「介護は撤退戦」自分でかかえず「介護のプロ」とチームを組む重要性

「介護は撤退戦」自分でかかえず「介護のプロ」とチームを組む重要性

本記事は5連続記事の4本目です。前半は基調講演。後半はパネルディスカッションでした。
パネルディスカッションの最初の記事はこちら
介護は「初動の遅れ」が自分を苦しめる。「介護の知識を事前に備えておく」大切さ
本記事では、2人目のビジネスケアラー山中浩之さんの介護経験を紹介します。

知っていたからできたこと、知っていても耐えられなかったこと

1人目のビジネスケアラー松浦さんの介護経験のお話が終わり、山中さんのケース紹介が始まりました。山中さんは、編集者として松浦さんの介護状況を聞いて情報を得つつ、自身もお母様の介護へと突入していきます。

山中:松浦さんの介護連載の単行本化が決定した辺りで、「新潟にいる、うちの母はどうなんだろう」と思ったんです。うちの母も、松浦さんのお母様に認知症の気配が出てきたのと同じ年齢だったので、気になって帰省しました。そうしたら、部屋に通販の箱がいっぱい散らかってたんですよ。使いもしない湿布とか、飲みもしない薬とか、テレビショッピングに乗せられて買ったものがどんどん積み上がってて。まだ決定的な状況ではなかったんですけど、松浦さんの本を一緒に作ったからこそ、「これはヤバい」と感じまして、さっそく新潟の地域包括支援センターを調べて相談に行きました。

佐々木:とはいえ、ストレスレベルは低めです。最初は落ち着いておられたということですかね。

山中:先に本で知っていたことなので、ネタバレしてるホラー映画を観てる感覚というか、「こんなこと本当にあるんだ」って。松浦さんの本にもあることですが、「介護は撤退戦だ。治そうとしてもどんどん状況は悪くなる」「悪くなる状況をコントロールして、本人や家族へのダメージを可能な限り抑えて、天に召されるまでの時間を過ごすのが介護」「うまくやるには早期発見しかない。早く気づけばリスクは減る。気づいたら一人で抱え込まず、地域包括支援センターに相談に行くこと」と必要な心構えをインストールされていたので、とてもスムーズに第一歩を踏み出せたと感じています。

佐々木:2017年8月の辺りで少しストレスレベルが上がりました。

山中:母を病院に連れていくと、診断の場でつまらないウソをつくんですよ。「血圧測ってますか?」「はい、測ってまーす」という具合に。「母さん、血圧計なんて持ってないでしょ」「あれウソなのよ」みたいな、つまらないウソなんです。可愛げがあるっちゃ可愛げがあるんですが、「これも母の衰えの証拠なのでは」と思ってしまうと、猛烈にイラッとくるんですね。松浦さんの本で事前に知っていたことなのに、大きなショックがありました。実際に目の前で親の変化を感じて、「おかしくなってるんじゃないか」という不安を抱えるのって、想像とは負担のレベルが違うんです。

第三者の声を受けてパニック回避

松浦さんに続き、自身も親の変化に気づいた山中さん。彼は、本を作る中で得た情報によって、すぐに診断を受けに行ったり、地域包括支援センターへいち早く相談をしたりと、迅速な第一歩を踏み出すことができました。

山中:診断や相談は早めにやれたのですが、その後の動きは少し停滞していました。というのも、「介護は一人で抱え込むものじゃないので、早く公的支援を入れること」というロジックは理解していたのですが、実感がなかったというか、腑に落ちるところまでいってなかったんです。そんな中、母が特に不調じゃないのに、自分で救急車を呼んで病院に行こうとしたんですね。そこで一気にパニックになりました。「これは放っておくと他人様に迷惑をかけるぐらいおかしくなっているぞ」と。「息子としては、母が誰かに迷惑をかける前に自分のところに引き取るか、もしくは自分が実家に帰るしかない」と、やっちゃいけない方向に考えるようになってしまって。

佐々木:そこで、松浦さんの本を通じて知り合った、「NPOとなりのかいご」の川内さんに連絡を取ったことで、なんとか落ち着いたという。

山中:はい。相談したらすぐ電話が来て、「山中さん、もしかして『親を引き取ろう』とか『新潟に帰ろう』とか考えてませんか?」と。「皆さんそう考えるんですけど、それはどちらもやらないほうが良いです。デメリットのほうが大きいですよ」と、割とはっきり止められたんです。そこでブレーキがかかって、前年から連絡を取っていた包括支援センターに相談して、「あのときの山中さんですね。では、こちらで介入しましょう」と対応が進んでいきました。

佐々木:お母様の要介護認定が出て、ヘルパーさんが入るようになって、ずいぶん負担が減ったそうですね。

山中:ええ。でも、公的支援が入ったことで少し油断するんですね。「このまま行ってくれるんじゃないか」というふうに(笑)。そんな中で、玄関先で母が倒れているのを発見しました。ここで、「やっぱり通いの介護では無理だ」と痛感するんです。しかも、このころから認知症が進んで、母に妄想が出てきたんですよ。「泥棒に遭った」とか「ストーカーがいる」とか、これは「他責」という認知症によって引き起こされている症状なのですが、妄想を抱いたまま、警察に電話をかけたりもするわけです。

施設選びで、プロの情報網と目を借りて成功

お母様の転倒、そして認知症の進行を受けて、「施設介護に移ろう」と決意した山中さん。事前知識があったことで、「抵抗感なく施設に入ってもらうための工夫が必要」と考えて、担当のケアマネさんに相談をするところから始めました。

山中:グループホームというのは、やはりそのエリアにいる人が集まる場所なので、生活圏が違いすぎるところは基本的に選ぶべきじゃないんですね。他にも、「チヤホヤされたい人なのか、一人でゆっくり落ち着いて過ごしたい人なのか」という本人の性格への配慮も必要です。そういった相性の問題は私が調べてもわからない部分なので、徹底的にケアマネさんのお知恵を借りて、良いところを見つけてもらいました。

佐々木:申し込み書の記入も手伝っていただいたんですね。

山中:「入居者がどういう人か」「どういう症状があるか」「トラブルはどんなものがあったか」などを申し込み書に書くのですが、私個人では書き切れないんですよね。客観的に仕事で母を観ている人に書いてもらうことは、ホーム側にとってもメリットがあったのではと思います。ケアマネさんのおかげで、すごく良いところが見つかりました。

山中さんは、施設探しと申し込みの他に、お母様の説得もヘルパーさんやケアマネさんの助力を受けたといいます。

山中:皆さん、すごく頼りになりました。先に松浦さんが苦労した姿を見ていたり、「NPOとなりのかいご」の川内さんという相談者と知り合えたり、私の介護はとにかく運が良かったと思いますね。でも、一番効いたのはやはり「早期に動いたこと」だと感じています。早めに相談したことで、プロの皆さんが段取りを組む時間を捻出することができました。施設選びにおいても、母とそれなりに長期間接することができていたから、性格がわかって相性の良い施設を選べたのだと思います。

レポートは、介護は「適度な距離感」が大切。「自分の親の介護」で悩まない心構えに続きます。

主催:全国ビジネスケアラー会議事務局

この記事の監修者

サポナビ編集部

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