介護は「適度な距離感」が大切。「自分の親の介護」で悩まない心構えとは?

介護は「適度な距離感」が大切。「自分の親の介護」で悩まない心構えとは?

2022年12月23日、リクシスは、第2回『全国ビジネスケアラー会議』を開催いたしました。本オンラインセミナーは、高齢化の流れが加速する日本社会において、現役世代として働きつつ、同時にご家族の介護にも携わっている「ビジネスケアラー」の方々、そして、その予備軍となる皆様に向けたセミナーです。イベントの中では、人材育成やマネジメント領域の専門家が語る「ビジネスケアラーが置かれた現実」や、ベストセラー作家と編集者による「同居介護と遠距離介護の実践例」などの生のお声を多数いただきました。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
<当日のプログラムおよび登壇者>
第一部【基調講演】ビジネスケアラー調査で明らかに。仕事と介護の両立リアル
講演者:大嶋寧子氏(リクルートワークス研究所 主任研究員)
第二部【パネルディスカッション】「ビジネスケアラーの『実践サバイバル術』とは -遠距離介護・同居介護をどう考える?-
登壇者:松浦晋也さん、山中浩之さん、リクシス木場猛、佐々木裕子
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

本記事では、パネルディスカッションでの質疑応答内容をご紹介します。
パネルディスカッションのこれまでの記事はこちら→
1:「これだけはやっちゃいけない」8年半の介護奮闘生活で気づいた、たったひとつのこと

2:「介護は撤退戦」自分でかかえず「介護のプロ」とチームを組む重要性

 

自分で判断せず、プロの目を借りる

山中さんのケース紹介が終わると、ディスカッションは質疑応答へと移りました。

佐々木:たくさんの質問が来ています。まず、「親の異変に気づいてから認知症発覚まで2ヶ月というのは、一般的には早いほうなのでしょうか?」とのことですか、どうでしょうか。

木場:相場から言えば、「まだ早いほう」ですね。「異変に気づいてから病院に行くまで」に半年以上かかる方が半数ほどいらっしゃいます。

佐々木:「早期介入ができると、認知機能が少し戻る」可能性もあるとされていますので、早期対応は重要だと思います。ただ、ご家族にとっては認知症の兆候は認めづらいものですよね。

山中:自分の親だとついついひいき目に見て、「今日は調子が悪いのかな」とか、「寝不足なのかな」といった感じに「認知症の初期症状じゃない理由」を作り出しちゃいますよね。そうなると、異変を発見するよりも先に、「○○歳ぐらいになったら、もう認知症を覚悟しておいたほうがいい」という感覚を持って包括支援センターに話をしておいたほうが良いような気がします。

木場:松浦さんの話にあった「茹でガエル」のように、ご家族の場合は異変に対して慣れていて気づきにくい、というのはあるでしょうね。具体的な年齢では少し言いづらいのですが、相場で言えば70代から介護認定率も上がってきますので、ご両親が70~75歳ぐらいだったら一度、顔見せに行ってもいいのかなと思います。もちろん、ご自分で行ってもらうのもアリなので、65歳を過ぎたら「包括という場所があるよ」ということを教えてあげるのも良いかもしれません。

山中:包括支援センターは電話相談も受け付けているので、電話口で「最近物忘れがあります」とか「買い物で間違えるんです」とか、具体的な点を伝えるだけでも、プロの意見が聞けるので良いと思います。自分で判断しようとするから悩むんですよね。

佐々木:施設入居のタイミングについても、どうするのがベストなのでしょうか?

木場:「数時間程度でも、一人にさせられない」という状況になると施設を検討される方が多いのですが、実際は周りで見ているご家族だったり、ケアマネさんや病院の方など、誰かに指摘されて決意することがほとんどだと思います。そういう、「アラートをあげてくれる人を外部に作る」というのが大事ですね。

理想的な介護の第一条件は「近づきすぎない」こと

パネルディスカッションの最後には、全国にいるビジネスケアラー予備軍の方々に向けて、松浦さんや山中さん、介護の専門家の木場先生からコメントがありました。

松浦:介護をアウトソーシングしていく中で抱く罪悪感とか、介護の中で感じるストレスは色々あると思います。僕の場合は「周りの力を借りないと自分が潰れる」というところまで行き着いてしまったのですが、そうならないうちに、早くから手助けを受けようとするならば、「いずれ必要になることだから」という意識が大事になります。この「先読みの気持ち」だけは持っておかないといけません。

山中:「親の介護を他人に任せて、自分は楽しく仕事してていいのか?」という気持ちは、誰でも持ちうると思うんです。でも、これは「いいんだ」と思うしかない。私が自著に『親不孝介護』というタイトルをつけたのも、親孝行の気持ちで介護に携わったら、適切な距離を取ることができないからなんですよ。親から距離を取って客観視しないと「介護が必要か、不必要か?」「施設に入れるべきかどうか?」といった基本的な判断ができないんです。他人から親不孝と言われることを恥じずに、「これが本当の親孝行なんだ」と思ってやるぐらいじゃないと、親にも自分にもよい介護はできないし、ましてや仕事との両立なんて不可能な気がするんですよ。

佐々木:それは第一回ビジネスケアラー会議で基調講演を行った佐々木淳先生のお話にもありましたね。「認知症の介護について言えば、むしろ距離を取ったほうが、親と子どもにとってQOLが上がる」という。

山中:実によくわかります。

佐々木:「年末年始や、節目の際にこれだけはやっておいたほうがいい」というアドバイスはありますか?

松浦:僕から言えるのは「早く地域包括支援センターにアクセスすること」ですね。本を出して、色々な介護のプロに会ったんですが、皆さん口を揃えて「他の人の親にはできますが、自分の親だと冷静に対応できません」とおっしゃるんですよ。介護のプロが例外なく全員そう言うんだから、素人が「親を自分で見ることができない」というのは当然なんです。頼れるものには頼ったほうが良いんです。

山中:介護そのものはできるだけプロにお任せするとして、子どもの立場でするべきことは、「親が衰えて何か失敗しても、できるだけイラッとしないこと」だと思います。飲み物をこぼしちゃったとか、エレベーターで逆のボタンを押したとか、ちょっとした変化でイラッとするとは思うのですが、そこで怒らず、「ああ、これが衰えか」と飲み込んで、そのぶん優しくしてあげてください。「何とかして俺が治そう」と考えるんじゃなくて、変化を受け入れつつ、良い思い出をたくさん作るほうに意識を向けてください。

松浦:認知症は治らないからね。

山中:治らないですからね。

木場:「危ないな」と感じるための目安としては、国が出している「認知症の気づき」チェックリストなどがあります。何点だからどうということではなく、半年くらいのスパンでやってみて「ちょっと前と変わってきたな」といった具合に参考にするといいでしょう。気づいたら、包括支援センターに連絡をしていただいて。

佐々木:折を見て、親御様とそういった話をしておくのがいいかもしれませんね。お元気なうちだったら、前向きに話ができる気がします。

 

リクシスの公式LINEでは、認知症などのチェックリストが得られたり、お住みの地域の包括支援センターがどこにあるのかを検索できます。また、「木場さんに質問」という機能で、木場にチャットで相談することも可能です。

Webサイトを含め、リクシスはこれからもビジネスケアラーに必要な情報を発信していきますので、現役ケアラーの方、予備軍の方ともに、ぜひご利用いただけると幸いです。

 

パネルディスカッションのこれまでの記事はこちら→
1:介護は「初動の遅れ」が自分を苦しめる。「介護の知識を事前に備えておく」大切さ
2:親の介護で「親孝行」意気込まず、自分でかかえず「介護のプロ」とチームを組む重要性

この記事の監修者

サポナビ編集部

この記事は役に立ちましたか?

課題が解決しなかった場合、下記から専門家に直接質問ができます。

無料会員に登録して専門家に質問する

関連記事

サポナビQAバナーサポナビQAバナー