#仕事と介護の両立

介護家族(ビジネスケアラー)が知っておきたい、ケアマネが置かれている状況のリアル

#仕事と介護の両立

すでに介護生活を経験されている周りの方から「母のケアマネさんは本当にいい人にあたったわ」「父のケアマネさんは全然ダメな人で困ってますよ」というような話を聞いたことはありませんか。介護生活を伴走してくれる総合相談窓口であるケアマネ(=ケアマネジャー=介護支援専門員)は、親の介護生活を乗り切る上で最も重要な専門職の一人です。

しかし、上記のような話題が出てくることからもわかるように、ケアマネにも力量差や相性が実際にはあるようです。それはどうしてなのか?ケアマネはどんな状況に置かれているのか皆さんはご存知ですか。

この記事ではケアマネが置かれているリアルな事情についてご紹介します。記事を最後まで読んでいただくことで、ケアマネを理解する一助になり、少しでも良い関係を築けるようになるかもしれません。

※ケアマネは大きく在宅支援と施設支援に携わっていますが、本記事では「在宅支援のケアマネ」についての内容です。

ケアマネが生まれた経緯は?

ではまず、ケアマネとはどんな職種なのかを考えてみましょう。ケアマネの基本的な情報については※コチラ(関連記事「ケアマネージャーとは?費用やサービス内容を簡単解説」)をご覧ください。

ケアマネは介護保険制度がスタートする2000年に新設された資格になります。そして、この2000年を境として介護サービスの制度には別々の呼称があります。

2000年以前の介護サービスは必要な介護サービスを自治体が決める『措置制度』でした。措置制度はほぼ公費で賄われています。対して、2000年以降の介護保険制度は本人と介護事業者が契約を結んでサービスを利用するため『契約制度』と呼ばれています。

措置制度では自治体の担当者である公務員が訪問介護やデイサービスなどの調整をしたり、介護サービスの回数、利用すべき介護事業者を決めていました。しかし、契約制度では利用者がサービスを自由に選べる準市場サービスとなりました。それまで一部の公共的団体が提供していた介護事業には民間企業も参入できるようになり、質の競争が起きるようになりました。つまり、利用者は自分に合った好きなサービス事業者をある程度市場から自由に選ぶことができるようになったのです。

措置制度は制約がありましたがお役所に決めてもらえていたので、ある意味お任せコースという捉え方もできます。しかし、契約制度になり選択の自由は増えましたが、知識も情報も乏しい利用者や家族(ビジネスケアラー)は逆に困ってしまう事態になるわけです。そこで自治体の窓口の機能を代替するプロとして登場したのがケアマネというわけです。

ケアマネは医療・介護・福祉の有資格者が一定の経験を経て受験できる資格です。ヘルスケア領域全般で活躍する専門職が、利用者の心身の状態・ニーズに応じて適切な介護・医療サービスを紹介し、必要な相談・調整、煩雑な介護保険の利用周りの手続きなどを総合的に担ってくれる、いわば要介護者本人のためのコンシェルジュのようなイメージです。

 

ケアマネになるには基礎となる資格が必要

さて、ケアマネは医療・介護・福祉などの有資格者が受験できると述べました。その“資格”、つまりケアマネになる前にどんな専門資格を持っているかという点を見てみましょう。

こちらの図がケアマネの保有資格です。複数回答ではありますが、介護福祉士が圧倒的に多いことがわかります。そして、2番目に多い看護師は次第に減っていることがわかります。なぜこのような現象が起きているかについては、ケアマネが介護福祉士のキャリアアップ的位置付けの制度設計になっていたことが要因の一つと考えられます。

引用:介護給付費分科会-介護報酬改定検証・研究委員会(H28.3.16)
「居宅介護支援事業所及び 介護支援専門員の業務等の実態に 関する調査研究事業 (結果概要)」

また、ケアマネの中には医師免許を持っている人が少数いることがわかりますが、おそらく医師ケアマネはケアマネ実務に就いておらず医師の仕事をしている人がほとんどでしょう。私の肌感覚にはなりますが、現在のケアマネ実務についている人の多くが「介護福祉士ケアマネ」で、たまに「看護師ケアマネ」に出会うイメージです。

断っておきますが、看護師ケアマネが優れていて介護福祉士ケアマネが劣るということは決してありません。大事なことは、ケアマネは医療・介護・福祉など要介護者の多様な生活領域に関わる総合相談窓口である反面、その保有資格に偏りがあるということです。そして当然ながら、ケアマネになる前に働いていた現場・資格によって得て不得手が生じる可能性があるということです。

 

ケアマネは仕事に自信を持てていない?

ここからはケアマネが抱える悩みについて見ていきたいと思います。まずは勤務上の悩みです。

「色々と多忙なお仕事なんだな」という印象の回答が並んでいますが、一番多い悩みはなんと「自分の能力や資質に不安がある」というものです。プロの専門職が自分の力量に悩んでいるとは謙虚ですね。いや、頼む方としては不安になりますよね。

引用:介護給付費分科会-介護報酬改定検証・研究委員会(H28.3.16)
「居宅介護支援事業所及び 介護支援専門員の業務等の実態に 関する調査研究事業 (結果概要)」

 

ケアマネが自信を持てていない背景には大きく二つあると思います。

背景その1 体系的な養成機会が乏しい

一つは「体系的な養成機会が乏しい」というものです。ケアマネは介護福祉士や看護師などの資格で実務経験を経たのち受験できる資格と述べましたが、試験合格後は一定期間の研修を受けるだけで実務に就けるのです。つまり学校などにはいかないのです。研修を受けたといっても、それまでの介護福祉士や看護師の仕事とは全く違う相談援助の仕事に就くわけですから、きちんとした養成教育が乏しいまま現場に立つのです。

これも介護保険制度開始に伴い、行政窓口機能を担う役割としてケアマネを量産化しなければならなかったという事情が関係していると思います。みっちり数年間学校へ行ってもらう余裕は当時なかったというわけです。

背景その2 育成環境の乏しい

二つ目は「育成環境の乏しさ」です。ケアマネ育成を担うのが学校ではないとしたら、基本的には就職した会社で実務に就きながら育てられるしかありません。しかし、悩みを見るとわかるように、多忙な中で仕事をするケアマネはなかなか育成機会も取れず、個人で自己研鑽していくしかないともいえます。余裕のある組織でなければ充実した育成環境を整えることは難しいでしょう。こうしたことが力量差や、自信を持てないという気持ちに表れているのかもしれません。

 

ケアマネは本来の仕事がやりづらくなっている?

さて、今度はケアマネが抱える業務遂行上の悩みについて見ていきましょう。本記事では回答の上から5番目「利用者本位のサービスがつらぬけない」に注目してみたいと思います。

引用:介護給付費分科会-介護報酬改定検証・研究委員会(H28.3.16)
「居宅介護支援事業所及び 介護支援専門員の業務等の実態に 関する調査研究事業 (結果概要)」

私たちケアマネは要介護者(利用者)本人を主体とした、本人中心の支援をすべきと教育されています。また、介護保険制度もそれを大きな理念に掲げています。しかし「利用者本位のサービスがつらぬけない」という悩みは、この理念を実現する上で、現実には障壁があることを意味しています。その大きな障壁は二つです。

背景その1 本人と家族ニーズの違い

一つは『本人と家族ニーズの違い』です。例えば本人は「家で自由に生活したい」と希望していても、働く家族(ビジネスケアラー)は「日中一人では心配だから毎日デイサービスへ行かせてください」というケースがわかりやすいでしょう。本人中心でありたいけれど、利害関係者である家族とニーズが違う。この調整に苦労し葛藤が生じるというものです。

特にこの点については、現在、仕事と介護の両立が叫ばれ介護家族(ビジネスケアラー)を大事にしようということが注目されています。これ自体はとても良いことですが、社会が介護家族重視に向けば向くほど、制度と社会的風潮の間でケアマネの葛藤が増大する可能性があるということも知っておいて頂けたらと思います。

背景その2 所属する会社組織からのノルマ

そして二つ目の障壁は『所属する会社組織からのノルマ』です。ケアマネは専門職ですが会社員です(※独立型、個人のケアマネもいます)。そのため組織から目標となるノルマを課せられられることは当然あります。介護保険制度は利用者の自由な選択に基づくものだと冒頭述べましたが、会社から自社の訪問介護やデイサービスの利用を勧めるよう求められることは珍しくありません。他社のサービスが適していると考えても、それができないこともある。専門職としての倫理と組織人としての葛藤に苛まれるのです。

法律の中で過度な囲い込みにならないよう上限規制のような仕組みはありますが、その上限ギリギリまで会社側に求められている場合があります。もちろん、同一法人内でワンストップにサービスを利用することのメリットは多分にあります。

私たちもスマホとタブレット、パソコン、スマートウォッチなどを全て別々のメーカーにするより、同一ブランドにした方が互換性が良いことを知ってますよね。介護サービスでも似たようなイメージのメリットはあるのです。とはいえ、それがケアマネの悩みの一つでもあるということをここでは知っておいてください。

 

まとめ

【覚えておきたいポイント】

  1. ケアマネは契約制度を機にできた、要介護者本人のコンシェルジュ的専門職である。
  2. 保有資格は介護福祉士が大半。基礎資格によって得手不得手がある
  3. ケアマネの育成環境は、必ずしも充実しているとはいえない可能性がある。
  4. ケアマネの悩みは多岐にわたる
    その中で1を貫けない、家族(ビジネスケアラー)、組織の存在がある。

いかがでしたか。ケアマネの生い立ち、保有資格による得手不得手、ケアマネの悩みについて見てきましたが、読む前と比べるとケアマネのリアルな状況について少しはご理解いただけたのではないでしょうか。これから出会うケアマネさんと良好な関係を築くためにも、この記事でまずは相手の置かれている状況を知って頂けたらと思います。

関連記事:良いケアマネージャーの選び方・チェックポイントとは?

 

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この記事を書いた人
 介護プロ
金山峰之(かなやま・たかゆき)

介護福祉士、社会福祉士、准看護師。福祉系大学卒業後、20年近く在宅高齢者介護に従事。現場専門職の傍、介護関連の講師業(地域住民、自治体、国家公務員、専門職向け等)や学会のシンポジスト、介護企業向けコンサルティング事業、メーカー(ICT、食品、日用品等)へシニア市場の講演などを行っている。
厚生労働省関連調査研究事業委員、東京都介護人材確保関連事業等委員など経験。
元東京都介護福祉士会副会長。政策学修士。

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