【介護予防】”家の老朽化”が介護リスクを上げる

【介護予防】”家の老朽化”が介護リスクを上げる

日本において、住宅が建築されてから取り壊されるまでの期間(平均築後経過年数)は、約30年です。背景には様々な理由がありますが、文化的に木造建築が多く、高温多湿な環境で、地震や台風といった災害に日常的にさらされていることも、そうした背景の1つとされています。

老朽化した家に暮らしていることは、質素倹約ということにはならないのも難しいところです。例えば、配管が腐ってしまっていたら、水回りの修繕にはそれなりのコストがかかります。断熱効率が悪ければ、光熱費がかさむでしょう。一つの家に長く住むということは、建材や建築の技術的な進歩を享受できないという問題もあるのです。

技術的な進歩によって回避できる可能性が高められる3大リスクとは、自宅内での転倒リスク、浴室におけるヒートショックのリスク、そして震災による倒壊リスクです。

まず、高齢者が長期的に暮らすことを前提とせずに設計・建築された家は、階段や段差が多く、手すりがないなど、高齢者の転倒リスクが高くなってしまう傾向があります。事実、高齢者の転倒事故における約半数が住宅内であったことが報告されており、そのうちの7割以上が入院や通院を余儀なくされています(消費者庁/平成26年〜令和2年/人口動態調査)。意外と知られていませんが、高齢者の転倒・転落による死亡者数は、交通事故の約4倍にもなります。

次に、断熱効率の悪さが原因の一つとも言えるヒートショックからの健康被害は、昨今、大きな問題となっています。平成28年の、家庭の浴室における死亡者のうち、高齢者が占める割合は、全体の約9割にもなります(消費者庁/令和2年プレスリリース)。こうした死亡事故の多くが12月〜2月の冬場に起こっており、寒い脱衣室と熱いお風呂の温度差によるヒートショックが背景にあると考えられています。

そして、老朽化した家は、震災による倒壊リスクをはらんでいます。日本木造住宅耐震補強事業者協同組合による調査(2021年3月発表)では、1950年〜2000年5月までに着工された木造一戸建て2万7千棟のうち、なんと91.5%が現行の耐震基準を満たしておらず、震災で倒壊する可能性がある、その可能性が高いと診断されています。

高齢者の住宅問題解決のための「選択肢」と「メリット」
進める上での注意点とは

住宅問題解決のための選択肢とは

リフォーム とは

「建物の基礎は修繕せず、基礎以外を修繕・改善する」ことを指します。老朽化した建物を適した性能(耐震・断熱)にする、生活しやすい間取りに改善する、手すりの設置などもリフォームの1つです。

建て替え とは

「建築済みの建物を基礎から取り壊し、新たに建物を建築する」ことを指します。目的はリフォーム同様、老朽化した建物を適した性能(耐震・断熱)にする、生活しやすい間取りに改善する、などですが、リフォームとは、修繕規模が異なります。

転居/住み替え

「別の建物へ引越しをする」ことを指します。施設への入居なども転居/住み替えを1つです。

メリットとデメリット、進める上での注意点とは

リフォーム

メリット デメリット
  • 住み慣れた”家”を維持できる。
  • 必要な箇所だけ工事ができる。
  • 工事内容によるが、住みながら工事することもできる。
  • 少額から始められる。
  • 介護保険の住宅改修費が利用できる。
  • 手すり設置などにより、スペースが狭くなる可能性がある。
  • 工事後に、追加工事が必要になることがある。
  • 柱、壁面などの躯体・構造部分などは改善しにくい。
  • 新築の状態にはならない。

不具合がある箇所を部分的に修繕することができ、少額から実施をすることができることが、リフォームの特徴です。一方で、修繕する箇所がリフォームに適さない場合や、修繕する箇所が多いときには、建て替えの方が適するケースもあります。

リフォーム費用の相場

国土交通省が発行している「令和2年度住宅市場動向調査報告書」によると、リフォーム資金の平均額は181万円です。

平成4年の省エネ基準で建築された木造の戸建て住宅(延床面積120.08平米程度)を平成28年の省エネ基準に適合させる工事をした場合、231万円程度となります。

水回り周辺を一式取り換える際は、300万円程度。 耐震、断熱、間取り変更など、フルリノベーションをすると1,000万円以上となります。

リフォーム方法

1.自分でリフォームを行う(DIY工事)

ホームセンターやネット通販などで資材を購入し、自身で設置・対策を行います。

DIY工事の際の注意点
設置を行う住宅、設置箇所の”下地”を調べてから行いましょう。
下地のない箇所に手すりなどを設置すると、使用中に外れるなど、思わぬ事故につながります。

2.業者に依頼する

リフォームの規模やこだわり、受けたいサービスによって選ぶ業者が変わってきます。小規模であればホームセンターや屋根・塗装などの専門業者に頼むほうがリーズナブルな場合があります。大規模なリフォームであれば、設計事務所や工務店、新築同様に対応するハウスメーカーなどがあります。

業者によって得意分野が違います。設備メーカー系列のリフォーム会社はトイレや浴室交換などの設備工事の経験が豊富。地域密着の会社だと、土地の事情や周辺環境に詳しく地の利を活かした提案が期待できますし、継続したメンテナンスなども依頼しやすいです。デザイン、機能、性能を求める場合は設計事務所やハウスメーカーなどが得意です。ローンのサポートや補償などのサービスなどにも差があるため注意が必要です。

業者に依頼する際のステップ
  1. 「どこの、何を、どう対策したいのか」を明確にする。
  2. コスト・予算の最大金額を決める。
  3. 「リフォーム完成」をイメージし、優先順位をつける。
  4. 資金調達をどのようにするか考える。
業者に依頼する際の注意点
  • 訪問営業への回答には時間をおく
戸建て住宅には、リフォーム会社の営業マンが飛び込みで訪問営業に訪れるケースは少なくありません。高齢者だけでお住まいの場合、劣化箇所などを指摘し強引に営業してくる業者も残念ながらいます。まずは、家族と相談して契約することを徹底してもらいましょう。
  • 希望箇所以外の追加工事有無を必ず確認する
  • 施工上のつながりのある箇所が見積もりに反映されておらず、施工後に追加請求が発生する場合があります。事前の詳細確認が必要です。
  • 必要書面を全部揃え、内容を確認してから契約する
口頭ではなく、図面、見積書、契約書、約款までセットで契約書を交わす必要があります。

建て替え

メリット デメリット
  • 住み慣れ”場所”に住み続けられる。
  • 最新の耐震性や断熱性を求めることができる。
  • バリアフリーや介護に必要な設備が計画的にできる。
  • 長期優良住宅の場合、税優遇が受けられる。
  • 短期間の仮住まいを探す困難さがある。
  • リフォームに比べて工期が長い。
  • 新しい規制が適用されるため、建て替え前と同規模にできないことがある。
  • 解体費用と建て替え費用が必要になる。
  • 引越しが2回必要になる。

設備を一新するため、気になる点を幅広く改善することが可能です。一方で、費用が高額になることが多く、建て替え期間中の住宅費なども加味し、資金を前もって準備する必要があります

 建て替え費用の相場

国土交通省が発行している「令和2年度住宅市場動向調査報告書」によると、建て替え資金の平均額は3,055万円です。

新築木造戸建ては坪単価50万円〜、鉄骨造・RC造は坪単価70万円〜、新築の場合本体価格に加え、設計費用、付帯工事(給排水、造成、外構など)の費用、建て替えは解体費用も別途かかるため、総額で考えることが重要です。

 建て替え方法

住宅を建てるときには、次の3つの方法が一般的です。

  1. ハウスメーカーで立てる。
  2. 大工さんがいるような工務店で建てる。
  3. 建築家・設計事務所に設計を依頼し、工務店で建てる。

ハウスメーカーは規格化された住宅を販売するので、仕様を決めるのが面倒な方やコストを抑えてある程度の性能を求める方、高性能な住宅を求める方、保証やアフターサポートにもこだわりたい方には適しています。

しかし規格化されているため、個性的な家は難しいです。独自のこだわりを反映した家を求める場合は設計事務所や工務店に依頼する方が適しています。ただ価格や管理、保証などのサポートには確認が必要です。資金計画や仮住まいなどの総合的なサポート力なども各社違うため注意が必要です。

業者に依頼する際のステップ
  1. 「どこの、何を、どう対策したいのか」を明確にする。資金計画・将来性を考える。
    (誰がお金を出すのか、将来誰に引き継ぐのか。)
  2. 建築会社を探す。(資料請求、住宅展示会などでの情報収集)
  3. 具体的に建築プランや土地についての調査依頼をする。
  4. 仮住まいの目処をつける。
業者に依頼する際の注意点
  • 「現在の住まいの解体」と「新しい住まいの新築」のことを同時に考える必要がある。
  • 住宅ローンを組む場合、(60歳以上でも利用できる住宅ローンはあるが)誰の名義で借りて返済の責務は誰が負うのかを話し合う必要がある。
  • 将来のことを考えたプランや性能、建築費と相続後のことを決めておく必要がある。

転居/住み替え

メリット デメリット
  • 抱えている課題を”すぐに”解決できる。
  • いつまで住み続けれらるかの不安がなくなる。
  • 現在の住宅を売却するタイミングと、次の住まいへ入居できるタイミングが合わないことがある。
  • 住み慣れた家を離れる不安が強いと、心身に影響が出る場合がある。
  • 荷物の整理が必要となり、当人の体力も去ることがながら周りのサポートも必要になる。
  • 新しい環境へ適応することに時間を要することがある。

サービス付き高齢者向け住宅や、シニア向け賃貸住宅、有料老人ホームなどへの引越しである場合、入居する住戸によっては、将来的に必要となる生活・介護サポートが含まれていることがあります。

転居/住み替えをする際の注意点
  • リロケーションダメージ
「住み慣れた場所から馴染みのない場所に転居するなど、環境が変化することでストレスがかかり心身に異常が出ること」を指します。年齢に関わらず、起こり得ますが、高齢者では特に症状が出やすいです。

◇ リロケーションダメージを発生させない、もしくは軽減するために確認が必要なこと
  1. 転居されるご本人が孤立しないか。ご本人の交友関係は途切れないか。
  2. ご本人のかかりつけ医に継続して通院ができるか。
    (できない場合、紹介状を出してもらえるか。)
  3. 転居理由が、介護等の生活サポートの場合、デイサービス等の通所サービスや生活支援サービス、介護サービスを活用し、引っ越さずにそのまま暮らす方法をまず検討する。

減築リフォームや資金に関する問題

近年注目を集めている”第三の選択肢”や資金に関する問題についてご紹介します。

第三の選択肢として「減築リフォーム」

普段、生活するには部屋が余って、広すぎる場合や、住宅を全面リフォームするにはコストがかかりすぎる場合、面積を減らしてリフォームを行う方法も近年増えています。

予め知っておきたい「介護保険で支払う住宅改修費」と「誰が資金を出すか」の問題

  • 介護保険で支払いをする場合の住宅改修費

介護保険の住宅改修費を受け取る場合、介護認定が必要になります。 申請時期によって工事費支払い後に戻ってくる(償還払い)ケースもあるため、 全額支払いが一時的に必要な場合があります。

  • 誰が資金を出すのか

不動産名義人以外の親族が資金を出すと贈与にあたり、贈与税が発生するため、建物の持分を按分するなどの手続きが必要になります。相続時に相続人同士で揉めることのないように、持分を按分する場合には、あらかじめ関係者の同意を得ておくことが必要です。

まとめ

子供の立場から、老朽化した親の家に関するリスクを検討したとしても、親の暮らしに関する最終的な意思決定は、親がするものです。いずれの選択肢を検討するにしても、ご本人の意思は非常に重要です。ご本人の納得していない転居やリフォームは暮らしにくさが増すことに繋がります。

同時に、高齢者になると、どうしても最新の建築技術などに関する理解は遅れがちになります。また、こうした住宅不安につけ込んだ、不当な不動産取引に、親が巻き込まれてしまうことも防止したいところです。 親の暮らしに関する問題とはいえ、家族として、子供の立場から、親のサポートをしていくことが大切になります。具体的には(1)リスク状況のアセスメント(2)予算確保のための選択肢の理解(3)介護予防を織り込んだ予算内での理想の暮らしの設計、の3つの視点での知識の整理が必要になるでしょう。

コンテンツ監修

スタイルオブ東京 代表取締役 藤木賀子(ふじき・よしこ)
  • 住宅ローン相談件数2,000件、住宅取得個別相談1,000件の実績。保有資格:宅地建物取引士・不動産コンサルティングマスター
25歳で建築業界に入り、いい家を追求して世界の家まで研究しましたが、結果、いい家とはお客様の価値観によって異なることに気が付き、自分が作るより、お客様の代理人としてお客様の想いを可視化・具現化・実現化することができる不動産プロデュースの道に入りました。住宅は不動産・建築・ファイナンスのバランスがとても大事です。私は住まいの最適解をともに探したいと思っています。
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この記事の監修者

a.tamemoto

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