家庭のこと、落ち着く日は来るの?――介護と仕事の両立をめぐる「ひとこと」が生む、すれ違いと支え合い

家庭のこと、落ち着く日は来るの?――介護と仕事の両立をめぐる「ひとこと」が生む、すれ違いと支え合い

はじめに:ビジネスケアラーに突きつけられる「いつ落ち着くの?」という言葉

仕事・育児・介護の“トリプルケア”や、遠距離介護と子育てなど、複数のケア責任を担うビジネスケアラーの方々から、職場でのこんなエピソードをよく耳にします。

「で、いつになったら家庭のことは落ち着くの?」

このひと言に、言葉を失った人もいれば、「親の介護が終わるときです」と絞り出すように返した方もいました。

 

介護の多様性と見えにくさ:「親」だけじゃない、支える相手

介護といっても、その対象や関係性は一様ではありません。

  • 親に代わって祖父母のケアをする人
  • 義理の親や兄弟姉妹の介護に関わる人
  • 配偶者やパートナーの支援を担う人
  • 主たる介護者ではないが、頻繁な連絡・相談・調整を一手に引き受けている人

にもかかわらず、「いつ落ち着くの?」「仕事は続けられるの?」といった一言で、状況を“シンプルに判断された”と感じる方も少なくありません。

 

「施設に入れたら?」という“現実的な助言”が突き刺さる理由

またあるケースでは、介護と仕事の両立に奔走する社員に対し、上司がこう声をかけました。

「もう施設に入れたら?」

もちろん、施設の活用は大切な選択肢の一つです。ですが、その選択には家庭内での合意や本人の気持ち、金銭面、地域事情など、さまざまな背景が絡み合っています。

このように「決断」を急がせるような言い方をされると、「家族のことを、合理性だけで語られた」という疎外感を持ってしまう人もいます。

 

言葉の重み:「支え」にも「壁」にもなるひと言

何気ないひと言が、当事者の心に大きな影響を与えることがあります。

  • 「家庭のことは、いつになったら落ち着くの?」
  • 「施設に入れた方が楽じゃない?」
  • 「子育ての次は介護か、大変だねえ」

こうした言葉が、「もうキャリアは難しいね」「今は全力では働けないね」と受け取られてしまうと、当事者は「頑張っても評価されない」と感じ、孤立してしまうのです。

 

周囲ができる「ひとこと」支援とは?

 

避けたい言い方(NG例)

  • 「家庭のことはいつまで続くの?」
  • 「施設に入れたらいいのに」
  • 「子育ての次は介護か、大変だねえ」

 

伝わる言い方(OK例)

  • 「ご家族のこと、大変だと思うけど…いま一番気がかりなことは何?」
  • 「どうしたら無理なく両立できそうか、一緒に考えようか」
  • 「ここでの役割はチームで支えられるから、必要なことがあれば遠慮なく言ってね」

 

相手を“助ける”というより、“一緒に進める”姿勢を示すことで、関係性は大きく変わります。

 

まとめ:「共に悩む姿勢」が支えになる

介護も育児も、正解のないテーマです。

何が最善かは、家庭ごと・タイミングごとに異なります。だからこそ、「どちらかを選ぶ」ではなく、「どうすれば、できる限り続けられるか」を共に考える姿勢が、支えになります。

そしてこれは、単に共感にとどまらず、

  • 社員一人ひとりのモチベーションを保ち 
  • チームの活性化を促し 
  • 企業にとっても人材の定着につながる 

という意味で、非常に重要な視点です。

日々のコミュニケーションの中で、育児や介護をしている社員の“いま”に気づくこと。その姿勢が、働きやすく信頼できる職場づくりの基盤になります。

 

この記事を書いた人

室津 瞳(むろつ・ひとみ)
NPO法人こだまの集い代表理事 / 株式会社チェンジウェーブグループ シニアプロフェッショナル / ダブルケアスペシャリスト / 杏林大学保健学部 老年実習指導教員
介護職・看護師として病院・福祉施設での実務経験を経て、令和元年に「NPO法人こだまの集い」を設立。自身の育児・介護・仕事が重なった約8年間のダブルケア経験をもとに、現場の声を社会に届けながら、働きながらケアと向き合える仕組みづくりを進めている。
【編著書】『育児と介護のダブルケア ― 事例からひもとく連携・支援の実際』(中央法規出版)【監修】『1000人の「そこが知りたい!」を集めました 共倒れしない介護』(オレンジページ)【共著】できるケアマネジャーになるために知っておきたい75のこと(メディカル・ケア・サービス)

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