都会に暮らしていて、老後は地方に移住したいと考えている人は多いと思います。都会での暮らしが長くなると、日常的に海が見えるところ、静かで自然の多いところ、空気が綺麗で深呼吸するだけで元気になれるところ・・・憧ればかりが大きくなります。
そうして、都会で暮らしてきた家を売って、地方に移住する人も実際にいます。関東エリアでは、やはり、鎌倉や湘南といったあたりの人気は絶大で、周囲に何名かは、鎌倉や湘南に引っ越した友人がいるということも珍しくないでしょう。
実際に、都会から地方に引っ越した時に、特によかった点として挙げられるのは、家の広さです。都会では、それこそ「ウサギ小屋」とも言われるような狭いところで我慢することが当たり前です。しかし、そうした自宅を売って得たお金で地方に家を買うと、とても広々とした家を手に入れることができます。
ある意味で、長期に渡って都会暮らしをしてきた人ほど、都会のストレスに晒されているわけで、地方暮らしへの憧れが強くなるというのも仕方のないことかもしれません。満員電車に揺られていると、これが人間本来の生活とはとても思えないのも事実です。
地方の方が物価が安いというのは、家賃や不動産といった意味では、その通りです。しかし、生活必需品が安いかというと、そうでもありません。地元でとれる物産品であれば、確かに、都会よりもずっと安いことが多いでしょう。しかし、地元ではとれないものについては、価格に物流コストが乗ってきます。
また、都会のようにスーパーなどが多いところでは、競争があるため、意外と安くものが手に入ったりもします。電気、ガス、水道なども、地方の方が都会よりも安いという訳でもありません。プロパンガスだったりすると高くなりますし、冬季に水道が凍結するようなところではヒーターのお金もかかります。
そして、一番忘れてはならないのは、健康を害すると、地方の方が大変という部分です。近くに病院がなかったりすれば、交通費もかかります。地方によっては、そもそも介護サービスを提供してくれる事業所が近くにないということもよくあるでしょう。
マネーポストWEBの記事(2019年5月23日)によれば、あくまでも個別のケースにすぎないのですが、光熱費と交通費で、都会(年間約22万円)と地方(年間約57万円)で、地方で暮らした方が、年間約35万円もお金がかかるという事例が紹介されていました。
健康でいられる限りにおいては、地方での暮らしは、都会でのそれよりもずっと豊かなものになる可能性があります。ただ、人生の晩年においては、平均寿命と健康寿命の差から、少なくとも10年の介護を想定する必要があります。そうして介護が必要になると、家が広いかどうかや、近くに海があるかどうかではなく、多様な介護サービスを利用できるかどうかが死活問題となります。
地方にも介護サービスを提供してくれる事業所があるかもしれません。しかし、介護事業所には「定員」があって、そこに空きがなければ活用することができなかったりもします。病院は、毎日行くところでもないので、多少は遠くても問題ないかもしれません。しかし介護は、毎日必要なのです。
介護はもちろんなのですが、生活に車の運転が欠かせない地区だと、将来的には困るかもしれません。自分が高齢者になって、運転の不安が高まり、免許の返納などをすることになるかもしれないからです。実際に、地方で車がないと、本当に大変というところは少なくありません。
もちろん、都会であっても、介護サービスの空白地帯は存在します。逆に、地方であっても、介護サービスが多数あるところもあるでしょう。いよいよ候補地が絞り込まれたら、必ず自治体のホームページや場合によっては「役場」に連絡をして介護サービスの状況は確認しておくことをお勧めします。
木場 猛(こば・たける) 株式会社チェンジウェーブグループ リクシスCCO(チーフケアオフィサー)
介護福祉士 介護支援専門員 東京大学文学部卒業。高齢者支援や介護の現場に携わりながら、 国内ビジネスケアラーデータ取得数最多の仕事と介護の両立支援クラウド「LCAT」ラーニングコンテンツ監修や「仕事と介護の両立個別相談窓口」相談業務を担当。 3年間で400名以上のビジネスケアラーであるご家族の相談を受けた経験あり。セミナー受講者数、延べ約2万人超。
著書:『仕事は辞めない!働く×介護 両立の教科書(日経クロスウーマン)』
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