介護や看取り、認知症との向き合いが、仕事や家庭の両立の中で避けては通れないテーマになってきています。
特に未就学児から小学生のお子様がいる家庭では、「おばあちゃんの様子が変わったのはなぜ?」「天国に行くってどういうこと?」という問いかけにどう答えるか、難しさを感じるというケアラーの方々のお声を聞くことがあります。
もしあなたの親に、「少し物忘れが増えたかも?」「足腰が弱ってきたな」といった小さな変化が見えはじめていたら――?
そのとき、今回ご紹介する内容が、お子様へ伝えるヒントとしてご参考になれば幸いです。
父が末期がんとわかり、自宅で看取ることになった頃、娘はまだ3歳でした。
私たち家族は、できる限り父に寄り添い、ケアをしながら穏やかに過ごす時間を大切にしていました。
娘もその様子を見てはいたけれど、私は「きっと言葉ではなく、そばにいることで伝わるものがある」と思っていたのです。
けれど、それは大人の視点でした。
あれから時がたち、娘が10歳になったとき。ある日、ふと口にしたのです。
「大好きだったおじいちゃんが、遊んでくれなくなったとき、私が嫌いになっちゃったのかな?と思ってた。あのころが、一番つらかったな」
たった10年しか生きていない娘の口から、そんな言葉が出てくるとは思いもしませんでした。
私たちは「家族として精一杯ケアできた」と思っていたけれど、娘の受け止め方はまったく別のものでした。
あの時、絵本の力を借りていれば、もっと素直に語り合えたかもしれない──そう思うと、当時の私に伝えたくなるのです。
ここでは、命や記憶、大切な人との別れを子どもに伝えるきっかけとして、認知症や看取りをやさしく語れる絵本を5冊ご紹介します。
なお、子どもがケアに向き合うときに、その出来事を安心して受け入れられるよう、遊びや絵本を通してあらかじめ伝えることを、医療の世界では「プレパレーション」と呼びます。
絵本は、まさにその力を担ってくれる存在と言えるでしょう。
作・絵:よしたけしんすけ
亡くなったおじいちゃんの部屋で「このあと どうしちゃおう」と書かれたノートを見つけたぼく。
そこには、おじいちゃんが死後の世界について想像したことがたくさん綴られていました。
「死んだら空の上でやりたいことリストが見られる」
「地獄も案外たのしいかもしれない」
──そんなユーモラスなアイデアにくすっと笑いながら、“死”を前向きに考えられる絵本です。
親子で「自分だったらどうしちゃおう?」と話す時間が、命を考えるきっかけになります。
作:大森元貴(Mrs. GREEN APPLE)
人気バンドMrs. GREEN APPLEのボーカル・大森元貴さんが、楽曲『メメント・モリ』の世界観を絵本に。
「生きるって?」「いのちって?」というテーマが、詩のような言葉と美しい絵で紡がれます。
絵本を読んだあとにYouTubeで原曲を聴いてみるのもおすすめです:
🔗 Mrs. GREEN APPLE「メメント・モリ」(YouTube公式)
作・絵:スーザン・バーレイ/訳:小川仁央
森の仲間たちから慕われていたアナグマさんが、ある日旅立ちます。
悲しみにくれる仲間たちは、やがて気づきます。
アナグマがそれぞれに残してくれた、大切な想い出やメッセージの尊さに。
「別れ」は悲しいけれど、その人がくれた時間や記憶は、ちゃんと心に残っている。
看取りや死を、子どもと語り合うときの入口としても、あたたかく寄り添ってくれる一冊です。
監修:藤川幸之助 ほか/全5巻
家族の中にいる“認知症のある人”との暮らしが、子ども自身の視点で語られる5冊シリーズです。
中でも印象的なのは、おじいちゃんと孫が入れ替わり、年を重ねること、身体の衰え、記憶の喪失、ケアの大変さを追体験するストーリー。
“経験しないとわからない”ことを疑似体験する構成が秀逸で、大人にも響く内容です。
「ちゃんと伝えなければ、子どもは“自分のせいかもしれない”と受け取ってしまう」
私の娘もそうだったように、小さな心は時にとても繊細で、自分の中で答えを出してしまうことがあります。
このシリーズは、そんな誤解を防ぐ「対話のきっかけ」として、大きな力を発揮してくれそうです。
作:ジュリア・ジャーマン/絵:スーザン・バーレイ/訳:よだもとゆき
森の王ライオンのおじいちゃんが、少しずつ物忘れをするようになります。
孫のリオは戸惑いながらも、どう接したらいいのかを少しずつ学んでいきます。
「覚えてなくても、ぼくは知ってるよ。おじいちゃんのこと、大好きだって」
──そんなセリフが、胸にじんわりと響く一冊。
認知症のある家族と向き合うとき、そして子どもに“変わっていく姿”をどう伝えるかに迷うとき、そっと背中を押してくれます。
絵本を手に取ったら、まずは読み聞かせながら、
「おばあちゃんも、こんなふうに思ってるかもしれないね」
「この子、○○ちゃんに似てるかもね」
といった一言から、会話をひらいてみてください。
そんな場面に、今日ご紹介した5冊の絵本が、きっと寄り添ってくれることをねがっています。
NPO法人こだまの集い代表理事 / 株式会社チェンジウェーブグループ シニアプロフェッショナル / ダブルケアスペシャリスト / 杏林大学保健学部 老年実習指導教員
介護職・看護師として病院・福祉施設での実務経験を経て、令和元年に「NPO法人こだまの集い」を設立。自身の育児・介護・仕事が重なった約8年間のダブルケア経験をもとに、現場の声を社会に届けながら、働きながらケアと向き合える仕組みづくりを進めている。
【編著書】『育児と介護のダブルケア ― 事例からひもとく連携・支援の実際』(中央法規出版)【監修】『1000人の「そこが知りたい!」を集めました 共倒れしない介護』(オレンジページ)
介護プロ編集部