第三回
母も父も突然倒れ、いきなり同時多発介護になった
独身ワーキングウーマン・中村美紀50歳。
まるでわからない介護なのに、
父母の容態が変わるたびに次々と起こる問題に、
仕事一筋の経験を活かした「ビジネスフレームワーク」を使って、
なんとか解決策をひねり出し、乗り切っていくコミカルな体験物語ーー。
母が突然倒れて入院し、数週間が経ちました。
脳の手術をしましたが、容態は未だ安定しません。
それまで母はすこぶる健康だったため、入院・介護に縁がなく、私にはまったく知識なし。 そんな中でも病院からは容赦無く、家族の決断が必要なことはぐいぐい聞かれます。
最初に困ったのは、親の「お金」のこと。
私とは世帯が別なので、親のお金事情は一切知らず。それでも、入院費やら生活費やら支払いはエゲツなくやってきます。 これはまずい!と、実家中の引き出しを洗い出し、終日かけて整理し、なんとか親のお金事情を把握しました。 (参考:連載第一回「親の『お金事情』を把握する」)
次に困ったのが、親の「人(交友関係)」。
母の友人から偶然連絡をもらった際、誰に・どう言えばいいか考えておらず慌てふためきました。 そうか、伝えるべき人には伝えておかないとまずい!と気づき、親の携帯連絡先や年賀状などをチェックして、伝えるべき方をピックアップ。どう伝えるのかを整理してお伝えしました。 (参考:連載第二回「親の『ヒト(交友関係)事情』を把握する」)
いやー、何かとてんやわんや。 母が倒れたことを悲しむ余裕さえありません。
そんな中、ご近所さんがやってきました。
「私、この地域の民生委員でもあるんです。お母さんは高校の先輩で…よくしてもらってて涙」
そうでしたか。(えーっと、民生委員ってなんだっけ?)
「お母さんには町内会役員をしてもらっていました。今後役員をどうするかの検討をしなければなりません」
どえー! 知らなかった!
私は仕事ばかりの毎日で、地域活動をひとつも知りません(お恥ずかしい)。 民生委員? 町内会役員? どうすればいいのー?
「民生委員」とは、民生委員法に基づいて厚生労働大臣から委嘱された、非常勤の地方公務員のこと。 核家族化が進み、地域社会のつながりが薄くなっている中、孤立しないよう身近な相談相手となり、住民と行政・専門機関をつなぐパイプ役を務めてくれるなど、地域福祉を目的として活動してくれている方々のことです。 (参考:政府広報オンライン)
そんな民生委員さんの訪問。
母が倒れたことを気にかけ、様子を見に来てくれたとのことでした。
「状況を確認させてもらって、必要なら町内会役員の交代を進めます涙」
母の回復は思わしくないので、交代をお願いしました。そして、特に家族がすることはないか聞いてみました。
「ダイジョブです涙」
ご家族の意向が確認できれば、あとはこちらで全てやっておきます、と言ってくれました。最終的には「まるっとお任せあれ!」的姿勢で帰っていった民生員さん。なんとも頼もしい限りです。
結局、連絡をいただいた方々は、母との関係性の深いご近所さんたち。
民生委員の方から情報が伝わり、ケアをしてくれたのでしょう。
のちに介護サービスを利用するのに「地域包括支援センター※1」に足繁く通うことになるのですが、民生委員は、この地域包括支援センターとも情報の連携ができていて、とても助かりました。
※1「地域包括支援センター」とは…地域住民の心身の健康の保持および生活の安定のために必要な援助を行う、地区町村責任主体とした機関のこと。 (参考:厚生労働省「地域包括支援センターの手引き」)
今まで私は、家と会社・仕事先の往復をする毎日で、遊びに行くのも都心中心という、未だ若手社員と変わらないような生活。お恥ずかしながら地域貢献や地元活動などはまったくの疎遠。
親が介護になって初めてわかりましたが、蓋を開けてみると太い「地域ネットワーク」があり、何かと相談できる環境があり、情報が共有されていて、一番大変な時に支えられていることを実感しました。
ありがとう、地域ネットワーク!
がしかし、残念ながら知られていない!伝わっていない!
私は感謝の気持ちとして、こうして「伝える」ことで、自分にできる形での恩返しをさせていただこうと思います敬具。
これで、ひとまずシゴトを辞めなくてすみそうです。
ひとつひとつ山を乗り越え、今日も、心の中で叫びます。
「こうして私はシゴトを辞めない!」
・突然親が倒れた場合、忘れてはならないのが、親の習い事や参加イベントなどの調整。
・特に、会費などのお金関連や、待ち合わせをしているような約束事などは、お相手の方に迷惑をかける可能性が高いので要注意。
・日々仕事ばかりだとよく知らない(私だけ?)地域ネットワーク。「民生委員」「地域包括支援センター」など名称だけでも覚えることをおすすめ。詳しく理解していなくとも「何かあれば頼れる行政の仕組みがある」と知るだけで安心材料。
・ 現状把握が大事とも、突然親が倒れてしまった場合など、親に聞かずして親のことを完全把握するのは、やっぱり難しい。その場合は、民生委員さんやご近所さんに頼るもの手。
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●プロフィール
中村美紀
クリエイティブコンサルタント・編集ディレクター
(株)リクルートグループに20年在籍。副編集長・デスクとして10以上のメディア実績を持つ。2012年に独立。紙・WEBメディア設計、編集コンテンツ企画制作、クリエイティブ研修講師、クリエイティブ教育・組織コンサルタントなどで活動中。国家資格キャリアコンサルタント・米国CCE,Inc. GCDF-Japanキャリアカウンセラーでもある。
木場 猛(こば・たける) 株式会社チェンジウェーブグループ リクシスCCO(チーフケアオフィサー)
介護福祉士 介護支援専門員 東京大学文学部卒業。高齢者支援や介護の現場に携わりながら、 国内ビジネスケアラーデータ取得数最多の仕事と介護の両立支援クラウド「LCAT」ラーニングコンテンツ監修や「仕事と介護の両立個別相談窓口」相談業務を担当。 3年間で400名以上のビジネスケアラーであるご家族の相談を受けた経験あり。セミナー受講者数、延べ約2万人超。
著書:『仕事は辞めない!働く×介護 両立の教科書(日経クロスウーマン)』
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