介護中の外出って、本当に大変ですよね。
病院の付き添いや買い物、役所への手続き。必要なことだからやらなきゃいけない。でも、車イスを押しながら、荷物を持って、雨の日なら傘も差して――なんてことになると、心が折れそうになることもあると思います。
そんなときにちょっと楽になるサポートのひとつが「介護マーク」と「思いやり駐車場」です。今回は、日々の小さな困りごとを減らしてくれるこれらのツールを紹介します。
電車内や駅のエレベーター前で、車イスや杖を使っていないご高齢の親と一緒にいるとき、「元気そうなのに、なぜ優先スペースを使っているの?」といった視線を感じたことはありませんか?
あるいは、認知症の方のように、外見からは介護の必要性がわかりにくい場合には、異性のトイレ介助や下着の購入といった場面で、誤解や偏見にさらされることもあります。
こうした状況に対応するために生まれたのが、「介護マーク」です。
これは、介護していることを周囲に伝えることで、介護する人の心理的な負担をやわらげ、理解と配慮を促すことを目的としたツールです。静岡県で考案され、現在では厚生労働省の後押しのもと、全国への普及が進んでいます。
駅やバス、公共施設、店舗のトイレ、病院の付き添いなど、さまざまな場面でこのマークを身につけることで、周囲の理解や協力を得やすくなるケースが増えています。
また、介護保険サービスを利用している方に対して、ヘルパーが首から介護マークを下げて支援にあたることもあります。このように、介護する人・される人の双方にとって安心感をもたらすツールとしても利用されています。
介護マークは、申請書の提出などの手続きは不要で、どなたでも無料で取得することができます。介護中の方の負担を少しでも軽減できるよう、手に取りやすい仕組みになっています。
*参考:大阪市ホームページ https://www.city.osaka.lg.jp/fukushi/page/0000639650.html
「思いやり駐車場」は、正式には「パーキング・パーミット制度」などと呼ばれ、各自治体がまちづくり条例などに基づいて、スーパーや病院の入り口付近に設置している優先駐車スペースです。高齢者や障がいのある方、妊産婦など、移動に配慮が必要な方々のために設けられています。
自治体によっては、以下のように区分が設けられています。
ステッカーの種類も、これらの区分ごとに分けて発行されている場合があります。ただし、多くの自治体では「プラスワン区画」が満車の場合、「車いす利用者優先区画」に駐車してもよいといった、柔軟な運用がなされています。
名称やマークは都道府県ごとに異なりますが、原則として他府県で発行された利用証でも利用可能です。マークや制度の違いについては、以下のリンクをご参照ください。
👉広島県ホームページ:思いやり駐車場利用証が利用可能な都道府県一覧(相互利用)
「思いやり駐車場」であることを示す表示は、以下のいずれかで確認できます。
駐車の際は、発行された利用証を自動車のルームミラーに掲示してください。ルームミラーに掲示することが難しい場合は、フロントガラス付近の外から見える位置であれば問題ありません。
「うちの親はまだ歩けるから…」と、思いやり駐車場の利用を遠慮してしまう方も少なくありません。けれども、ほんの少し移動距離を短くするだけで、介助する人の負担も、介護される人の安心感も、大きく変わります。
たとえば、こんな場面があります。
こうした理由から、思いやり駐車場は単なる“便利なスペース”ではありません。それは、介護する人・される人、双方の「安全」を守る手段でもあるのです。
「思いやり駐車証」の利用カードは、各自治体が、対象となる方の身体状況や要介護度に応じて発行しています。
対象となる障害や傷病には等級や診断書の条件が定められている場合があります。自治体ごとに制度の名称や運用が少しずつ異なりますので、お住まいの市役所や福祉窓口に確認するのが確実です。
介護は、気力も体力も必要とされる、決して楽ではない営みです。
だからこそ、利用できる制度や支援は、ためらわずに取り入れていくことが大切です。外出のたびに感じる小さなストレスや不安も、適切なサポートを受けることで軽くなることがあります。
それは、介護される方のためだけでなく、介護を続けるあなた自身のための「工夫」でもあります。ご自身をいたわる気持ちで、こうした制度の活用を前向きに検討してみてはいかがでしょうか。
岩瀬 良子(いわせ・りょうこ)
介護支援専門員(ケアマネジャー)・介護福祉士
京都大学卒業後、介護福祉士として、介護老人保健施設・小規模多機能型居宅介護・訪問介護(ヘルパー)の現場に従事。その後、育休中に取得した介護支援専門員の資格を活かし、居宅ケアマネジャーのキャリアを積む。「地域ぐるみの介護」と「納得のいく看取り」を志している。
介護プロ編集部