「そろそろ動かなきゃ」と、分かっていても踏み出せない 介護前の不安 ── 400名の声に共通する、動き出せない3つの理由

「そろそろ動かなきゃ」と、分かっていても踏み出せない 介護前の不安 ── 400名の声に共通する、動き出せない3つの理由

 

本記事は、2025年11月26日に開催された第31回ビジネスケアラー会議「介護が始まる前に!2000名の相談から見えた‟事前に知ると楽になる”ヒント」の事前参加申し込み約400名のフリーコメントに基づいて作成しています。

 

 まだ介護にはなっていないが、気になっている。
 そろそろ動いた方がいいことも、頭では分かっている。
 それでも、いざ向き合おうとすると気持ちが重くなり、先に進めなくなる。

 

今回のアンケートでは、そんな「介護前」の方に共通する感覚が多く寄せられました。寄せられた言葉を読み解くと、多くの人が同じところで立ち止まってしまう背景として、3つの要因が見えてきました。

今回は、介護前に「分かっていても進めない」と感じる背景を以下の視点から整理しています。

  • 寄せられた声から見えた不安の種類
  • 介護前に多くの人が動きにくくなる要因
  • その要因が、どのように不安や迷いを大きくしているのか

こうした視点を踏まえて、介護前に生じやすい不安やつまずきがどこにあるのかを見ていきます。

 

 親(ケア対象)の課題・状況

まずは、親御さん(ケア対象)について、どんな困りごとが想定されているかというジャンル、介護になった場合の状況を見てみます。言葉としてあがったのは「認知症の兆候」と「遠距離」が大半でした。

 

 

認知症の兆候

診断されていない初期段階から、いくつか気になる症状が見られる段階まで様々です。「急に進んだ」「病院へ行かない」といった悩みがあります。

 

コメント例:

  • 認知症を発症し始めた時期(診断前)の初動を知りたい。
  • 急に認知機能の低下が進んだみたいで、戸惑っています。突然ガタッと状態が変わることがあるのか知りたい。
  • 少し認知症が始まってきたので それに対しての対応が知りたい。物取られ妄想みたいなものです。

 

遠距離

物理的な距離が壁となり、緊急時の対応や日々の様子が見えないことへの不安が綴られています。

 

コメント例:

  • 1000km以上離れた父親の介護が必要です。85歳以上の両親2人で生活しています。救急車、介護タクシーも使用しているように推察できますが、私が電話しても大丈夫よ~しか言わない。
  • 実家の親が遠距離なので、何かあった際にすぐに対応することができない例えば、親が骨折して入院ではなく、自宅で療養する場合に食事やお風呂、買い出しなど日常生活の対応をやるようなサポート体制を知りたいです。
  • 高齢の両親と離れて生活しているため心配がたくさんあります。できれば近くに呼びたいのですが本人たちが地元から離れたくないと頑ななため困っています。

 

老老介護

高齢の両親が互いに支え合っている、あるいは配偶者が介護を抱え込んでいるケースです。

 

コメント例:

  • 義母は介護が必要だと思うが、義父が自分ができると言って聞く耳を持たない。どのように持っていけばいいかヒントになればと思っています。

 

一人暮らし

コメント例:

  • 今は介護が必要ではないが、高齢の母親が一人で実家に暮らしているので、いつ介護が必要になるかわからない。

 

家事や外出の困難

コメント例:

  • 自宅で療養する場合に食事やお風呂、買い出しなど日常生活の対応をやるようなサポート体制を知りたいです。

 

その他に、経済状況の問題や、親御さんの感情の起伏などが挙がっていました。

  • 義母の年金で生活しているが、これ以上認知症が進むと施設に入れるべきか?悩む。義弟が仕事が続かず収入面も不安。
  • 時により感情の起伏が大きく、対応の仕方がわからない。

 

自身の不安・悩み

次に、コメントに記入したビジネスケアラー予備軍の方自身が持つ不安について、その種類を見ていきます。
コメントを分類してみると、「そもそもなにをしていいかわからない不安」と「制度や窓口の利用への不安」が二大要因となっており、次いで「親の抵抗感」が続きます。

 

 

そもそもなにをしていいかわからない

予備軍としての漠然とした不安が一番多く含まれていました。

 

コメント例:

  • 今回のような全く知識の無い人がどう準備しておけばよいか、何を知りたいとか詳しくわからない初心者として知る機会を願います。いつもこのセミナーの大切さを実感しています。なかなか参加できなくて残念な時が続いてましたが長く続いてもらうといいなと思っています。
  • 今は介護が必要ではないが、高齢の母親が一人で実家に暮らしているので、いつ介護が必要になるかわからない。なので、介護予備軍として、親と何を話しておいた方が良いのか、事前に知っておいた方が良い情報などがあれば教えて頂きたい。

 

制度や窓口の利用に不安がある

地域包括支援センターの役割への疑問や、過去に冷たい対応をされた経験、窓口の使い勝手に関する悩みが挙がっていました。

 

コメント例:

  • 知り合いの人で 地域包括支援センターを訪れ相談しようと窓口で声をかけたところ「あんたの事案は緊急性が低い。まずもって予約もなしに来るなんて、バカじゃないか」としかり飛ばされ、半分泣きながら帰って来たと聞きました。確かに予約は必要だったかもしれないが、あまりにも暴言ではないか。地域包括支援センターを利用するのが怖いです。
  • 地域包括支援センターは介護の何を相談できるのか、教えてほしいです。「地域包括支援センターに連絡したらよい」とよく聞きますが、実際連絡すると「うちじゃない」と断られたことがあります。
  • こちらが地域包括支援センターの担当外のことを聞いてしまったのだと思いますが、ではどこに聞けばよいのか、まで踏み込んで聞くと「わかりません」と回答されて困りました。

 

親のプライドや抵抗感に苦慮している

受診拒否、介護拒否など、親の抵抗感とケアが必要な現実の間で板挟みになっている状況です。

 

コメント例:

  • 母親に、軽い認知症の症状がでているが、元来病院嫌いなのと、『認知症の症状が出ているので病院に行こう』と言った場合に傷つけてしまうのではないかという思いで切り出せずにいる。早期に対応した方が良いのは分かっているが、身内となると、教科書通りにはいかないなと思っている。
  • 義母が介護必要だが、義父が自分ができると言って聞く耳を持たない。どのように持っていけばいいかヒントになればと思っています。
  • 高齢の両親と離れて生活しているため心配がたくさんあります。できれば近くに呼びたいのですが本人たちが地元から離れたくないと頑ななため困っています。遠方からの介護についてできることなど教えていただきたいです。

 

介護以外の状況が複雑で混乱している

同居している他の家族の課題や、実家の片付け(空き家問題)、ダブルケアなど、介護単体では解決できない複合的な状況もいくつか挙がっています。

 

コメント例:

  • 離れて暮らす義母が認知症を患っており、義弟と同居しているが、義弟は50代無職、インスリン注射が必要なレベルの糖尿病を患っている。義母の年金で生活しているが、これ以上認知症が進むと施設に入れるべきか?悩む。義弟が仕事が続かず収入面も不安。
  • 父方の実家の片付けについて、不安があります。父の両親は施設に入っており、同市内にある父の実家には誰も住んでいません。…家財道具や生活用品がそのままの父の実家には、物がたんまり残されています。
  • 片道車で30分かけて、父が時間を見つけては片付けに行っていますが、素人で父自身も70代と若くはないため身体が心配です。
  • 私は、別居の父が要支援1ですが認知症が進行しつつあります。また同居の母は要支援も要介護もついていないのですが、3級障碍者です。…父の件で地域包括支援センターに相談に行くのは母が担当していますが、兄が埼玉に住んでいることもあり、母の件で相談する役割は私が担うことになります。

ほかに、自身の将来への不安や、兄弟がおらず一人で遠距離介護を担う不安なども挙げられていました。

 

多くの人の足を止める三つの要因

 

ここまで見てきたコメントをあらためて眺めると、介護前に「そろそろ動かなきゃ」と思いながらも足が止まってしまう背景には、三つの要因が重なっていました。
ひとつひとつの声はばらばらに見えても、

  • 制度や窓口をどう使えばよいか分からない、頼りにくい
  • 親のプライドや拒否感に配慮せざるを得ない
  • 介護以外の問題がからんで状況が複雑になっている

という三つのテーマに集約されます。

こうした背景が重なることで、介護前の不安を抱えたまま「何から始めればいいのか」が見えず、動き出せないまま時間がたってしまうことが少なくありません。制度のわかりにくさや、親の気持ち、介護以外の事情がいくつも重なる環境の中では、誰でも同じように足が止まりやすくなるものです。その結果として、介護が急に始まったように感じてしまうのでしょう。

 

制度や窓口が分かりにくい

相談先が分かれていたり、窓口ごとに対応が違ったりして、最初の相談の入り口が見えにくい状況がありました。仕組みそのものが分かりにくいため、動きにくさが生まれやすい環境になっていました。

 

親の気持ちが話を進めにくくしている

受診や介護の話題を嫌がる、拒否する、プライドが傷つきやすいなど、親の反応そのものが話を切り出しにくくする場面が多くありました。まわりが慎重にならざるを得ず、結果として動きにくい空気ができていました。

 

介護以外の問題が重なっている

きょうだい関係、お金、住まい、別の家族の病気など、介護以外の課題が同時に起きているケースが多く見られました。複数の問題が重なることで全体が見えにくくなり、どこから手をつけていいか分かりにくくなる状況がありました。

 

まとめ

今回の集計から見えてきたのは、介護前に動き出せなくなる背景には、制度の分かりにくさ、親の気持ちへの配慮、そして介護以外の事情が重なっているという構造があることでした。これらがそろうと、誰でも「最初の一歩」が見えにくくなるものです。

当日のセミナーでは、この三つの要因の中の「制度や窓口の頼りにくさ」を扱い、実際に連絡する場面を想定したロールプレイを行いました。

それぞれの方が次の一歩を見つけやすくなるよう、様々なご質問にもお答えしていますので、セミナーアーカイブをあわせてご覧ください。

▼第31回 全国ビジネスケアラー会議【親の介護、どこに相談したらいい?身近な相談先「地域包括支援センター」の”現役職員”に聞く!】

第31回全国ビジネスケアラー会議 セミナー抄録記事(公開準備中)|ライフサポートナビ
公開準備中

 

この記事を書いた人

木場 猛(こば・たける)
㈱チェンジウェーブグループ CCO/介護福祉士・ケアマネジャー/武蔵野大学別科 非常勤講師
東京大学卒業後、介護現場で20年以上・累計2,000件超の家族を支援した「仕事と介護の両立」の専門家。現在は両立支援クラウド「LCAT」や「ライフサポートナビ」の監修、年間400件の相談対応を行う。厚労省の有識者ヒアリング対応をはじめ、東京都・山梨県等の自治体、日本家族看護学会での登壇、パナソニックなど大手100社以上への支援実績を持つ。著書に『仕事は辞めない!働く×介護 両立の教科書』。月間1,000名規模の「全国ビジネスケアラー会議」モデレーターも務める。

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