MCI(軽度認知障害)とは?知っておきたい認知症の前段階と進行対策

MCI(軽度認知障害)とは?知っておきたい認知症の前段階と進行対策

MCI(軽度認知障害)とは?

MCI:Mild Cognitive Impairment(軽度認知障害)は、認知症予備軍の状態です。認知症とそうではない人の中間に位置しており、一般的な認知機能には支障がありません。軽度の記憶障害や注意力の低下がみられますが、問題なく日常生活を送れます。そのため、認知症かMCIかを判断するのは難しく、本人も周囲も気づきにくいのですが、早い段階から適切な対策をとれば回復する可能性もあります。

厚生労働省では、MCI(軽度認知障害)を以下のように定義しています。

  • 年齢や教育レベルの影響のみでは説明できない記憶障害が存在する
  • 本人または家族による物忘れの訴えがある
  • 全般的な認知機能は正常範囲である
  • 日常生活動作は自立している
  • 認知症ではない

出典:厚生労働省 e-ヘルスネット 軽度認知障害

 

MCI(軽度認知障害)の症状

認知症の高齢者とトレーニング中の様子

MCI(軽度認知障害)は、記憶障害がある「健忘型MCI」と、注意力や判断力が低下する「非健忘型MCI」に分けられます。症状としては、以下のようなものがあります。

  • 会話で同じ話を繰り返すことが多くなった
  • 前日の食事内容や人の名前、自宅の電話番号など、以前は忘れることがなかったことを忘れている
  • お金の計算やスケジュールの管理が難しくなった
  • 料理の味付けが変わった
  • 以前は楽しんでいた趣味活動が減った
  • テレビや読書を楽しめなくなった
  • 頭がボーッとした感じがしてスッキリしない
  • 疲れやすい、または疲れを訴える
  • やる気が出ない

MCI(軽度認知障害)と認知症の違い

MCI(軽度認知障害)が認知症と大きく違うのは、自立した生活を送ることができるということです。認知症を発症すると、多くの場合で介護など日常生活上の支援が必要になりますが、MCIの方は食事や着替え、トイレ、入浴など基本的な生活動作は、ほとんど問題なく行えます。

物忘れはMCIの主な症状ですが、名前や約束事を忘れたり同じ質問を何度もしたりすることがあっても、MCIの方はその自覚がある場合が多く、加齢による物忘れの可能性もあります。大事なことはメモや注意書きをするなどの工夫をすることで物忘れの対策ができます。

認知症によるもの忘れと加齢によるもの忘れの違い

「認知症によるもの忘れ」とMCI(軽度認知障害)の方に見られる「加齢によるもの忘れ」には、明確な違いがあります。ご家族やご自身がどちらに当てはまるのか、以下の一例を参考にしてみてください。

認知症による物忘れ

加齢による物忘れ
体験したこと 体験したこと自体を忘れる 体験の一部を忘れる
学習能力 新しいことを覚えるのが

難しい

変化は少ない
もの忘れの自覚 ない ある
探し物に対して 誰かが盗んだと思い込む 努力すれば見つけられる
日常生活への支障 ある ない
症状の進行 進行する 極めて徐々に進行する

出典:政府広報オンライン『もし、家族や自分が認知症になったら知っておきたい認知症のキホン』(2021年)

 

MCI(軽度認知障害)の原因

MCI(軽度認知障害)の原因は人によって様々ですが、アルツハイマー病が最も多く、次いで脳血管障害、レビー小体病と続きます。そのほか、うつ病や甲状腺機能低下症などが原因で発症する場合も見られます。

  • アルツハイマー型認知症
    脳にアミロイドβやリン酸化タウというタンパク質がたまって認知症を引き起こすと考えられます。記憶障害が最初に現れることが多いですが、失語や失認、失行の症状もあります。
  • 血管性認知症
    脳血管障害によって神経細胞に栄養や酸素が行き渡らず、認知症を引き起こすことがあります。症状は脳血管障害が起こった場所によって異なりますが、体の麻痺のような症状も珍しくありません。
  • レビー小体型認知症
    脳にαシヌクレインというタンパク質がたまって認知症を引き起こすと考えられます。記憶障害以外にも、幻視やパーキンソン症状、睡眠中の叫びなどの症状があります。
  • 前頭側頭型認知症
    脳の前頭葉と側頭葉が病気の中心として進行します。行動障害型と言語障害型に分類され、行動障害型では同じ行動パターンを繰り返すなどの行動の変化があり、言語障害型では言葉の障害が目立ちます。出典:政府広報オンライン『もし、家族や自分が認知症になったら知っておきたい認知症のキホン』(2021年)

 

MCI(軽度認知障害)の検査方法

MCI(軽度認知障害)の診断は、医師による問診や認知機能検査、脳画像検査などの総合的な判断に基づいて行われます。他にも、場合により尿検査、血液検査、脳画像検査、脳脊髄液検査などが行われることもあります。
以下で、MCI(軽度認知障害)の診断時に行われる主な検査内容をご紹介しておきます。

MCIスクリーニング検査

MCIスクリーニング検査は、血液中のタンパク質を調べることによって行われる簡単な検査です。検査は30分ほどで終了し、検査結果は2〜3週間で得られます。

この検査を受けることで、生活習慣を見直し、認知症の予防ができます。ただし、この検査は健康保険が適用外で、費用は病院によって異なりますが、3万円前後が目安となります。

ApoE遺伝子検査

ApoE遺伝子検査は、アルツハイマー病の原因であるアミロイドβの蓄積を司るApoE遺伝子の型を調べる検査です。少量の採血を行い、数週間後に結果を受け取ることができます。

ApoE遺伝子には3つの型があり、この検査によって持っている遺伝子の型が3つのうちのどれなのか判定します。

脳画像検査

MCI(軽度認知障害)の場合、うつ病や脳血管疾患、甲状腺機能低下症などが原因で発症することがあるため、これらの病気の可能性を有無を調べるために、脳画像検査や血液検査が行われます。

主に、脳血管障害の有無を調べるためのMRI(核磁気共鳴画像法)やCT(コンピュータ断層撮影)、脳の血流や糖代謝を調べるための脳血流SPECT検査や糖代謝PET検査などの検査があります。

 

MCI(軽度認知障害)の治療と進行対策

MCI(軽度認知障害)と診断されたからといって、必ずしも認知症になるわけではありません。適切な対策や治療を行うことで認知症の発症を予防・遅延できたり、場合によっては健康な状態へ回復させることができます。

まずは早期発見、そして早い段階で医師の診断を受けることが治療の鍵となります。

現在、MCI(軽度認知障害)の治療や進行対策には、薬物治療と非薬物治療の両方が行われています。日常生活に脳の活性化を取り入れたり、食生活の改善など、在宅で楽しみながらできる非薬物治療も積極的に取り入れてみましょう。

薬を用いた治療

軽度認知症の治療には、主にコリンエステラーゼ阻害薬であるアリセプトが使用されます。アリセプトは、主に記憶障害の中核症状に作用し、認知機能の改善を目的として使用されます。この薬はアセチルコリンにも働きかけ、認知機能を保つために必要な神経伝達物質の減少を防止することができます。しかし、副作用が出ることがあるため、使用する際には注意が必要です。

食事改善

脳の健康を保つためには、栄養バランスのよい食事をすることが大切です。糖質を摂り過ぎないように注意し、魚(特に青魚)でタンパク質、野菜や果物でビタミンを多く取り入れましょう。ワインやココアに含まれるポリフェノールも有効と言われています。塩分の摂り過ぎは高血圧のもととなるので、なるべく控えましょう。

また、口腔機能をよくすることもMCI(軽度認知障害)や認知症の予防や改善に効果があります。よく噛んで食事をすること、日々の歯磨きを心がけましょう。

運動

身体を動かすことは、生活習慣病の予防だけでなく脳血流の改善につながり、脳の活性化が期待できます。運動のなかでもMCI(軽度認知障害)の改善に効果があると言われているのは、有酸素運動です。ウォーキングやランニング、水泳、ヨガなど自分に合った運動を取り入れて、運動習慣を身につけるようにしましょう。散歩を日課にするのもおすすめです。

脳トレ・コミュニケーション

脳に刺激を与えることは、認知機能の低下予防や改善に有効です。毎日続けることが大切なので、遊びながら脳の記憶力や集中力を鍛えることができる脳トレやパズル・ゲーム、手を動かす趣味などを、無理なく生活に取り入れて楽しむのがよいでしょう。

また、人とのコミュニケーションも脳によい刺激を与えてくれます。趣味を生かした交流会や地域の活動などに参加してみるのも良いでしょう。

 

まとめ

  • MCI(軽度認知障害)は、認知症と健康な状態の中間の状態
  • 物忘れなどの症状はあるが、日常生活への影響はなく自立している
  • 原因はさまざまあるが、アルツハイマー病が最も多いと考えられている
  • 早期発見と適切な対処で、症状の予防・遅延、健康な状態に改善する可能性もある

認知症は、健康的な食事や運動などの適切な対策を行うことで発症を遅らせる可能性があります。

早くから対策を行うほど効果が高いとされ、認知症の発症を予防するためにはMCI(軽度認知障害)の早期発見がとても重要です。

少しでも疑わしいと思ったらすぐに医師に相談して、必要な治療や日常生活でできる対策をしましょう。

 

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この記事の監修者

回答者アイコン金山峰之(かなやま・たかゆき) 介護福祉士、社会福祉士、准看護師。福祉系大学卒業後、20年近く在宅高齢者介護に従事。現場専門職の傍、介護関連の講師業(地域住民、自治体、国家公務員、専門職向け等)や学会のシンポジスト、介護企業向けコンサルティング事業、メーカー(ICT、食品、日用品等)へシニア市場の講演などを行っている。 厚生労働省関連調査研究事業委員、東京都介護人材確保関連事業等委員など経験。 元東京都介護福祉士会副会長。政策学修士。

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