新型コロナ対策として、多くの組織で在宅勤務が実施されています。この結果として、在宅勤務でも高いパフォーマンスを出せる人材と、そうでない人材がはっきりしてきました。サボる人材がいるといった意地悪な意味ではなくて、単に、解決すべき課題として、シンプルにとらえてもらいたいです。この背景について考える経営フレームについて、少し整理しておきたいと思います。
在宅勤務でも高いパフォーマンスが出せるかどうかについては、まず、個人の資質という側面があります。在宅勤務の環境では、明らかに、上司からの指示・命令の総量が減ります(❶)。主体的に動ける人材であれば、自分で自分の業務内容を設計し、仕事をすることができます。しかし、上司からの指示がないと暇になってしまう人材も出てきます。
これは、そうした人材がダメということではありません。中間試験や期末試験のない学校に中学生を放り込んで、勉強しないと嘆いても仕方がないのです。まだ、誰にも監視されることなく真面目に仕事ができるレベルに達していない人材に対しては、中間試験や期末試験に準ずる、わかりやすいチャレンジを意図的に設置していく必要があります。
在宅勤務の環境では、個人の資質として、少なくとも主体性のコンピテンシー(行動の特性)が求められるでしょう。誰もが主体性を獲得すれば、いちいち上司が指示をしなくても組織の業務が進みます。そうなれば、管理職1人あたりで管理できる部下の人数も増えるので、経営効率は一気に高まります。
主体性のコンピテンシーは、組織の理念を実現するために必要なことをWBS(Work Breakdown Structure)(❷)として認識し、組織全体として流れているタスクと、それぞれのタスク間における主従関係(クリティカル・パス)を理解した上で、いまの自分がこなすべき業務を考える力だと思います。
この力は、実質的に、管理職に求められるコンピテンシーです。管理職としてのコンピテンシーが育っている人材にとっては、在宅勤務は問題となりません。しかし、こうしたコンピテンシーを、いきなり、全ての人材に求めるのは不可能でしょう。経営として、ここをどうするか、考える必要があります。
在宅勤務でも高いパフォーマンスが出せるかどうかについては、個人の資質とは無関係な面もあります。明らかに、在宅勤務に向いている業務と、向いていない業務があります。これを決めるのは、その業務に求められる対面性です。当たり前すぎるように感じられるかもしれませんが、ここは意外と深いところです。
対面性が必要な業務としては、まず、対人援助職の業務があげられます。対人援助職とは、医療・介護系の業務、教職・相談員、警察・消防といったものです。特に、こうした対人援助職には、新型コロナが蔓延している環境でも、在宅勤務がしにくいという特徴があります。
ただし、対人援助職の業務のすべてが、物理的にその場にいることを求めるわけではありません。例えば、教職・相談員などは対面ではなくオンラインでも成立する場合も多いでしょう。警察・消防も、監視業務などは、すでにずっと前からオンライン化しているはずです。
対人援助職でなくても、レストランや各種リアル商店の中で、顧客と店員との間のコミュニケーションが重要となる業務にもまた、対面性が求められます。ここでも、予約やら、物流の手配など、そもそも、コロナ以前でもオンラインで進められてきた業務もあります。
対面性の高い業務からは、長期的には撤退しなければなりません。それは、対人援助職であっても同じことです。今回のコロナでもはっきりした通り、対面性の高い業務では、その業務を担う人が命を失うリスクにさらされるからです。いずれは遠隔操作の技術によって、対面性をゼロに近づけていくことが、人類に課せられているチャレンジです。経営には、それを正しく認識し、目の前にある対面性の高い業務を、どうやって在宅化していくか考える義務があります。
ここまで考えてきた「主体性のコンピテンシー」を縦軸に、そして「業務に求められる対面性」を横軸として、以下、2次元のフレームにしてみます。すると、それぞれの象限において、経営として考えなければならないことが自然と整理されてきます。
在宅勤務が当たり前になっていく環境において、経営には(action 1)従業員の主体性のコンピテンシーを高め(action 2)業務に求められる対人性を下げる、という2つのアクションが求められます。これが結果として、自動化による淘汰から逃れるためのアクションになっているところも興味深いですね。
まず、個人レベルのチャレンジとなるのは、主体性のコンピテンシーを獲得することです。主体性のコンピテンシーは「主体的になろう!」と叫んでみても高まりません。基本的に、人間が主体的になれるのは、動いた結果として成功する可能性が高いと判断できるときです。負け戦に対して主体的に関わるのは無理な話なのです。
主体性が持てない人材は、高い成果を出すために必要となるスキルが足りていない状態です。実質的には、難しい業務を簡単にするための(WBSに代表されるような)ツールの使い方がわからないことが多いと感じています。ですからこれは、中・長期的には、人材育成によって解決されるべきところです。ただし、人材育成には時間もかかります。人材が育つまでは、上司となる人材が、適切に成果物を定義し、しっかりと進捗管理を行うしかありません。
次に、組織レベルのチャレンジとなるのは、業務の対人性を下げることです。まずは、afterコロナと、beforeコロナで、業務のあり方を同じにしないことが重要です。在宅勤務の方が、むしろ生産性が上がった業務は、そのまま在宅勤務で対応すべきです。対人業務としてオフィスに出社しなければならない業務を、業務の棚卸しによって、最小限にしなければなりません。
特にしっかりと観察してもらいたいのは、B2B営業の成果です。在宅勤務となり、顔を付き合わせたミーティングができなくなっても成果が変わらない場合、そもそも、その仕事に営業は必要ないかもしれないからです。実際に、ある業界から、ここの点に関して悲鳴に近い話が入ってきています。この業界では、これまで対人の営業が非常に重要と信じられてきたのに、コロナによって対人の営業できなくなっても、売上が変わらなかったからです。
ちなみに、はじめて公式にコンタクトすることになるB2Bの新規営業は、意外と、オンラインでいけます。商材が課題解決としてしっかりしていて、しっかりとした会社に使ってもらっていれば、オンラインでの新規営業でも、門前払いされるケースは少ないです。むしろ、コロナ以前であればあきらめていた遠方の会社であっても、afterコロナであれば、オンラインで新規営業することが可能です。
「新規営業は対面でないと無理」と考えているなら、それは明らかに間違いであり、無効な言い訳であることが、この在宅勤務で証明されています。もちろん、普通にやれば、オンラインでの新規営業の生産性は、対面には勝てません。新しいやり方、工夫は必要です。しかし、新規営業が対面でなければならない理由は、もはやどこにもありません。
誰もが在宅で、誰にも監視されることなく、自分で考えて業務を遂行する・・・というのは、理想です。理想ですから、それはまだ実現されていません。実現されるかどうかもわかりません。ただ、今後は、この理想に向けて、経営は走って行きます。この進化に必要となるのは、主体性のコンピテンシーを育てることと、対面性を減らしていくという地道な経営努力です。
理想の目的地に、いきなりジャンプすることはできません。それなのに、在宅勤務だけは、ほぼ強制的に発生していきます。それはあたかも、まだ泳げない子供が、プールに放り込まれているようなものです。生き残るためには、まずは、浮き輪が必要です。浮き輪なしで上手に泳げるようになるには、時間が必要だからです。
この浮き輪の中身は、主体性の軸からは、適切な成果物定義と進捗管理です。もっとはっきり言えば、朝礼で「今日やること」を明らかにして、夕礼で「今日やると宣言したことは本当にやれたのか」を確認していくことです。誰も、そうして管理されることは望んでいないはずです。それでも、そうした管理なしで成果が出せる人材は非常に少ないものです。
浮き輪の中身、対人性の軸からは、新規営業はもちろん、採用面接など、はじめての出会いをオンラインで効率的に獲得していける環境の整備になります。名刺交換の頻度を落とすことなく、むしろ、オンラインにおいて、どうやって増やしていくのかを仕組み化する必要があります。この点についてあきらめたら、withコロナの環境では、生き残れません。
在宅勤務が求められる条件は、世界で共通です。そしてこの世界では、すでに、高い主体性と低い対人性をめぐる競争が始まっています。個人レベルでは、WBSなど、自律的に業務を遂行する上で必要となる基本的なツールを習得することを急ぐべきです。組織レベルでは、特に新規の関係構築をオンラインで完結させるための工夫とノウハウの蓄積が必要となります。
一緒に、頑張りましょう。
a.tamemoto