介護保険法は、高齢化による社会保障費の増大と、核家族化の進行や介護する家族の高齢化により、家庭内だけでは対応が難しくなった介護を地域や社会全体で支えること、介護が必要な方が自立した生活が送れるように支援することを目的として、2000年4月にスタートしました。
40歳以上の方から徴収する介護保険料と、国や自治体による税金で運営が維持され、介護保険利用者は原則1割(所得に応じて2〜3割)の自己負担額で、自らが必要とする介護保険サービスを選んで利用することができるという仕組みです。
介護保険法は、3年ごとに見直しが行われることが決められており、社会情勢に合わせて最適なサービスを提供する仕組みづくりが進められています。
2000年に介護保険法が作られる前は、「老人福祉法(1963年施行)」や「老人保健法(1982年施行)」により、老人福祉・老人医療制度の仕組みが支えられていましたが、以下のような問題点がありました。
老人福祉法の問題点
対象となるサービス | 問題点 |
特別養護老人ホーム
ホームヘルプサービス デイサービス 等 |
|
老人保健法(老人医療)の問題点
対象となるサービス | 問題点 |
老人保険施設
療養型病床群 一般病院 等 訪問看護 デイケア 等 |
|
出典:厚生労働省 老健局「日本の介護保険制度について」(2016年)
このような問題点から、老人福祉・老人医療制度の対応には限界があると判断され、「自立支援」「利用者本位」「社会保険方式」の理念を取り入れた新しい制度が誕生することとなります。
まず、両者の大きく異なる点として、制度を支える運営費の仕組みを見てみましょう。
利用者から見た従来の制度と介護保険制度の違い
従来の制度 | 介護保険制度 |
行政窓口に申請し、市町村がサービスを決定 | 利用者が自らサービスの種類や事業者を選んで利用 |
医療と福祉に別々に申し込み | 介護サービスの利用計画(ケアプラン)を作って、医療・福祉のサービスを総合的に利用 |
市町村や公的な団体(社会福祉協議会など)中心のサービスの提供 | 民間企業、農協、生協、NPOなど多様な事業者によるサービスの提供 |
中高所得者にとって利用負担が重く、利用しにくい | 所得にかかわらず、1割の利用者負担
(※法改定により、2015年に一定以上所得者は利用負担は2割に、2017年には高所得者の利用者負担は3割に) |
出典:厚生労働省 老健局「日本の介護保険制度について」(2016年)
介護保険制度は、2000年の施行から現在まで、3年ごとの改定が行われています。
制度の開始以来、どのような改定が行われてきたのか、その歴史と主な改定内容を紹介していきます。
第1期
1997年公布 |
|
第2期
2005年公布 |
|
第3期
2008年公布 |
|
第4期
2011年公布 |
|
第5期
2014年公布 |
|
第6期
2017年公布 |
|
第7期
2020年公布 |
|
出典:厚生労働省 「介護保険制度の概要」、2005年 厚生労働省「平成17年介護保険法改正」、2008年 厚生労働省「平成20年介護保険法改正」、2011年 厚生労働省「平成23年介護保険法改正」、2014年 厚生労働省「平成26年介護保険法改正」、2017年 厚生労働省「平成29年度介護保険法改正」、2020年 厚生労働省「令和2年介護保険法改正」
2021年に施行された直近の介護保険法改定では、「地域共生社会の実現のための社会福祉法等の一部を改正する法律」として、様々な対策推進・強化が行われました。改定された大きなポイントは、地域で高齢者を支えていくことに重点を置いた、以下の4つです。
|
では、改定内容を、具体的に見ていきましょう。
現在、地域包括支援センターは、高齢者や障がい者の介護や医療、保険、福祉に関する相談窓口として大切な役割を担っています。
2021年の介護保険改定では、すでに行われている高齢者の相談支援の取り組みを活かし、地域住民を幅広く支援していくために、属性や世代を問わず、高齢者、障がい者、子ども、生活困窮者の「相談支援」「参加支援」「地域づくりに向けた支援」を実施できる新たな事業を創設することとなりました。
例えば、要介護の高齢者の方を抱える家庭において、育児や生活困窮などの問題が同時に生じてしまうケースがあります。従来は、介護と育児と生活困窮は全て異なる窓口となっており、連携も手続きも困難でした。こういった問題が複合化した場合でも、地域包括支援センターが役割の幅を広げ、総合窓口として地域住民をサポートしていくことができる仕組みが推進されたのです。
2025年と2040年の高齢化が進む将来を見据え、認知症施策や介護サービスのさらなる増加・多様化への取組を進める内容も盛り込まれました。
2025年までに、認知症サポーターを中心とした地域支援を繋ぐ仕組み(チームオレンジなど)を整備した市町村数100%を目指すとされています。
そのほか、地域における認知症の方への支援体制整備、認知症の方と地域住民の方の地域社会における共生なども認知症施策として挙げられました。
また、介護基盤を整備するために、地域の人口構造の調査や有料老人ホーム・サービス付き高齢者向け住宅の設置設置状況の把握と市町村間の情報連携を強化し、適切な介護施設の体制を整えていくことが推進されました。
現状の地域医療・介護の状況を把握し、調査分析・研究を促進することは、地域に応じた質の高い介護サービスの提供につながるとされています。
2021年の介護保険法改定では、市町村の努力義務として、医療・介護利用者の情報データ化し、医療機関や介護サービスを利用する際に活用していくことを推進しています。共有されたデータ情報から、利用者の状況をより深く理解し、医療・介護の両領域において、ニーズに合わせたサービス提供を行うことが狙いです。
今後、人材不足が深刻化する上で、人材確保や介護業務の効率化を図ることが重要となってきます。
人材不足の解消策として、有料老人ホーム設置などに関する届出事項の簡素化や、介護福祉士養成施設の卒業者の国家試験義務付けの経過措置、令和8年卒業者(改定前は令和3年卒業者)に延長することが決められました。
参考:厚生労働省「地域共生社会の実現のための社会福祉法等の一部を改正する法律(令和2年法律第52号)の概要」
介護保険法が3年ごとに改定されているのは、時代に合わせ、多様なニーズに対応するためです。
少子高齢化が進む中で、高齢者の介護需要は増加の一途をたどり、財源不足や介護を担う人手不足など、多くの問題を抱えています。
介護保険法は、このような社会的な変化に合わせて、必要な制度やサービスを提供し続けていくために改定されてます。
前述した通り、これまでにも、介護予防に重点が置かれるようになったほか、財政問題の改善、自己負担割合の改定、地域包括ケアシステムや介護サービスなど体系の確立と向上など、安心して生活するための仕組みづくりの改良が進められています。
時代の変化と共に、介護をとりまく環境も大きく変化していきます。介護保険制度の改定は、高齢者や介護を必要とする人々を守るために重要なプロセスなのです。
団塊の世代が全て75歳以上になり、それ以降、医療費・介護費の膨張圧力が一層増す分岐点の年と言われる「2025年問題」。更に、2025〜2040年の15年間において、現役人口(20〜64歳)が約1,000万人減少するとされている「2040年問題」。
介護を必要とする人口が増加する一方、介護保険制度を支える被保険者の負担が大きくなると予想されるため、介護保険法も今後を見据えた対策・改革が課題となっています。
介護保険法の改定における今後の課題として、主に以下のような点が挙げられます。
このように、介護サービスを利用する高齢者のためだけではなく、それを支える介護従事者のための環境改善や地域と密着したサポート体制、財源確保などが、改革の鍵を握ることになりそうです。
次の介護保険法改定は、2023年公布・20234年施行とされています。安心して生活を送ることができる未来のために、どのような改正が行われるのか、注目していきましょう。
介護保険制度は、時代に合わせた介護の需要と供給、それをとりまく環境変化に対応するため、2000年の施行以来、3年ごとに改定が行われています。
少子高齢化社会が進むなか、介護サービス利用者の増加、財政難、人材不足など、介護制度が抱える多くの問題を改善するために、これまでに様々な改定が行われてきました。
今後更にニーズが高まっていくと予想される、日本の介護。人口変化の分岐点となる「2025年問題」「2040年問題」の対策に向け、様々な仕組みづくりが進められています。
金山峰之(かなやま・たかゆき) 介護福祉士、社会福祉士、准看護師。福祉系大学卒業後、20年近く在宅高齢者介護に従事。現場専門職の傍、介護関連の講師業(地域住民、自治体、国家公務員、専門職向け等)や学会のシンポジスト、介護企業向けコンサルティング事業、メーカー(ICT、食品、日用品等)へシニア市場の講演などを行っている。
厚生労働省関連調査研究事業委員、東京都介護人材確保関連事業等委員など経験。
元東京都介護福祉士会副会長。政策学修士。