「あなたは親の介護がどうやって始まるかを想定できていますか?」
この問いに答えられる方はそう多くはないでしょう。しかし、実は親の介護の始まり方にはいくつかのパターンがあります。そのパターンを知ることで、親に見られるなんらかの兆候に気づく機会、早めの対処ができるチャンスが生まれるはずです。
今回の記事をご覧頂くことで、親の介護がどのように始まるのか大まかなイメージを掴むことができます。そして、パターンごとに特徴的なサインを見逃さないことで、いつか始まるかもしれない介護生活に備えることができるはずです。
「あの時なんとなく気づいていたのに・・・」とならないためにも、是非最後までご覧ください。
まず初めにこちらの円グラフをご覧ください。こちらは要介護状態になった原因の割合を表したものになります。
介護保険制度では、保険の適用となる要介護度の認定が必要になります。要介護度は要支援1、2、そして要介護1〜5の7段階であり、要介護5が必要な介護状態が一番多いという認定です。また、要支援は介護が本格的に必要になる一歩手前の「予防的支援が必要」という段階です。
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では改めて介護が必要になった原因を見てみましょう。そうすると「認知症(18%)」「脳血管疾患(脳卒中)(16%)」で1位と2位が占められ、3位に「高齢による衰弱(13%)」と「骨折・転倒(13%)」が入っています。つまりトップ3で要介護状態になる原因の半数以上を占めているということがわかります。
ちなみに、要支援になる原因の1位は「関節疾患」とされています。膝や腰などの関節の痛みによって活動性が低下します。また、痛みがあるため家事や外出などが億劫になり、食事も手抜きになってしまい栄養不足になる可能性があります。こうしたことが「骨折・転倒」「高齢による衰弱」といった介護になる原因につながっていくという見立てもできます。つまり、ここまで見てきたものはどれも要介護状態につながる関連のある原因といえるのです。
【覚えておきたいPOINT】
●要介護状態になる原因 1位・2位:「認知症」「脳血管疾患(脳卒中)」 3位:「骨折・転倒」「高齢による衰弱」 →要介護状態になる大部分の原因にあたる ●要支援になる原因 1位:「関節疾患」 →膝や腰の痛みを発症し、活動性が低下することで「骨折・転倒」に至る →また、痛みがあるため家事や外出などが億劫になり、食事も手抜きになってしまい栄養不足になる。 |
さて、では要介護状態につながるこうした原因は実際にどのような形で親に現れるのでしょうか。多くの家族介護者が語る言葉を伺ってきた経験から、次のようなパターンに集約してみました。
仕事や普段と変わりない日常生活を送っている時、突然「◯◯さんでしょうか。私△△病院の▽と申します。実は◯◯さんのお母様の□□さんが当院へ救急搬送されたのでお越しいただけませんか」という電話がかかってくるパターンです。
この電話の多くは親が転倒し、動けなくなったところ救急車で運ばれて骨折していたという場合。または、急に呂律が回らなくなったり、意識を失って倒れるなど、脳梗塞や脳出血に代表される脳血管疾患を発症して搬送される場合が多いです。それまで比較的元気で、自立した生活を送っていた親が急に、ということで本人はもちろん家族みんな驚くことが多く重症度によって一気に介護生活に突入してしまうこともあります。
①と同じくある日突然電話がかかってくるパターンですが、その相手は病院ではなく警察です。「実は道に迷っていたお母様を保護しています」というもの。中には「会計をせずにスーパーの商品を持ち出てしまったので、お店の通報を受けて警察署まで同行いただいています」というパターンもあります。これはご想像の通り、認知症状態による症状の影響で日常生活・社会生活に支障をきたしてしまい、警察のお世話になってしまったというパターンです。
突然のことではあるのですが、骨折や脳血管疾患と比べると親にそこまで目にみえる大きなダメージが起きているわけではないので、できることとできなくなっていることが緩やかに混在しており、一歩踏み込んだ対応をしづらいパターンともいえます。親も「私は大丈夫」とおっしゃることも少なくないため、特に手を打たず(打てず)にそのままにしてしまい、より深刻な状況になってからようやく動き出すということも珍しくありません。
3つ目のパターンは、お盆や正月など、久しぶりの帰省をした際に実家の親の様子や家の中の状態に対して「あれ?」と思うパターンです。例えば、「さっきも話したじゃない」と感じるくらい同じ話題を話したり聞いたりする。好きだった趣味や習慣をしなくなってしまった。冷蔵庫の中に傷んだものがある。綺麗好きだったのに部屋が散らかっている。やたらと「疲れた」「年だから」と衰えを口にする。などです。
これらは認知症の初期症状であったり、うつ病などの精神疾患、食生活の関心低下による栄養不足、膝や腰の痛みによる活動性の低下など様々です。①②に比べて切迫感が無いため、家族が気づいていてもそれ以上踏み込まず、気にはなるけれど何もしないということも少なくありません。そして①②のような大事になって初めて顕在化するということが多いです。家族介護者は「そういえばあの時から何かおかしいと思っていたんですよ」と兆候に気づいていたことを口にすることが多いです。
このように要介護状態に至るパターンを見てきましたが、実はこれらに気づける機会、兆候は多くあります。
①のパターンでは、転倒、骨折、脳血管疾患につながるような兆候ですので、健康診断などの検査結果、親が服用している薬の種類、日頃の運動量や活動性などがポイントになってきます。親と健康診断の検査結果を共有したり、「どんな薬を飲んでるの?」と興味を示してみたりすることが大切です。なかなか検査結果を開示してくれない親に対しては「私が受けた健康診断結果はこうだったんだけど、お母さんはどうなの?」というように、自分も健康に関する相談を親にするという会話のきっかけを作ったというご家族もいました。
また、日頃の運動量や活動性を知るには、フレイルチェックというものが有効です。体重や運動習慣、疲れや歩行速度などセルフチェックできるような指標です。本格的な検査をしなくても、こうした簡便なツールを介しながら親子でお互いの健康を共有することもおすすめです。
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②のパターン、つまり認知症の兆候はすでに③でいくつか触れた通りです。認知症の初期症状の多くは家族や近い関係にある方、馴染みの商店の店員などの「あれ?」という気付きの中にあることが多いです。普段と“何か”違う、今までと“何か”違うという直感です。また、別居しているときは、帰省した際ご近所さんに「最近うちの親どうですか」と菓子折りを持ってご挨拶に行ったというご家族もいました。
「あれ?」という気付きがあった場合、一度話し合って「もの忘れ外来」などを受診してみることが有効です。しかし、ご本人の自尊心に関わるセンシティブなことですので、受診が難しいようでしたら、親の住まいを管轄する地域包括支援センター(認知症を含む高齢者の生活の困りごとに関する総合的相談機関)に相談してみることから始めてみると良いかもしれません。
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③のパターンの兆候も少し触れましたが、栄養状態、水分不足による脱水など食生活に関わる異変は重要なポイントの一つです。飲食の適正な量とバランス、食生活を営むための買い物や調理などの家事能力、それを実行するための気力・体力などは全てつながっています。また、最近では入れ歯や歯磨きなど、口腔内の健康も注目されています。先の健康診断結果や活動性のチェックなどと合わせて色々と気にしてみることがまずは大切です。
【覚えておきたいPOINT】
●要介護状態につながる兆候と対応 ・健康診断などの検査結果、親が服用している薬の種類、日頃の運動量や活動性などを把握しておくことが大切 ・フレイルチェックなども活用し、親子でお互いの健康状態を共有することもおすすめ ・認知症の初期症状の多くは家族や近い関係にある方、馴染みの商店の店員などの「あれ?」という気付きの中にあることが多いため、 ‐栄養状態、水分不足による脱水など、食生活に関わる異変 ‐買い物や調理などの家事能力、それを実行するための気力、体力などの異変 など、いろいろ気にしてみることが大切 ・「あれ?」という気付きがあった場合、一度話し合って「もの忘れ外来」などを受診してみることが有効だが、受診が難しそうな場合は、親の住まいを管轄する地域包括支援センターに一度相談しにいくことがおすすめ |
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介護が必要になる原因には、大きく「認知症」「脳血管疾患(脳卒中)」「骨折・転倒」「高齢による衰弱」「関節疾患」などとなっています。
こうした状態に至るパターンとして、ある日突然病院や警察から連絡があり介護の必要性が顕在化する場合と、認知症の初期症状やなんとなく元気がない、いつもと違う、といった「あれ?」という気づきと共に、徐々に介護が必要な状態が始まっている場合があります。
それぞれ、親の異変や兆候、介護状態の原因に至る前のセルフチェックや話し合いなどが大事になってきます。多くの家族介護者が「あの時もっと何かしていたら」という経験を重ねています。その時がやってくる前に、ちょっとずつでも良いので今できることをやってみてはいかがでしょうか。
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金山峰之(かなやま・たかゆき) 介護福祉士、社会福祉士、准看護師。福祉系大学卒業後、20年近く在宅高齢者介護に従事。現場専門職の傍、介護関連の講師業(地域住民、自治体、国家公務員、専門職向け等)や学会のシンポジスト、介護企業向けコンサルティング事業、メーカー(ICT、食品、日用品等)へシニア市場の講演などを行っている。
厚生労働省関連調査研究事業委員、東京都介護人材確保関連事業等委員など経験。
元東京都介護福祉士会副会長。政策学修士。