの位置に合わせる方法もあります。また、車椅子を利用しているかどうか、歩行のためか動作補助のためかといった用途によっても、適切な手すりの高さは異なるということを心得ておきましょう。
利用者の方が日常生活を送る上で、どんなタイプの手すりを設置すると便利になるのか、どこに設置すれば自力で動くことができるのか、を考慮してみましょう。利用者の希望を聞いたり、普段の様子を見ながら、設置場所を検討してしていきます。場所によっては、手すりにこだわらず踏み台やベンチなどを使った方が効果的な場合もあります。
手すりの素材は木製、ステンレス製、アルミ製、プラスチック製など様々。最近では、蓄光やLED電球が内蔵され、暗い場所でも見えやすくなっている手すりもあります。
手すりは、設置する場所の温度や湿気などに適した素材を選ぶ必要がありますが、使い心地の良さも実は重要です。例えば屋外なら、サビにくいステンレス製が主流ですが、夏は熱くなり冬は冷たくなるため木製を好む方もいらっしゃいます。
防水加工や滑り止め加工が施されていること、触り心地が良いこと、使用する環境下で劣化しにくい、の3点が素材選びのポイントとなります。
利用者が握りやすい太さと形状の手すりを選ぶことも重要です。公共の場で使用されている手すりの直径は約3〜4センチのものが主流ですが、要支援・要介護の方が利用者となる家庭用の場合は、握りやすさを重視した直径2.8~3.5センチ程度の少し細めの手すりが推奨されています。
形状は、円形と楕円形があり、それぞれメリットや用途が違います。握力が弱めでも握りやすいとされているのが円形タイプ。上部がフラットになっている楕円形タイプは、握ることが難しい方が手や肘を滑らせながら移動できるというメリットがあります。
ご家庭に手すりを設置する場合、それまで手すりのなかった部分に付ける場合が多いので、十分なスペースを確保できなくなることがあります。設置するスペースに対して大きすぎる手すりを選ぶと、体をぶつけたり、介助の妨げになることもあるので要注意です。
便利なはずの手すりが、逆に障害物とならないよう、スペースと用途に合ったタイプの手すりを選びましょう。
介護用途(福祉器具)の手すりは、設置場所とその用途により最適な形を選ぶようにしましょう。
以下で代表的な7種類をご紹介します。
特徴・役割 |
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設置時の注意点 | 利用者の大腿骨大転子の高さに2〜3cm加えた高さ(目安として利用者の手首くるぶしの高さまたは75~85cmの高さ) |
設置場所例 | 廊下、トイレ、浴室、玄関 |
特徴・役割 |
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設置時の注意点 | 手すりの中心が、「小さく前へならえ」をしたときの中指の高さになるように設置 |
設置場所例 | トイレ、浴室、玄関、扉 |
特徴・役割 |
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設置時の注意点 | トイレや玄関では水平型同様75~85cmの高さ、浴室では浴槽の上縁から10cmの高さが目安。
座る場所に近過ぎる位置に設置しないよう注意 |
設置場所例 | トイレ、浴室、玄関 |
特徴・役割 |
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設置時の注意点 | 段鼻(踏み板の先端)から75センチ前後の高さで、できれば両端は20センチ以上水平に延長
片側だけの場合は下りる時の利き手側に設置を |
設置場所例 | 階段 |
特徴・役割 |
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設置時の注意点 | 未使用時はしまえるのでスペースの節約になるが、利用者は毎回出し入れの手間と負担がかかることに注意 |
設置場所例 | トイレ、浴室 |
特徴・役割 |
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設置時の注意点 | やや安定しにくいことがある |
設置場所例 | 寝室、リビング |
特徴・役割 |
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設置時の注意点 | 2本の突っ張り棒の間をバーでつなぐと、歩行補助の手すりとしても使用が可能 |
設置場所例 | 寝室、リビング |
要支援・要介護の認定を受けた方は、手すりの設置工事や工事を伴わない手すりをレンタルをする際に、介護保険を利用することができます。
① 介護認定を受ける
すでに受けている場合は不要
※介護認定調査についての詳細はこちら
⇒介護保険の認定調査でのコツはある? 正しく認定してもらうために心がけておきたいこと
② ケアマネジャーまたは地域包括センターに相談し、ケアプランを作成してもらう
要介護の方は担当のケアマネジャーへ、要支援の方は地域包括支援センターへ相談し、福祉用具貸与の利用をケアプラン(介護計画書)に追加してもらう。
③ 業者選定&業者訪問
ケアマネジャーのアドバイスを受けるなどして、手すりのレンタル事業者を選定。事業者の専門スタッフが自宅を訪問調査後、どのような手すりが必要か提案してもらう。
④ 手すりの納品&適合チェック、業者と契約
自宅に手すりが納品されたら、実際の使用感を確認。何も問題がなければ業者と本契約。ここで、思っていた使用感と違っていたり、納得できなかった場合は変更や取り消しが可能です。
⑤ レンタル・サービス開始
使用を開始後、事業者による定期的な手すりのメンテナンスを受ける。
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① 介護認定を受ける
すでに受けている場合は不要。
② ケアマネジャーまたは地域包括センターに相談
要介護の方は担当のケアマネジャーへ、要支援の方は地域包括支援センターへ相談し、手すり設置工事について相談。必要な手続きや書類についてアドバイスを受ける。
③ リフォーム会社の見積りを検討し、決定へ
介護保険の住宅改修が可能な業者に問い合わせをし、見積もりを依頼。リフォーム会社により料金の差があるので、複数の業者へ見積もりを依頼し、依頼する業者の最終決定を。
④ 自治体に事前申請(工事開始前)
自治体の申請には、申請書、理由書、工事の見積り書、改修図面、改修前の写真といった資料の提出が必要。理由書については、ケアマネジャー、地域包括センターの職員もしくは福祉住環境コーディネーター2級以上の資格を持つ人等が作ること。工事の2週間前までには申請を完了させ、審査が通ってから工事を開始。
工事が始まった後に申請を行うと介護保険の補助金が出ないため、必ず前もって申請することを忘れずに。
⑤ 着工・支払い
手すり設置工事が完了後、償還払いの場合は全額を支払う(自己負担分だけを業者に支払う受領委任払いの場合もあります)。
⑥ 自治体へ工事完了の申請
工事完了後に必要な自治体への申請。申請書、改修後の写真、工事費の領収書などの資料提出が必要。
⑦ 介護保険の住宅改修費の支給を受ける
業者への支払いが償還払いだった場合は、自治体への申請が受理された後に、給付金の支払いが行われる。
転倒事故防止や動作のサポートに役立つ介護用の手すりは、設置場所や用途、利用者の身体状況などに合わせ、様々な選択肢があります。ひとりひとりの身体能力やご家庭の環境に適した手すり選びは、高齢者の方が安心して暮らせる毎日に繋がります。
介護保険を使用して手すりの設置やレンタルを検討される際は、まずはケアマネジャーや地域包括センターへ相談してみてください。
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金山峰之(かなやま・たかゆき) 介護福祉士、社会福祉士、准看護師。福祉系大学卒業後、20年近く在宅高齢者介護に従事。現場専門職の傍、介護関連の講師業(地域住民、自治体、国家公務員、専門職向け等)や学会のシンポジスト、介護企業向けコンサルティング事業、メーカー(ICT、食品、日用品等)へシニア市場の講演などを行っている。
厚生労働省関連調査研究事業委員、東京都介護人材確保関連事業等委員など経験。
元東京都介護福祉士会副会長。政策学修士。